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 集中のために閉じていた目を開いたとき、僕の視線の先にはサーロスの町の入り口があった。どうやら、魔法は無事に成功したらしい。

 今までは、魔法を使う度にけだるさを感じていたが、今の僕はそんなものは微塵も感じていなかった。きっとペンダントの『魔力増強』のおかげなのだろう。今はまだ、効果が発揮されてはいないが、他の三人の付与効果も、きっとこれから先の助けになってくれるはずだ。また、ベースとなっている魔鉱石は『アダマンタイト』と呼ばれる魔力との相性が良いうえに、この世界でも随一の頑強さを誇る鉱石らしい。その中でも特に高純度な物を探し出してきて使用しているから、なにが起きようと壊れることは絶対に有り得ないと、ワーウルフ妹は顔を赤くしながら一生懸命に僕に説明してくれた。

 本当に、みんなにはお世話になりっぱなしだ。帰ったら、もう一度ちゃんとお礼を言わないと。ペンダントを触りながら、僕はそう考えた。

 だが、とりあえず今は思考を切り替えないよう。これから一人だけで、敵地の真っただ中に入り込もうというのだから。

 僕は気持ちを新たにしながら、町の入口へと近づいていった。



 町は全体を石壁で囲んでいて、部分部分にある中への門には武装した門番が張り付いていた。

 ペンダントの『身体能力向上』や、『魔力増強』で強化した飛行魔法を使えば飛び越えることも出来るかもしれないが、バレてしまったら後々問題になってしまうだろう。

 じゃあ、門番を上手く昏倒させて門から入ってしまうか?いやいや、それこそ大問題になってしまう。

 それなら、どうやって中へ入るか…。悩んだ僕の出した結論は、

「すみません、町へ入りたいんですけど、どうしたらいいですか?」

 しかめっ面の門番に聞いてみることにした。

「町へ入りたいのか?それなら通行料として、銀貨を一枚徴収している。支払えるなら、ここは通してやれるぞ。」

 お金が必要なのか。幸い資金は貰っているが、あまり多くはない。今の魔族は、正直貧乏だからね。だからと言って、ここで渋っていて不審に思われても後が大変そうだし。背に腹はかえられないか。

 そう結論づけて、僕は懐から銀貨を一枚門番に渡した。

「よし、通っていいぞ。サーロスの町へようこそ。」

 銀貨を受け取った門番は、しかめっ面のまま門を開けてくれた。

 …ようこそって言うなら、少しは笑えばいいのに。

 そんなことを内心思いながら「どうも」と門番にお礼を言って、門を潜って町へと歩を進めた。

 町の中はというと、至って普通の町だった。

 私設軍があるという話だったから、もっと堅苦しい空気でピリピリした感じなのかと勝手に想像していたが、通りを歩いている人や露店を営んでいる人など、みんな笑顔で楽しそうだ。

 先のほうを見てみると、周りよりも一際大きな建物が見えた。あれがここの領主の住んでいる場所だろか?

「ごめんなさい、ちょっと良いですか?」

 すぐ近くにいた露天商らしき老人に声をかけた。

「ん?なんじゃ、若いの。何か買ってくれるのか?」

 老人は、僕の顔を見ながら期待の眼差しを向けてくるが、生憎僕はそこまで持ち合わせの余裕がない。

「あ~、今はちょっと…。それより聞きたいことがあるのですけど、いいですか?」

「なんじゃい、しけとるの~…。で、何を聞きたいんじゃ?」

 老人の顔が落胆したものに変わるが、どうやら質問には答えてくれるらしい。

「ここの領主様の家は、あそこに見える大きな建物でいいんですか?」

 そう言いながら、僕はさっき見つけた建物を指差した。

「あぁ、そうじゃよ。あれが、このサーロスの町の領主であるクラージュ様のお屋敷じゃ。」

 やっぱり。あれが僕の目的地で間違いないらしい。

「ありがとうございます、もう一つ聞いてもいいですか?このサーロスには、対魔族用の私設軍があるって聞いたんですけど…。」

「お前さん、買ってくれんのに色々聞いてくるの~…。確かに、ここにはクラージュ様がお作りになった私設軍がある。あるにはあるのじゃが…。」

 老人は、言い難そうに語尾を濁す。

「けれど…?」

 僕が先を促すと、周りを確認しながら小さく手招きをしてきた。顔を近づけろってことかな?

 とりあえず顔を近づけると、向こうも僕のほうに身体を傾けながら小さな声で話し出した。

「今、軍の責任者をしているバンディという男が、かなり問題のある奴でな。もともとはクラージュ様の指示のもとにあった軍を、言葉巧みに独立化させてしまいおった。そのせいでバンディと共に軍入りした者や、クラージュ様に不満を持っていた者が町中で好き放題し始めての…。クラージュ様も何とか収めよう頑張っておられるのだが、なかなか上手くいかなくての…。」

