一、『ラスト・スタート』
「こ」「な」「く」「そぉ――――――――――――――――――――――――――っ!!」
薄暗い空間に少年の叫びがこだまする。
壁にあたって反響する音/地下空間――高さ、幅、ともに十メートルの通路/ついでに床には流れる水――水位三十センチ。
そんな場所を少年は少女を背負い、膝まで足を沈めながら『バチャバチャ』走っていく。
細身で小柄な身体/基本黒で統一された衣服――左腕のキーボード付きガントレットだけが異色/黒髪黒瞳/幼さを残した中性的な顔立ち、だが野性的――独特の雰囲気を纏う十四歳。
「これは懇願――アクト、ガンバ!」
そんな少年を、背負われている少女が応援する。
銀と黒のオッドアイ/腰まで届く長い黒髪――前髪のみ銀髪/頂点にアホ毛二本/女性的な肉付きの身体を包むのは短い袴の巫女服モドキ/童顔/巨乳/自称『美少女』な十八歳。
「ガンバ、じゃなくてアイ姉も自分の足で走れ!!」
「それは却下――なぜなら、私が自分で走るより、アクトが背負って走ったほうが速いから」
「見捨てるぞ!」
「それは許可――二人とも死ぬより、一人でも生き残ったほうが良いから」
「……冗談だよ。見捨てねえよ! 死なば諸共だ!!」
「それは……ツンデレ?」
「違ぁぁぁぁう!」
その叫びが再び通路に響く――事はなかった。
『――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――』
空気を切り裂く音にならない音が、彼等の叫びを掻き消す。
振り返れば――そんな音を鳴らしながら、二人に急速接近する『異形』の影!
黒色の巨体/手足のない蛇のような身体/直径三メートル/全長……長すぎて不明/口内に細かく鋭い歯/その肌の表面はヌルヌルした何かに覆われている。ヌルヌル。
その正体は………………巨大すぎるウナギ!
「……アイ姉。オレ、ウナギが鳴くなんて聞いたことないんだけど」
「それは誤解――あれは鳴いているのではなく、エラから空気が出てる音」
笛が鳴るのと同じ理屈らしい。
「そもそも、なんでウナギが襲って……ウナギって肉食なのか?」
「それは肯定――ウナギは悪食。『狂進化』の結果、人間を食べるようになってもおかしくはない。上の階にも、人間を襲って食べようとする人間大のネズミとかいたし」
「あれって、俺達を『食べる』ために襲ってきてたのか!?」
敵が襲ってくる理由を知って驚く少年に、少女は何をいまさらと呆れ――
瞬間、飛び掛ってくる巨大ウナギ(歯をむき出し回転付き)。
「コークスクリュー!?」
「それは正解――ウナギは噛み付きながら回転することで、対象を引き千切るらしい」
「怖っ!!」
逃げるのをやめて、進路反転/迫るウナギめがけて――水面ギリギリ低空ジャンプ。
普通、ジャンプの後で軌道変更はできない。
だから、攻撃の際は『未来の相手位置』を予測して跳びかかる。
その裏をかけば――
アイのアホ毛をかするコークスクリュー・ウナギ・ダイブ!
――回避できる。
「――――っ!?」
舞い散る髪数本。
アイが両手を口に当て――声もなく狼狽える/涙目/親が死んだような表情。
「泣くなよ……アホ毛が命より大事か?」
「それは肯定――これが私の唯一のアイデンティティ」
「……なんかこっちが悲しくなってきた」
脱力……している暇はない!
巨大ウナギがウネウネと方向転換/目と目が合う――つぶらすぎる瞳が怖いっ!!
「アイ姉、下がって――今度はコッチの番だ!」
腰裏にバツの字で差してあった短刀二本を抜刀! 二刀流!!
ウナギダイブ再び/タイミングを合わせ、アクトもダッシュ――するも、水に足を取られ前のめり/初動減速/計算違い/大誤算――そんなアクトに容赦無く迫るウナギ!
焦ったアクトは、崩れた体勢のまま斬りつける!!
刃から伝わる生の感触――違和感/ヌルヌル滑る――相手の勢いを受けきれず、さらにバランスを崩し転倒/頭から水に沈む、が直撃は回避できたので結果オーライ。
「それは常識――ウナギの表面、ムチンというタンパク質の一種。すべる。常識」
「……ゲホ! じょ、常識、二回言うな!」
飲んでしまった水を吐きながらも、ツッコミは忘れない。ツッコミ体質主人公である。
だが、ツッコミしつつも状況確認も忘れない――巨大ウナギは方向転換中/数秒の猶予。
「対策は!?」
「それは怠慢――自分で考えることを放棄したらダメ」
「お願いします! 自分馬鹿ですから、アイお姉様!!」
倒れた姿勢まま――頭を水に沈めるぐらい下げてお願い/土・下・座☆
しかし、アイさんはその行為よりも『お姉様』という言葉に気を良くした感じで気分上々。
目を閉じて思考開始/三/思考中/二/思考中/一/ウナギ、方向転換完了/〇――開眼!
