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悪魔の話だと、僕らが所有している領地は大した広さじゃないのだろう。であるなら、今僕が真っ先に考えるべきは領地の拡大だ。
だが、それを行うには避けて通れない問題が一つある。
僕は力での征服はする気がない。これは絶対に曲げるつもりのない考えだ。
力にものを言わせてこちらに服従させたところで、その先に待つのは相手との不和、そして決裂だ。
でも、そうすると領地は増えない。これじゃ堂々巡りだ。
じゃあどうするか。
簡単だ、領地を増やさなければいい。
領地として増やすのではなく、経済流通対象として相手と交易を行えばいい。そうすることによって、相手と不必要な対立を生まないで、こちらの今の経済状況を変えることが出来るはずだ。少なくとも、今よりは状況を改善出来るだろう。
悪魔から聞いた話だと、現在の僕らの領地内の経済状況は芳しくないらしい。それぞれの土地で作ったものを、内々で売り買いをしていたらしく、犬猿の仲である天使たちは兎も角、人間たちとの付き合いも殆どなかったようだ。
まぁ、確かに昔争っていた相手とすぐに交流を持てと言われても、そう簡単にはいかないだろう。
だが、これからはそうも言っていられない。こちらには、もう戦闘を行う気も支配する意思もないのだから、相手にもそれを解ってもらえれば、共に歩むことは可能なはずだ。
付近の村や町から少しずつ交流を深めていき、最終的に『魔族にこの世界を支配する意思はない』と世界に認識させる。これが僕の目標だ。
さて、とりあえず自分の行動方針は決まった。決まったのなら次は行動だ。
「すみません、僕の魔王としての方針は決まったんですが、これを魔族全体に伝える方法はありますか?」
僕は悪魔に尋ねた。
悪魔は暫く眉を寄せて、考えているような顔を浮かべていたが、すぐに元の表情に戻ると、
「各部族の…主たちを集めて…その前で…魔王として…宣誓をしなければ…ならない……。その時に伝えれば…魔族全体に…伝えることが出来る…と思う……。」
つまり、僕自身のお披露目みたいなことをしなければならないから、その時が狙い目ってことか。
確かに、それは話をするのにうってつけの場だ。折角の顔合わせなんだし、自分の方針はしっかり伝えるべきだろう。
「わかりました、それはいつ行うんですか?」
「貴方が…大丈夫なら…明日にでも行える……どうする…?」
伝えるべきことは考えてあるし、こういうことは早めに済ませたほうがいいよね。
そう思いながら、悪魔に頷く。
「じゃあ明日でお願いします。」
「わかった…。各部族の主に伝える……。」
そう言ってから、悪魔は目を閉じた。
しばらくして、また目を開く。
「終わった…全ての部族が…参加の意思を示した……。」
「今の一瞬で伝えられたんですか?!」
「?……うん……。」
不思議そうな顔を浮かべる悪魔。
流石というか、やっぱり異世界なんだなぁ…。わかってはいたつもりだったけど、こう目の前で、今までの常識では考えられないことが起きると、ここが異世界なんだと思い知らされるなぁ…。
だけど、今は僕もその異世界の住人なんだ。早く慣れるように頑張っていかないと。