 …最初は平和そうな良いところだなぁって思ったけど、やっぱりこういう黒い部分は、どこにでもあるものなんだな。

「…ほれ、噂をすればじゃ。お前さん、早く向こうに行きなされ。このままいると、奴らにえらい目にあわされるぞ。」

 老人が見つめる先から、鎧を纏った男が数人こちらに向けて歩いてくる。

 周りの町の人は、その男たちに気づくとさっきまでの笑顔がなくなり、みんな顔を伏せて目を合わせないようにした。

「ほれ、さっさと行かんか…!」

 老人に強く言われ、僕は近くの建物の陰に隠れた。そこからそっと覗き込むと、先ほどの男たちが三人がかりで老人の露店を囲んでいるのが見えた。

「おぃ、じじい。今の奴は何だ?」

 中心に立っている頬に傷のある男が、老人を睨みつけながら声をかけている。

「旅の者じゃろう。何も買わずに行ってしまったわい、しけた奴じゃよ。お前さんらは、なにか買ってくれるのか?」

 老人は目を伏せながら、惚けたように答えた。それを聞いた右側のスキンヘッドの男が、売り物をおもいっきり蹴っ飛ばした。

「ふざけんな!誰がこんなしみったれた物を買うか、バ~カ!」

 …堪えろ、今トラブルを起こすのは危険すぎる。

 握り拳を作りながら、僕は自分に言い聞かせた。

「おぉ、困ったのぉ。せっかくの売り物をそんな風に扱われては…。ちゃんと弁償してもらわんと。」

 壊された商品の残骸を回収しながら老人がぼやいていると、左側にいたモヒカンの大男が無言のまま老人の服の襟を掴んで、片手でその身体を宙に浮かせた。

「なんじゃ、こんな老いぼれを苛めたところで一銭にもならんじゃろ…。」

 苦しそうな顔をしながらも、惚けた口調を止めない老人。そんな老人に、先ほどより鋭い眼差しを向けながら傷の男が答える。

「いや、見せしめには十分さ。俺たちに逆らう奴がどうなるか、周りの奴らにお前の命で教えてやってくれよ。」

 傷の男が言い終わったと同時に、モヒカン男が空いている片手を握りしめ、老人の顔へと放つ。

 ……もう我慢の限界だった。

 僕は、建物の陰から飛び出し、次の瞬間には既にモヒカン男の拳を止めていた。自分では、ちゃんと動きを認識出来ているが、周囲の人からしてみたら突然僕が現れたように見えたんだろう。みんな、僕を見ながらポカンとした顔をしている。唯一違う顔をしているのは、自分の拳を片手で止められたことに驚愕しているモヒカン男ぐらいだった。

 ちなみに、僕は今ペンダントの『身体能力向上』を使った…と思う。というのも、こいつ等の暴虐無人な振る舞いに頭にきたので、意識して発動させたのか今一自信がないのだ。ただ、元の世界で鍛えていたとはいえ、こんな大男のパンチを片手で止められるような力はなかったので、きっと発動したのだろう。そうじゃなきゃ、僕は今頃吹っ飛んでいるだろうし。

「…お前、さっきの旅の者か。どういうつもりだ?」

 いち早く立ち直った傷の男が、僕を睨みながら詰問してきた。

「あなたたちの行動が目に余ったもので。ほうっておけないんですよね、こういうの。とりあえず…」

 そう言いながら、拳を受け止めている手に力を入れて、相手の腕を軽く捻る。

「…!!?」

 モヒカン男が突然悶え始める。その姿を見て、ギョッとする残りの二人。そんな光景を見ながら、

「その老人を、下ろしてあげませんか?」

 笑顔で三人に提案した。

「…わかった。おい!」

 傷の男がモヒカン男のほうを向くと、彼はすごい勢いで何度も頷きながら老人をそっと下ろした。

 こちらの言い分を聞いてくれたのだから、もう大丈夫かな。

 そう思いながら、捻っていた腕を解放してあげると、モヒカン男は僕が捻っていた腕を庇いながら、僕からすごい速さで離れた。少し涙ぐんでいるっぽい。やり過ぎたかな…。

 そんな嫌な気分になっている僕に対して、スキンヘッドが、

「てめぇ!よくもやってくれたなぁ!?」

 叫びながら、腰に差している剣の柄に手を伸ばそうとする。しかし、

「やめろ!!!」

 傷の男の鋭い静止の声を聞いて、スキンヘッドの動きが止まる。

「しかし!!」

「…やめろ、と言ったんだ。三度目はない。」

 尚も食い下がろうとするスキンヘッドに対して、傷の男は冷ややかな目を向けながら冷静に答えていた。が、その答えを聞いた瞬間、スキンヘッドの男の顔色が激変し、怒りで真っ赤になっていたのが真っ青になった。どうやら、自分が相手の逆鱗に触れかけていたことに気が付いたらしい。

 途端に剣から手を放し、直立の姿勢をとるスキンヘッド。その隣では同じく顔が真っ青になっているモヒカンが直立になっている。

「…今回はこちらが下がろう。だが、次はこうならないことを肝に銘じておけ。」

 そう言いながら、傷の男はこちらに背を向けて立ち去って行った。その後を残りの二人が足早に追っていく。

 三人の姿が完全に見えなくなったところで、やっと身体の力が抜けた感じがした。

 つ…疲れた…。すごい疲れた…。

 あまりの疲労感に座り込みたくなるが、そうもしてられない。僕は老人に近寄って声をかけた。

「大丈夫ですか?どこか、痛むところとかは?」

 座ったままの老人は、ポカンとした顔で僕を見上げるだけで、なかなか返事がない。

「あの…大丈夫ですか?」

 もう一度、声をかけるとはっとした顔をして、

「お前さん!大丈夫か、腕とか何処も変な所はないのか!?」

 逆に僕が心配されてしまった。

「いえ…僕は大丈夫ですけど…あなたは大丈夫ですか?」

 質問に答えながら、再度聞いてみた。

「あぁ、儂ならどこも問題ないわ。お前さんのおかげじゃの。」

 特に問題はないようだ。それなら良かった。とりあえず、座り込んでいる老人を立たせようと僕が手を伸ばす。その手を老人が掴もうとした。

 その時だった。

「爺ちゃんに、なにしてんだお前~~!!!!!」

 後ろから、もの凄い大声が聞こえたかと思った瞬間、後頭部にこれまたもの凄い衝撃を受けた。

 そして、僕の意識は吹っ飛んでしまった。


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