似、『セーブ・ポイント』 ☆その二、『光源氏計画』
――解りやすい安全装置使用方法――
まずは卵を人肌で温めましょう。
三分間温めると……あら不思議! 中から赤ちゃんが!!
生まれた赤ちゃんは、アナタの魂の情報をコピーして生まれた、アナタの分身。だから、アナタの望みどおりに、『マザー』を修正してくれます。これで一安心ですネ☆
追記――赤ちゃんは翌日には幼体(アナタの幼少期)に、さらに次の日には完全体(現在のアナタ)に成長します。完全体になるまでの間に外界の情報を取り込み、より完全な修正をする仕様となっておりますので、マザーの修正は完全体になってから実行してくださいネ☆
「セカイをスクうなんてヤダー! ジンルイなんて、みんなホロんじゃえばいいんデス!!」
両手を掲げたポーズでそんなダメなことを宣言する『幼女』がテーブルの上に立っていた。
既視感を感じる幼女――銀の髪と銀の瞳/ツインテール/アホ毛が二本/大きな瞳/当たり前だが幼児体型/衣装は何故か涼し気なサマードレス――アイによく似た女の子。
「………………へ?」
呆然とした顔で、間の抜けた声を出したのはアクトくん。
日付が変わり、彼は約束どおり博士の家を訪れた。昨日の別れ際がアレだったから、ちょっと緊張しながら扉を開けたら……こんなお出迎え。ビックリだった。普通、対応に困る。
「これは観念――バレちゃあ仕方ないわね! そうよ、そのとおりよ!! アイツら、みんなクソ虫よ! 私のアナタに酷いコトしてきたくせに、アナタが戦力になると知った途端手のひら返してちやほやして……あんな奴等、みんな死んじゃえばいいのよ。滅べばいいのよ!」
「ホロべばいいのデスよ!」
なんだかよく解らないうちに、アイまで参加して、聞いてもいない本心暴露大会勃発。
復唱している幼女が、なんだか微笑ましい。……教育にはよろしくないセリフだが。
――……こんなワケの解らない状況を打開するために必要なのは…………解説役っ!
部屋を見渡すと、隅っこの方にイリマ博士発見――壁に寄りかかって瞑想中/眉間の皺がいつもより深い――疲れた表情で『ドヨ~ン』と深刻な雰囲気を醸し出している。
「……来たか」
「あ、博士! これ、いったいなに? どういう状況」
「…………口頭での説明など時間の無駄であろう。これを読むが良い」
博士が投げた『携帯端末』を受け取る。
ナイスキャッチ――と同時に仮想ディスプレイが自動展開/画面に流れる説明文――『解りやすい安全装置使用方法』/速読、二秒/理解、三分/納得、五分/質問をまとめるのに更に二分――計十分超かけて、アクト再起動/なぜなにイリマ博士始まるよ~♪
「博士、この状態でマザーのプログラムを修正させたら……どうなるの?」
「……ヌゥ……おそらく、この地下都市は人の住めない死の空間に早変わりするであろう」
「……………………終わたぁ」
希望が最大級の絶望に変わった瞬間だった。
――……ああ、そっか。希望こそが、人を本当に絶望させるんだな……。
ちょっぴりの幸せが、不幸を倍増させる――スイカに塩をふる理屈である。
自分を支える何かが折れ――倒れるように膝をついて、四つん這いになるアクト/心境を周囲にアピール――開き直ったアイさんが、そんな彼を笑いながら見下ろす/勝者と敗者の図。
「……諦めるのか?」
「――っ!?」
だが、その漢は絶望に足を止めることを許してはくれない。
顔を上げるアクト――その瞳に彼に絶望を教えた漢が映る/誰よりも今の状況を理解し、誰よりも絶望してるはずの……いろんな意味で『この状況』を創りだした存在が、不敵に笑う。
「いまのあの娘に人々を救う意思が無い――それだけのことで、ウヌは諦められるのか?」
「……で、でも」
「この世に変わらぬモノなど一つもない。空に瞬く星すらも、長い時をかけてカタチを変えるように、人の心も変わるモノだ。それはウヌが一番良く知っていることであろう」
