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 この異世界の名は『アーク』というらしい。そして、今僕らがいるここはサタニア城。魔族の長であり、これからは僕がその存在となる、魔王の居城なんだと悪魔は説明してくれた。

「世界には…私たち魔の存在…人間…そして聖なる存在…合わせて、三つの種族が…生活している……。そして…私たちと人間たちは地上で…生活している……。」

「天使や神たちは何処に?」

「彼等は…空の上にいる……。私たちも…詳しい場所までは…わからない……。」

 成程、さすがは神様、住んでいるのも空の上なのか。

「他に…聞きたいことは……?」

「そうですね、それじゃあ…」

 と、僕が言いかけた時、

『それよりも、儂のところに顔を見せに来ぃや~。』

 なんか頭の中に声が割り込んできた。

 悪魔に顔を向けると、若干残念な感じの表情を浮かべていた。

「今のは…?」

「今のが…邪神様…。昔は…偉大な方だったようだけど…今はただの…残念なお爺ちゃん……。」

『聞こえとるぞぉ~。早くそいつを案内してこい~。』

 どうやら、こっちの話していることは向こうには筒抜けらしい。悪魔の顔が少し青ざめていた。

「…ごめんなさい……先に…邪神様のところに…案内する……。」

「わ、わかりました。お願いします。」

 あんな顔した悪魔を見たら、これ以上他のことを聞きだすのは出来なかった。

 先導して歩き出した悪魔、それについて行く僕。元いた場所を出て、階段を下りては左に曲がり、また下りては右に曲がり。もう何度下りて曲がってを繰り返したかわからなくなっていた。

 これは、もう自分一人で元の場所に戻るのは絶対無理だな…。

 そんなことを思いながら歩いていると、目の前にそれはもう大きな扉が現れた。

「着いた…。ここが…邪神様の部屋……。」

「ここ、ですか?」

 こんなに大きい扉の部屋にいるなんて、どれだけ大きいんだ、邪神様?

「邪神様って、ずいぶん大きな方なんですね…。」

「…?普通だと…思うけど……。」

 そう言いながら、目の前の扉…の隅にある普通サイズのドアを開く。

 えぇ、そっちですか~。

 何なんだろう、このものすごい脱力感。僕の感じたワクワク感を返してほしい。

 ぐったりしながら、悪魔に続いてドアを抜けて中へと入る。入ってさらに脱力した。畳にちゃぶ台、載っているのは湯呑に急須。ものすごく和風な雰囲気だった。

 なんとなく気分が落ち着く気がするのは、元日本人だからだろうか。

 そして部屋の中央には、一人の老人が座布団に座っていた。

「よぉ来たの~、新たな魔王よ。儂が邪神と呼ばれているものじゃ~。これからよろしく頼むぞ~。」

 ニコニコと笑いながら僕に声をかけてきた。なんというか好々爺って言葉がぴったりな感じだ。邪神なのに好々爺…まぁ深く考えないでいよう。

「初めまして、僕は加藤 正義です。これから魔王として頑張っていきますので、よろしくお願いします。」

 そう言ってお辞儀をした。

「ほぉ、きちんと礼儀を弁えているの~。良きかな良きかな、ほっほっほ。」

 …ますます名前と雰囲気が合わないなぁ。

「邪神様…新たな魔王について…聞きたいことがある……。」

「おぉ、なんじゃ~?」

 悪魔は、僕をちらりと見てから、

「歴代の…魔王たちと違って…今代の魔王には…身体的特徴の変化が…見られない……。なにか…知っていることは…ある……?」

 僕の身体について邪神に尋ねた。

 そうか、悪魔にわからないことも、邪神なら何か知っているかもしれない。そう思い、期待の眼差しを邪神に向ける。

「ふむ…儂も、今まで何人もの魔王を見てきたが、お前さんのような元の外見から全く変化のない魔王は初めてなんじゃ…。すまんのぉ。」

 と、申し訳なさそうな顔つきになる邪神。

「そうですか…。ありがとうございます。」

「いやいや、ほんとにきちんとした者じゃ~。気に入ったわぃ!何かあれば気軽に儂のところに来なさい~。」

 またニコニコ顔になる邪神、随分と気に入られたようだ。邪神という肩書がなければ、心から嬉しいところなんだけど…。

「それじゃあ…次はこの城の中を…案内する……。邪神様…これで失礼します……。」

 そう言って、悪魔が邪神に頭を下げてからドアに向かって歩き出す。

「わかりました、では失礼します。」

 僕も邪神にお辞儀して、悪魔を追う。

「おぅ、いつでも気兼ねなく来るといいぞ~。」

 という邪神の言葉を背に受けながら、僕らは部屋を出た。




 部屋から出ていく悪魔と新人魔王の背を見送りながら、邪神は考えていた。

『確かに、外見の変化は全く無いが、中身の変化は凄まじいものがあったのぉ…。今までのどの魔王よりも、秘めている力やポテンシャルは断トツに高いようじゃ。これは、ひょっとしたらひょっとするかもしれないのぉ……。』

 そんなことを思いながら笑う邪神の顔は、

 やはり人の良いおじいちゃんといった感じの穏やかなものだった。


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