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森の中

作者: みどりむし

♪1

 夏の太陽がじりじりとアスファルトを焼いている。路面から立ち上る正体不明のモヤが行く手の景色を歪ませていた。帰省ラッシュの道路は上空を流れる入道雲よりものろまだった。俺はぼんやりした頭で帰省ラッシュについて考える。なぜみんな同じ時期に一斉に帰ろうとするのだろうか。もう少し時期をずらして別々に……。いやそれが出来れば苦労しない。都合というものがある。サラリーマンの夏は線香花火よりも短いのだ。俺は少しイライラしながら、首筋にできた虫さされを掻いた。そうか……太陽だ。それは太陽のせいだ。暑い太陽の光を頬に浴びながら俺は妙に得心がいった。

 隣の車線には深緑色のセダンが走っている。運転席に父親、助手席に母親、後部座席に小学生であろう姉弟が退屈そうに座っていた。御多分にもれず実家に帰省するのだろう。自分にもこの姉弟と同じように祖母の家に連れて行かれたのを思い出した。それはいつも決まって帰省ラッシュと重なったのだった。

 ***

 俺は都内の私立大学に通う大学生だ。他の大学生と同様、本分である勉強はそこそこに、サークル活動やアルバイトで忙しく過ごしていた。至極ありふれた学生である。しかし俺にはちょっとした頭痛の種があった。

 俺の所属するサークルは所謂飲みサーであり、頻繁に飲み会が催されるのだが、同じサークルの先輩が事あるごとに一発芸を強要したり、いじめに近いような「いじり」をしてくるためほとほと困っていた。前回の飲み会では大勢のメンバーの前でズボンとパンツをずり降ろされ、一生モノの恥をかいた。

 そんな嫌な思いをしながらもサークルをやめずに続けているのは、同じサークルに好きな人がいるからだった。彼女の前で醜態を晒すのは死ぬよりも辛いことだったが、サークルを辞めてしまったらもう彼女との接点が永遠に失われてしまう気がしていた。板挟みに苦しみながらもずるずるとサークルを続け、気がつくと大学二度目の夏休みになっていた。

 大学生の夏休みと言えば、青春真っ只中という感がある。モラトリアムによる開放感と成熟した肉体を持て余した若人たちがみな思い思いの場所で思い思いの人々と一夏の思い出を築いていく。俺のサークルでも例に漏れず夏休みを謳歌しようと毎年恒例の夏合宿がある。合宿といっても、ただ飲んだり騒いだりするだけなのだが。合宿というのはあくまで口実にすぎないのだ。

 しかし今回俺は合宿に参加しないことにした。それは例の先輩がいるからかもしれないし、例の彼女が参加しないからかもしれない。あるいは俺には休息が必要なのかもしれないと思った。都会の喧騒から離れストレスから開放された生活を送る必要があると無意識的に感じていた。頭で考えるのではなく自然とそういった欲求が湧きだしてきたことを考えると知らず知らずのうちに追い込まれていたのだろう。

 幸い、俺にはそのような目的にぴったりのサナトリウムがあった。

 岐阜県にある祖母の家である。祖母の家は濃密な森の匂いだけが自慢の田舎、山中の村の一角にある。全く無名の村なのでその存在は県民でも知らない人が多いが、夏の避暑地としては優秀で真夏でも30度を超えずに済むのが売りである。「祖母の家」と言っても祖母は五年前にこの世をさり、現在は誰も住んでいない。家の近所にいる親戚が月に一度掃除に来てくれるらしく、家は綺麗に保たれているという。

 俺は夏休みが始まるとすぐにアルバイト先から休みをもらい、父親の車を西に走らせた。

 ***

 ようやく車が流れだした。同時に頭に登った血も下に降りてきたようだ。クーラーを止め、少し窓を開けた。轟音とともに吹き込んでくる生暖かい風が気持ちいい。太陽も今は小旅行を祝福しているように見えた。俺の頭はとても都合よくできていた。田舎での2週間を思い浮かべると清涼な風がシャツいっぱいに吹きこむような気持ちになった。

 中央自動車道を多治見インターチェンジで降り、一般道路を山に向けて進む。途中コンビニで数日分の食材を買い込むと、再び車を発進させた。沿道に立ち並ぶ住居がまばらになってくると、前方に小高い山が見えてくる。やがて両側を背の高い広葉樹に覆われた林道に差し掛かる。

 「この先道幅狭し」

 赤茶けた看板と共に村の入口が見えてくる。村に来るのは祖母の三回忌以来だった。緩やかな上りになっている村道を進むと民家と共に山の斜面に作られた棚田がある。この村は平家の落人が流れてきて住み着いたという言い伝えがある。亡くなる前、祖父が鼻息あらく話していたがどうやらあまり定かではないらしい。平家落人伝説は全国津々浦々にあるだけに。粒の粗いコンクリートの村道をさらに1分ほど走ると祖母の家に到着した。家の前でエンジンを止め、車から外に降りる。

 そこはまごうことなき田舎の風景が広がっていた。青や白や緑の光が居場所を競うように目の前に迫っていた。思い切り息を吸い込むと、暖かく複雑な匂いが肺いっぱいに広がる。素敵な風景だ。この気持を誰かと共有したいと思った。彼女の顔が浮かんでくる。こんな場所で彼女と二人で過ごせたらどんなにいいだろう。そのまま数分気が済むまで妄想と深呼吸を繰り返した。

 車のトランクから荷物を取り出し家の前にある小階段をあがる。家には木製の引き違い戸の門があり、門から玄関までは両脇を植物で囲われた小道が続いている。祖母は園芸が趣味で多種多様の草花を育てていた。

玄関ドアを開けて中に入ると少しカビ臭さが漂った。部屋を回り雨戸とガラス戸を開けていく。中は思っていたよりも綺麗に整えられていた。祖母が使っていた家具や電化製品は手を付けられれないまま残っている。冷蔵庫などは祖母が亡くなる半年前に買い換えたものだったから、自宅で使っているものより新しかった。外れていた電源プラグを繋ぎ直し、コンビニで買った食料品を入れる。きちんと起動しているか不安になり中を確認すると、順調に冷たくなっていた。俺は一息をついてダイニングチェアに腰を下ろす。開け放たれた窓から不思議なほど冷たい風が吹き込んできて、カーテンを揺らした。

生まれて初めて小説らしきものを書いてみました。

自分で書いてみるとあらためて作家さんの偉大さが分かりました。

このあと続いていく予定ですが、書き上げる自信がないのでとりあえず短編小説として投稿します。

ホラー小説にするつもりですが、いまのところ全くホラー要素がありません。

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