「……そうだね。『心』は同じ『心』で動かすことができる。俺がアイ姉に『大切な人を守る為に戦う』って事を教わって、それを誇りと思えるようになったように……」
「そうだ。いまのあの娘に人々を救う気がないのなら……ウヌが『調教』して、ウヌの思うまま従う『従順な雌犬』にしてしまえば良いだけのこと……心では嫌といっても身体は正直なモノだからな」
「いろいろ残念だよ、博士」
「……フ。名付けて『光源氏計画《プロジェクト・ヒカルGENJI》』と言ったところか」
「それは古典――平安の昔、幼女を理想のレディに育て上げ、ゲットしちゃった伝説の英雄。アクト、あなたはそんな英雄を目指すというの!? いつのまにそこまでのセイチョウを……」
「おー! わたし、オトウサマのリソウのジョセイにソダテてられちゃうのです!」
「我々の命運、ウヌに託そう……タイムリミットは完全体になる明日までだ」
「……心が折れそうだよ、博士」
気分は二点差付けられたロスタイム。
諦めたくなるが、諦めたら即試合終了……そんな崖っぷちである。
――……とにかく、背水の陣な気持ちでやるしかない。やる前に諦めちゃダメだ。例え可能性が限りなくゼロに近くても、ゼロじゃない。死なばもろとも!! ヤられる前にヤッてやれ!
そんな前向きなのか後ろ向きなのか微妙な決意を胸に、少年は立ち上がる。
覚悟を決めたら即行動――幼女/アマメを肩に担ぎ――玄関へダッシュ!
荷物扱いなのに、何故か顔を赤らめトキメキLOVEモードなアマメ/アクトには好都合!
彼は最後まで振り向かずに――
「この娘は……俺が、絶対、マトモに育ててみせる!」
――宣言し、その一歩を踏み出していった。
残された言葉――それは約束/それは誓い――言葉にすることで、願いを強くする儀式。
――……自分を追い込むことで、とにかく頑張ろうとしてるんだね…………可愛いな~。
そんなアクトの心境を正確に理解して……『逆境に足掻く姿勢』に性的に興奮し、頬を紅潮させるアイさん/ホントは一緒に行動するつもりだったのに、『ゾクゾク』しちゃったせいで出遅れてしまうぐらい/いまも荒い息で不自然に内股な残念エロ娘です。
博士はそんな孫娘の様子に気づきつつも、完全スルー。
――……足掻いてみせろ。悪足掻きこそ、悪の特権なのだから……。
眩しいモノを見るような瞳で、旅立つ少年を見送った。
「……ついていかなくても良いのか?」
遠ざかっていく足音に既視感を抱きながら、祖父は尋ねる。
「いかないよ~だ。この状況で邪魔したら、さすがに怒られるじゃない。お祖父様のおバカ」
アイさん、アクトがいなくなったので猫かぶりモード終了☆
ヘラヘラと砕けた表情/でも下半身は内股のまま……ゆっくりソファに座る/腰を落ち着けて、『ホっ』と一息――直後、再び表情一変/咎めるようなキツイ視線を祖父に向ける。
「これは反論なんだけど……私、変わらないモノはあると思う。愛とか、愛とか、愛とか!」
「ヌシもまだまだ子供だな。『愛』や『誓い』や『願い』などというものは、この世界で最も変わるものだ」
「あ、愛とか奇跡とかバカにしちゃダメなんだよ!」
年頃の娘らしい幻想。
そんな青さ――『若さ』を鼻で笑う祖父/バカにされたと思った孫娘は『ムッ』とする。
「勘違いするな。誓いや願いは、『強く』なる。そして愛は……『深く』なるモノだろう」
「……つまりエロくなると」
「あながち間違っていないのがムカつく!」
孫娘のあんまりなツッコミに、今度は祖父が『ムカッ』ときた――でも、「あながち間違ってない」とか言ってるあたり、頭の片隅にそんな考えがあった事は間違いない。
……なんかいろいろ台無しな祖父と孫でありました。
そして舞台は昨日と同じ公園へ移る。
ベンチに座るアクトと、その膝の上に座るアマメ。
道行く人が『チラチラ』と二人に視線を送ってくるが、喋りかけてきたりはしない――見知らぬ幼女への警戒心と、アイが突然現れて修羅場突入するかも知れないという危機感が彼等の好奇心を押さえ込んでいるのです/君子危うきに近寄らずの精神!
