8
確かに昨日、僕は頑張ろうって決意した。それは認めます。
でも、この状況は流石に厳しいです…。
僕の目の前には、僕と同じようにイスに座ってテーブルについている部族の主たち。
だけど、その表情はとても友好的なものとはいえないものだ。
そして、この場に満ちている重々しい空気は更に友好的ではない気がする…。
近くに座っている悪魔は、どうしたらいいのか解らずオロオロしっぱなしだ。
なんで、こうなったんだろう…。
僕は、今日の朝からのことを思い出してみた。
昨日は、初めて使う大きなベッドでぐっすり眠れた。
緊張とかでなかなか寝付けないかと思ったけど、実際に使ってみると生前使っていた物とは比べ物にならない気持ちよさで、いつの間にか寝てしまったらしい。
僕が体を起こすと、ベッドの傍にメイド服の女性が笑顔で立っていた。けれど、僕には彼女の後ろの壁が見えている。早い話が彼女は幽霊の類らしい。昨日、悪魔から話を聞いて実際に目にした時は随分驚いた。だけど、彼女が言葉を発することはなくても僕の言葉は理解しているようで、会った時に「よろしくお願いします」と挨拶したら、にこっと笑顔で返されたのはびっくりした。
そんな彼女が服らしき物を持って立っていた。
「それは、僕の今日着る服ですか?」
と質問すると、笑顔のまま頷いてくれた。
「わかりました、ありがとうございます。」
そう言って、ベッドから出た。着ていた寝巻(どんな豪勢な寝巻が出てくるのかと思ったら、生前来ていたパジャマそっくりの物だった)の上着を脱ごうとボタンを外し始めて気が付く。
メイドさんが相変わらず笑顔のまま、ベッドの傍に立っていた。
「…すみません、着替えるので部屋から出てもらえますか……?」
そう言うと、また彼女は笑顔のまま頷いて、ドアを開けて部屋から出て行った。
彼女から見たら、僕は使える主。その主の着替えを手伝うのも、彼女たちの仕事なんだろう。だけど、今の立場に甘えないで、自分の身の回りのことや自分で出来ることぐらい自分でやらないと。
新たな自分の決め事を胸に、メイドさんが置いていった服を身に纏った。
色は、黒よりも深い漆黒といった感じだ。装飾も過度にならない程度に付いていて、着ただけでちょっと偉くなった気分になれた。まぁ実際、僕は魔王だから偉い立場には立っているのだけど。
服を着終わったところで、部屋のドアがノックされた。
「どうぞ~。」
と、僕が声をかけると、入ってきたのは悪魔だった。
「おはよう…よく眠れた……?」
「はい、お陰様でゆっくり眠れました。」
「それは…よかった……。食事が…準備されているから…私についてきて……。」
そう言って、悪魔が歩き出したので、僕もそれについていく。
悪魔の後を追って入った部屋は、とても広く大きなテーブルが置かれていた。その上には、食器などが準備されていて、周りには先ほどのメイドさんと全く同じ顔のメイドさんが給仕の為か何名か侍っていた。
僕が席に着いたと同時に、スープやパンなどが運ばれてきた。出てくるものは、基本洋食のようだ。味も
美味しく、朝からかなり食べてしまった。まぁこの後、顔見せも控えているし、しっかり食べてる分には問題ないだろう。
食事も終わり、一息ついていたら、
「貴方が…大丈夫なら…このまま宣誓の儀を…始めるけれど…どうする……?」
と、席に着いている悪魔が聞いてきた。どうやら、ここは会議室的な場所としてもあるらしい。
「僕は大丈夫です、始められますよ。」
「わかった……。」
そう言って、目を閉じる悪魔。
そして、悪魔が目を開いたと同時に、僕の前にあった五つの空席に「何か」が現れた。
あまりに突然のことに驚いた僕、声を上げなかった自分を褒めてあげたいぐらいだ。
なんとか落ち着きを取り戻しながら、現れた「何か」に目を向ける。
そして、また声を上げそうになった。
そこにいたのは、唸りをあげながら僕を睨んでいる狼男、青白い顔に微笑みを浮かべている黒マントの美男子(女子?)、椅子に座らずテーブルの上にふわふわと飛んでいる小さな妖精、額から角を生やし口から火の粉が出ている真っ赤な服の女性、真っ黒なとんがり帽子と同じく真っ黒なローブを身に着けて木の杖を持っている女性と、今まで見たこともない存在だった。