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……あれ?

おかしいな、二人とも何も答えてくれない…。

「あの…今、なんておっしゃいました?すみません、ちょっと聞き間違えてしまったようなので、もう一度お願いできますか?」

と、やっと天使が僕に声をかけてきた。

あぁ、聞こえなかったのか。じゃあ、もう一度言ってあげなきゃ。

「ですから、僕は魔王の道を選ぶと…」

「何故ですか!!?」

僕が話している最中に、天使が問いかけてくる。その顔は、とても信じられないものを見る顔つきだ。

「あなたの生前の積み重ねてきたものを考えれば、勇者としての道を選び人々のためになることをするのが当然の選択じゃないのですか!!?」

「まぁ、確かにそうかもしれないですけど…」

どうしよう、天使は僕の選択に納得してくれている気配がない。悪魔も、声は出さなくても驚愕のあまり口が開いちゃってる。

「理由を…理由を聞かせてください!何か、私の説明に足りない部分があったのなら、ちゃんと説明しなおします!さぁ!!」

天使が詰め寄ってくる。理由…理由か…。

「えっと、確かに僕は生きている間に善行を積んできたと思います、あまり自分で意識してはいなかったですけどね。そのおかげでここにもいることが出来るわけで、そう考えれば次の生き方でも人の為にって選択は当然だと思います。」

「なら!!」

「でもですね、それが行き過ぎちゃった結果、僕はこうやって死んでしまったのもまた事実なんです。勇者として戦ってこの身を捧げていたら、また同じことを繰り返す気がするんです。」

天使が黙り込む、ついさっき言った自分の言葉を用いられたからか、すぐには反論できないようだ。

「あと、もう一つ選んだ理由は…」

と、話しながら視線を天使から悪魔に向ける。悪魔は自分に目が向いてきたので、また少し赤くなっていた。

「先ほど、あなたは今の邪神にも魔族にも世界を支配する意思はない、そう言いましたよね?その言葉に偽りはないですよね?」

「…ない、邪神様に誓って嘘は吐いていない。」

邪神に誓われても、ちょっと信憑性に欠けるんだけどなぁ…。まぁ自分の信じている神様に誓っているのだから、信じてもいいかな。

「ということは、魔王になったとしても人を傷つけるようなことや、苦しめるようなことをしなければならないっていう制限はないってことですよね?」

僕の問いに、悪魔は無言で首を縦に振る。

「それの何処が理由になるのですか!?」

天使が黙っていられずに僕に声をかけてきた。

「つまり、勇者として転生したらその後にすべきこと、やるべきことはすでに決まってしまっているんです。だけど、魔王として転生すれば自分の意志でやることを決めることが出来る。生まれ変わることが出来るなら、僕は自由に生きたいんです。それが魔王を選んだ理由です。」

「そ…んな…ことで……?」

「そんなことじゃありません、僕にとってはかなり重要なことです。」

そう、僕にとってこれは相当重要なことだ。やりたいことはまだまだあった、でも勇者として生きたらそれが出来るかはわからない。いや、出来るかもしれないけど、それ以外のやることや生き方を他人に強制されながら生きていくのは、生きているとは思えない。

だけど、魔王として生きていけば自分のやりたいこと、したいことをすることが出来る。今度こそ、やり残したことがないように生きることが出来る。

僕はそう思ったから、魔王としての道を選んだんだ。

「…………………」

天使は黙って俯いている、その表情は僕からは見えない。

わかってくれた…のかな?

そう思って、声をかけようとしたとき、

「…あはっ」

…あは?

「あはははははははははははっ!!!!!!!」

突然、天使が大きな笑い声を上げ始めた。突然すぎるうえに、ちょっと…いや、かなり怖い。

「あ~、腹いてぇ!こんだけ笑ったのは初めてだ!!お前みたいな可笑しい奴を見たのも初めてだぜっ!!!」

「え~っと…」

天使さん、キャラが崩壊していますよ??

「あ?なんだよ、なんか文句あんのか?今更いい娘ちゃん面してる意味なんかねぇだろ?それにあれ、肩凝るんだよな。あ~、楽になった!」

微笑み、という言葉には程遠い獣のように歯をむき出しにしながら天使が笑った。

あぁ、これが地なんだ…。最初の様子とは天と地ほどの違いだ、詐欺に近いのではないだろうか。今度はこちらが何も言えず、ぽかんとしてしまった。

「まぁ、あんたがそっちの真っ黒地味子のほうを選ぶなら勝手にすりゃいいさ。あんたが心からそう決めたなら、あたしにはもうどうにも出来ないからな。だけどな、一つだけ忠告しといてやるよ、あんだけ笑わせてくれた礼だ。」

「…なんでしょう?」

僕が聞くと、天使はまた凶悪な笑顔を作りながら、

「どんな世界でも『魔王』って存在は、恐怖の象徴だ。そして人々はその恐怖を打破するために必ず動く。お前、いずれ必ず殺されるぞ?」

楽しくて楽しくてしょうがないって顔で答えた。

本当に、天使なんだろうか…。彼女のほうが余程悪魔っぽくみえる…。

でも、確かに言う通りだ。僕がやったRPGゲームでも、読んでいた本でも『魔王』って存在は最後は必ず倒される。そして世界は平和になりました、ハッピーエンド。これが王道で正道だ。

だけど…

「だけど、それをどうにかするのも楽しいと思いませんか?それに一人ぐらい、人とともに生きようとする魔王がいたっておかしいことじゃないと思いますよ。」

「…はっ!ほんとにおめでたい奴だな、お前!それじゃああたしは、お前がどう生きていくのか高みの見物とさせてもらうか。じゃあな。」

そう言いながら、天使は消えていった。一応、僕の答えには満足してくれたようだけど、見物って言ってたよね…。僕、生まれ変わったら天使に見られながら生活するの?それはちょっと嫌だなぁ…。

そんなことを考えてどんよりしていたら、悪魔が僕の袖を躊躇いがちにつまんできた。

「ほんとに…私と、来てくれる…の?」

赤い赤い、顔が真っ赤だ。

「はい、そういえば、あなたは僕が魔王になってからも近くにいてくれるのですか?」

と僕が問うと、悪魔は顔を縦に振った、振りまくった。そこまで勢いよく振らなくてもと思い、苦笑してしまう僕に、

「…?」

悪魔が首を傾げてくる。はっきり主張はしないけど、コロコロ表情や態度が変わって面白い娘だな。

「なんでもありませんよ。それじゃああの扉を通っていけばいいんですよね、行きましょうか。」

そう言って悪魔の手を取る。彼女は小さく「ひゃぅっ!?」と声を上げた、やっぱり面白い娘だ。

そして、

僕は彼女とともに、黒い扉をくぐった。






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