「単刀直入に聞くけど、アマメちゃんは、どうしたら皆を救う気になってくれるのかな?」
「まったく……オトウサマはダメダメですね。そういうことをキくマエに、やるだけのことをやってください。アマいコトバをならべてメロメロにするとか、オイしいタべモノでエヅけするとか……そんなサイテイゲンのゴキゲントリもせずに、いきなりコタえだけをモトめるなんて、タダのタイマンですよ」
「……申し訳ございません」
子供を叱る親のように『まったく、この子は』って顔をした幼女からダメ出しを受ける。
特殊な性癖を持っている人にはご褒美なのだが、アクトはノーマルなので喜べません/ちょっと笑顔なのは悲しすぎるから――人間、悲しすぎると笑いたくなるものです。
「アヤマるだけなら、コドモでもできます――ほら、あそこに『ういろう』がウってますよ」
「はい。買ってきます」
「チガいます。マチガってますよ、オトウサマ。このバアイは『買いに行きたいけど、もっとアマメちゃんとこうしていたいから……ゴメンね』といいつつ、ワタシにイタズラするのがセイカイです。もっと、ワタシとイチャイチャするのです」
「いろんな意味で難易度たけぇ!!」
幼女にイタズラを強要されました。強いられているんだ!
――……取説どおりなら、この娘はアイ姉のコピーのハズなのに、なんでこんな…………いや、よく考えてみると、アイ姉もこんな感じだな。うん。納得。
嫌な事実に気づいてしまった。知らなかったあの頃に戻りたい。
実際、アクトの困った姿を見て愉悦を感じているこの娘はアイの精神をコピーしていること間違いなしである/人の不幸は蜜の味って困った性格――つまりダメダメ。
ラスボスは『マザー』ではなく、相棒のダメな性格だったよ。救いたいのに救いがない。
――……いや。諦めるのはまだ早い。アイ姉はダメダメだけど根っこは善人。俺の大切な人を俺が信じなくてどうする! 信じろ、俺! 誰が信じなくても、俺だけは信じてみせろ!
信じる心は儚くも美しい。でも、その相手の方には――
「……そもそも、オトウサマはホントウに、ここのヒトビトをスクってもヨいのですか?」
――彼が『諦めない』ことを許すつもりはないようです。
「へ? 良いに決まってるだろ?」
「またカンガえなしでヘンジをする……オトウサマ、ミンナをスクったアト、ジブンがどういうタチバになるか、よ~くカンガえてイメージしてください!」
「え? 皆を救った後……アイ姉と博士と死ぬまで一緒に過ごしたい」
「……それはただのガンボウです」
どうやらその答えでは御気に召さなかった様子である。
再チャレンジ! アマメの哀しそうな表情から、彼女の望む答えを――
「――あ、訂正。アイ姉と博士とアマメと一緒にだな」
「オトウサマはワタシをホレさせてどうするつもりですか? ……まあ、オトウサマがそういうキなら、ミンナをスクうのにキョウリョクするのもやぶさかではないというか……」
そっぽを向きながら小声で『ブツブツ』と呟く幼女。
その表情はトキメキ陶酔状態――どうやら『光源氏計画』は達成間近らしい。
――これだからテンネンは……クウキをスうようにクドきにきやがるのです! にゃー。
「……アマメ?」
「いえ、ワタシがいいたいのはですね……その……ヘイワになったらエイユウはいらないというコトです。トクにオトウサマはウまれからしてワケアリですから……ゼッタイ、ゼッタイ、ろくでもないメにアいますよ!」
赤い顔を誤魔化す為か、進んで答えを言ってくれました。
――……ああ。そういう事か。
その言葉を素直に受け止め――理解し、納得する。
つまり『禍神アクト』の出生――狂進化して化物になった母親から生まれた子供だという変えられない始まりが問題なのだ。そのせいで彼は住民達に迫害されたから。
人間の姿をしていても、本当に人間なのか解らない存在だから。
――……いま、みんなが受け入れてくれているのは、戦時だから……なんだよな。
今は戦力として、背に腹は代えられないから頼っているだけ/平和になれば、再び危険人物で迫害対象――それがアマメの考えで、つまりアマメのオリジナルであるアイもそう考えているという事だろう。
「……そうだな。じゃあ、ちょっと付き合ってくれないか」
「お~。フリンのおサソい」
「なんで不倫!?」
「オトウサマはオカアサマのモノ……アイのドレイですから」
「うまいこと言ったつもりか!?」
思わず大声でツッコミする迂闊者。
その声に――ついに好奇心が警戒心と恐怖心を上回った観衆達が『ニヤニヤ』しつつ近づいてくる/大量の生暖かい視線/危機感増大/『このままではラブコメ的な大きな流れに飲み込まれる!?』と瞬時に察して即決即断――再びアマメを肩に担いで逃亡!
