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悪魔とともに邪神の部屋を後にして、左に曲がって階段を昇り右に曲がってまた昇り……。
行きにも思ったけど、やっぱり一人で来るのは無理だ。絶対に遭難してしまう。
そんな情けない確信を持ちながら悪魔について歩いていると、やっと僕等が最初にいた部屋に戻ってきた。
「ここは、さっき僕等がいた部屋ですよね。」
「そう…。此処が…魔王の…貴方の部屋……。」
話しながら、悪魔がドアを開ける。
さっき目覚めたときは、悪魔との話や邪神からのコンタクトでゆっくり部屋の中を見回す余裕なんてなかったけど、改めて見てみると随分と広い部屋だった。内装を一言で表すならアニメやゲームに出てくる『貴族様のお部屋』って感じだ。立派な絨毯に、これまた立派でしっかりした造りのような机と椅子。ベッドも、三人は余裕で眠れるのではないかというぐらい大きいものなのに、なんと天蓋付きだ。
元の世界で、ただの一般人として生活してた僕には、とても縁のなかった家具が所々に設置されていた。
「すごい立派な部屋ですね~。」
と、僕が思わず呟くと、
「これでも…歴代の魔王が…使用した部屋に…比べると…かなり質素…。貴方に…気に入られないのではと…とてもドキドキ…していた……。」
え?これで質素??
「今までの魔王たちは、皆そんなに贅沢三昧だったんですか?」
「三昧というか…昔は…支配地域が広かった分…収入も多かった…。だけど…今の私たち魔族は…三大勢力の中で…一番……弱い………。」
悪魔は、とても言い難そうに話し始めた。
昔は、邪神も積極的に歴代魔王の領地拡大に介入し、その支配力を絶対のものにしようと画策していたらしい。魔王たちも、領地が広がればその分贅沢な暮らしが出来ることもあり、進んで邪神と協力するものが殆どだったとのことだ。
ところが、ある日突然邪神が『自分は第一線からは退く。もう二度と、支配領地拡大には介入しない』と宣言したらしい。
驚いたのは魔族たちだ。それもそうだ、自分たちの絶対の後ろ盾であった神が、もうあとは好きなようにやれと丸投げにも等しいことを言ったのだから。
当時の魔族の主だった者が、邪神へ退いた理由の説明を求めても戦闘への復帰を懇願しても、全て突っぱねてあの深い深い地の底にある部屋からは出ようとはしなかったらしい。唯一、悪魔に対してだけは例外だったらしいが…。
そんなこともあり、今まで拡大し続けた魔族領地は、その日を境に減少の一途を辿り、今ではこのサタニア城周辺の限られた土地を残すのみとなったと。
つまり、今魔族は三勢力の中で一番の弱小になっている。そのため領地を維持することも出来ず収入も少ない。だから節約出来るところはどんどんしていった結果、昔ほどの豪華な部屋は用意出来なくてそれに悪魔は不安を感じていたと。
「なるほど、それはちょっと思っていたよりも困った状況ですね。」
僕は少し考えこむ。僕の顔を見ていた悪魔が、不安そうな悲しそうな表情を浮かべる。
そんな顔しなくても大丈夫ですよ。
「だけど…」
そう言いながら、僕は悪魔に笑いかける。
「とてもやり甲斐がありそうですね。これからが楽しみになりました。」
やらないといけないことは沢山あるようだ。だけどそれは、逆にいえばやり甲斐があるってことだ。解決方法だってこの世界の考え方に囚われないで、使えるなら元の世界のやり方を用いてみるのもいいかもしれない。それこそ、生まれ変わりであることを最大限生かせるというものだ。
折角得られた第二の生なんだ、出来ることを一生懸命にやりながら自分の思うように生きてみよう。
そう思いながら、僕は早速これから何をしていけばいいかの思案を始めた。