追いかけてくる『観客』を振り切るために、少年は全力で駆けた。
……その逃げっぷりはまるで『ラブコメ主人公』みたいだと観客たちは思ったそうな。
「――で、どこへいくんですか?」
「それは到着してからのお楽しみってことで……」
ゆるやかな坂道を、手を繋ぎながら歩く。
小さな歩幅に無意識で合わせる天然と、そんな心遣いに心ときめかせる幼女。ドキドキ。
「……と、ちょっと顔赤いけど大丈夫? 疲れちゃったか? おんぶしてやろうか?」
「もしかしてワカっててイってませんか?」
口をとんがらせて、可愛く睨むアマメちゃん。ツーンです。
「なんかよくわからないけど、機嫌直して」
「――っ!?」
繋いだ手を放し――そんな幼女の額を優しく撫でる天然さん。
さらにときめいたアマメちゃんは、なけなしの理性で額に置かれた手を掴み……振り払おうとしたけど、結局『ぎゅっ』と掴んで腕組み/さりげなく手繋ぎから腕組みへランクアップ。
……愛とは同じ所を回らず、大きくなっていく、螺旋のような感情なのかもしれない。
そんな二人が、緩くカーブしながら広がっていく『螺旋の坂道』を少しづつ登っていく。
進めば進むほど人の気配から遠ざかる通路――薄暗く見通せない道筋/どこまでも続きそうな錯覚/怖いぐらいの静寂――『カツ、カツ』『ペタ、ペタ』という自分達の足音だけが耳障りなほど大きく響く。
「ワタシ、クラがりにツれコまれちゃって、ナニをされるんですか」
「…………人生観変わるような初体験……とか?」
「オトウサマがワタシのノリについてきた!? まさかホンキとかいてマヂなのですか! コトバではなく、それイガイのものをツッコむキ、マンマンなのですね! ウレチーのですっ!!」
「あ、出口見えてきたぞ」
「ここでまさかのスルーですっ!?」
幼女が涙目で『ガ~ン』と、ショックを受けた演出をしている。実にわざとらしい。
アクトはそれを美事に無視して、向かう先を指さす――閉じられた分厚い扉/東西南北に設置された、この地下都市に四つだけある出入り口/地上で核戦争が起こったって大丈夫な頑丈さと気密性――破壊&侵入不可能な扉。
この扉は、世界に四本しかない電子キーとパスワードが揃わないと開かない。
……ハズなのに、アクトが携帯端末をかざすと、それだけで『ゴゴゴゴ』と唸るような音を立てて簡単に開き始めていく/博士直伝の裏コード――何事にも抜け道はあるものです。
光と風を流れ込ませながら、人一人通れるだけの隙間が開く。
そして、少年は振り返り――透明な微笑みを浮かべて――幼女に手を差し伸べる。
「さっきの答え、見せてあげるよ」
「……コタえをミせる、ですか?」
そこはどこまでもまっさらな大地だった。
どこまでも広がる土色――緑一つない不自然な地面。
どこまでも澄んだ空気――匂いも何もない、綺麗過ぎる空間。
「……クウキがキレイすぎてキモちワルい」
汚すぎても、綺麗すぎても人は受け入れられない/人間は日常からかけ離れた状態を許容できない生き物――受け入れるためには、少なくない時間をかけて適応する必要がある。
「殺菌……ううん。『浄化』されてるんだよ。……毒が漏れないように」
「ドク?」
「ナノマシンのこと。外の人達は半端な知識を与えられた結果、『人間を化物にする毒ガス』だと思ってるらしくてさ……だから、定期的に『空爆』して『浄化』してくれてるってワケ」
「……ヒドい」
その結果がこの光景。
汚いモノを綺麗にしようとした結果――人が住む場所では無くなった、美しすぎる世界。
「だから、戦いは終わらない」
前後が繋がっている気がしない唐突な言葉。
だけど、彼の『言いたいこと』はアマメにも理解できた――詳しく説明してくれなくても、この眼の前に広がる景色が何よりも雄弁に物語ってくれているから。
「この世界の『人間』から見たら、俺達はみんな『化物』なんだから」
汚れたものは浄化しなくてはならない。
どこかで防ぎ止めないと、汚れはどこまでも広がっていくから。
だから消す。処分する。殺す――正義の名のもとに。
「……ちょっと安心した。君が知らないってことは、アイ姉はやっぱり知らなかったんだ。俺も昨日まで『マザーを直せば戦いが終わる』って思ってたけど、アイ姉に言われて自分の未来を考えたら…………ふと気付いちゃったんだよな。皮肉なことに」
それは、目の前の問題を解決しても次の問題が浮上するだけ、という現実。
終着点だと思っていたものが通過点でしか無く、それどころか解りやすい終着点なんて何処にもないという常識を――彼は、ほんの少し『先のことを意識した』だけで理解していた。
その理解力にアマメは驚く。そして――そんな彼が増々理解できなくなった。
「……なんでですか? それがワカってるならイマがイチバンだってこともワカるはずです」
外の世界の現状を知ったからこそ、今まで以上に自信を持って彼女は言う。
この地下都市に住む人々は……いまが一番幸せなのだ。
生活は維持できている。怪物にも対処できる。娯楽もある。それで十分――外に出て、同じ人間と争う未来が待っているなら、このまま地下で生きてたほうが絶対マシなはずだ。地上の暮らしなんて生まれた時から知らない子供達がこれからの未来を背負うのだから、地下で暮らすことに不満を覚えている人も時間と共に物理的にいなくなる。だから問題ない。
それなのに何故? ――と視線で問う幼女に、アクトは答える。
「目の前にゴールがあったら、普通入るだろ?」
はにかむような微笑みを浮かべながら、アマメにも『同じ気持ち』を求めてくる少年。
――……リカイできない。
だけど、幼女にはその考えがまるで理解できなかった――そんなのは現在の平穏を崩す理由にならない/絶望的な結末を知っていて、それでも進もうとするなんて狂っている、と思う。
だからこそ、アマメと名付けられた『入間愛』のコピーは確信する。
――……このヒトには、まだ『イリマアイ《わたし》』がイる。
こんなワケの解らない事を言って道を間違えないように、誘導してあげなくてはいけない。
――そのタメには……『マザーのシュウセイ』をするヒツヨウがある。
アマメがマザーの修正を拒否しても、アクトは戦い続け、アイも一緒に付いて行く。
そして、遠くない将来、アイは副作用で戦えなくなる――そうなったらオシマイ。アクトは本当に一人だけで戦い続け――いつか確実に間違える/間違いなく間違った道を行く。
――マザーさえナオせば、『イリマアイ』はまだモつ。
彼女は既に限界近い――だが、早急にマザーのシステムを修正・復旧し、地下都市からナノマシン被害をなくせば、これ以上悪化しなくなる/現状維持/後遺症はあるが、問題はない。
――それに、このヒトだけにセオわせず、アイツらにもイノチをカけさせることができる。
戦場が地上に移るなら、戦線離脱していた大人たちも強制的に徴兵されるだろう。
多少身体が不自由でも、生きるために戦わなくてはいけない状況に絶対なるはずだ。
――アイツらをタスけるのはシャクだけど……クルしめるタメに、あえてイかすっていうのもアリですね。あはは。タタカってシねるなら、アイツらもホンモウでしょう。
自然と幼女の顔に笑みが浮かぶ。
子供らしい、心底楽しそうな顔で「あはは」と嗤う――その光景に、通じ合えたと思い違いするアクト/完全に勘違い――でも、そんな彼の態度に『妖女』は増々好感度を高めました。
そのまま、ありえないほどキレイな夕日を二人で見送る。
綺麗過ぎる大気のせいか、赤ではなく黄金に輝く夕日。
それはまるで、この人のようだ、とアマメは思う。
自分の感情に素直な――綺麗な生き方は輝いてはいても異常なのだ、と思う。
だから、視るに耐えない/アマメは夕日から目を晒し――そっぽを向きながら、言う。
「つきあって……あげても、いいですよ」
「いや。俺は幼女とお付き合いする特殊な趣味はありません。ノーマル」
「チガイます。マチガってます――ワタシは、オトウサマの『みんなをスクう』ってユメにつきあってあげてもいいって、いったのです。それにオトウサマはノーマルじゃありません。オンナのコにムリナンダイおしつけられてヨロコぶHENTAIサンです」
「…………」
なんとも言えない顔で言葉を飲み込むアクトくん。
ホントは『ありがとう』と言いたいのに、言えない――でもそれは肝心なところで彼がボケたせい/自業自得という自覚――とりあえず苦笑いで誤魔化すのが彼の限界だった。あはは。
太陽が完全に沈み、星がまたたき始めた頃、帰路に着く。
地面にうつる影ひとつ。
幼女はいつの間にか目を閉じ、眠っている――規則正しい呼吸/ナノマシンでできた造り物とは思えない暖かで柔らかな身体/確かな質感――命の感触。
そんな幸せと安らぎを感じながら、アクトは生命を背負い歩いて行く。
「……アイ姉と俺に子供ができたらこんな感じなのかな」
「オトウサマ、キモいです」
「寝てろよ! 頼むからっ!!」
幼女の素の返事に、思春期の少年は泣いた。
それでもアマメを放り出さずに背負い続ける――そんな姿にアマメは『先ほどの指摘は間違いじゃなかったです』と再確認/泣いてるのは嬉し泣き――本気でそう思ってるドSだった。
ヘソを曲げたアクトの方は博士の家につくまで無言を貫く。
到着まで無言――それでも、背中で『寝たフリ』し続けていたアマメには、夢見心地で幸せな時間だった/幸せ過ぎて眠るのがもったいなかったから、眠らなかった。
「ただいま~」
玄関の扉を開けると、アイさんが正座して待っていました。
帰る時間など示し合わせてはいないから……もしかしたら、ずっと玄関で正座して待っていたのかも知れない/視線が合う――静かな狂気を宿す笑顔/目が笑っていない/怖い。
「これは確認――大丈夫っ!? 変なことされてない? 襲われてない? 陵辱されてない? レイプされてない? 大事な『初めて』、無理やり奪われちゃってない?」
「するかっ!」
「それは誤解! ――アクトがするんじゃなくて、されたんじゃないかって心配してるの! 忘れたの、この娘は私のコピーなんだよ!! 私だったら、隙があらばヤッちゃうよ! 好きなだけに!」
「ザンネンながら、スキはあったんですが、このタイカクサではムリとハンダンしました」
「それは告解!? ――ほら、やっぱり考えてた」
「……お前達の愛が重すぎる」
愛は深くなると博士は言いました。
でも、重くもなります。重くなりすぎると病んじゃうのでご注意。既に病んでる気もする。
両手を地面について項垂れる――と、肩に『ポン』と手を置かれる/博士/厳しそうな顔をしているが、優しい老人/その一縷の望みに……少年は救いを求めてすがりつく。
「は、博士ぇ……」
「……今日は泊まっていくがよい。この状態で逃げることは許さぬ」
「……らじや」
肩に置かれた手はどうやら逃さないためだったようです。
この日アクトは、希望が絶望を際立たせるスパイスだということを嫌になるほど理解した。