「これは確信――ムチンは熱に弱い! ……たぶん」
「強気に弱気だ!?」
でも、液体系が熱に弱いのはよくあること。
うなぎの蒲焼がヌルヌルしていることはない。ただ……狂進化した怪物に一般常識が通じるかどうかという不安が彼女の自信を揺らがせているだけである。
ウナギ、攻撃予備動作――長い身体をバネのように縮める/視線はアクトにロックオン!
「と、とにかく、やってみる!」
左腕のガントレットに手を伸ばす――キーボード操作開始/残像を残す高速タイピング。
――『前方』、『空間支配』、『十メートル』、『圧縮』、『十センチ』――
前方の空間が歪み、風が集まる。
引き寄せられる感覚に足を踏ん張るアクトと、四つん這いになって堪えるアイ。
ウナギ、三度目の正直なコークスクリュー・ダイブ!
先程より若干速い――風に引き寄せられてる/誤算……好都合!!
――『指向性制御』――
左腕をウナギの額へ――ロックオン完了! 狙い撃つぜ!!
「――律の法『華焔』――プログラム・ドライブ!!」
――『発火』――
圧縮空気に火種――瞬間、酸素を取り込み膨張/指向性を制御した炎の槍――発射!
巨大な敵の額に――着弾/閃光――弾ける熱波。
刹那――爆風が治まる前に突き抜けてくる漆黒の弾丸!
「効いてない!?」
だが、軌道は逸れ――アクトの横スレスレを通り過ぎていく/後方から水音/背中に飛沫。
「それは否定――程良くこんがり、香ばしい……相手が巨大すぎて致命傷になってないだけ」
「匂いでダメージ把握!?」
衝撃である。
たしかにウナギの額から脂の焼けた香ばしい香りがしているが……その考えは無かった。
だが、言われてみれば……方向転換もしないでのたうっているのは、効いている証拠/どうやら攻撃の方向性は間違っていないらしい/足りないのは――
――……もっと、高威力の炎撃なら……でも……。
「……くぅ。こんな水場じゃ、炎の威力が……」
「それは無知――水は『水素』と『酸素』の化合物。分解して利用すれば燃える。モエモエ」
燃える性質の二つがくっつくことで、燃えない物質になるという不思議現象。
世界は不思議で満ちている――そして、理解できた不思議はチカラに変えることもできる。
「らじや! やってみる!!」
声高らかに返事をし、アクトは再びキーボードへ手を伸ばした。
この『地下都市』は『環境改善用ナノマシン』で満ちている。
元々の用途は大気に干渉し、成分を調整・変質させる事により、この地下都市の環境を整えるために散布されたモノ。そのナノマシンに特殊なプログラムを積んだ『デバイス』から命令を出し、人為的に干渉、望むままに実現可能な『現象』を起こす裏技こそが『律の法』――自然現象を操作する、この地下都市でだけ使える魔法のような科学技術である。
ちなみに、ナノマシンは使い捨てだが『自己増殖』機能を持っているので勝手に増えます。
のたうち回っているが、大きく移動しない巨大ウナギに向かって、左腕をかざす。
――『範囲』、『対象より半径一メートル』、『水』、『分解』、『空間支配』――
「それは無謀――破壊力を侮ってる。爆風から私を護らなきゃダメ。最優先事項☆」
「…………ウン。ワカッテルッテ」
……完全に忘れていました。
気を取り直して入力再開――空気の流れを調整/風の障壁形成。
続けて、『華焔』のプログラム入力――完了/巨大ウナギが正気に戻る前に――
「――律の法『大華焔』――プログラム・ドライブ!!」
視界を埋め尽くす閃光――障壁越しに響く轟音/揺らぐ障壁――周辺を吹き飛ばす大威力。
その光景に、アクトは放心して冷や汗タラリ。
――……風の障壁、準備してなかったら死んでたな……。
視線を移すと――ドヤ顔で『感謝プリーズ』なアイさんの姿がありました。
…………『謝罪』ではなく『感謝』を求める彼女がアクトは大好きです。メロメロ。
戦いが終わった後……そこには死が溢れていた。
大火力でこんがり焼けた巨大ウナギと、高温で茹で上がった魚達がプカプカ。死屍累々。
それは、どことなく美味しそうな香りが漂う、魅惑の空間でありました。ジュルリ。
「……食べる?」
「それは肯定――ちょっと、一口」
アクトが差し出した肉片を指ごとパクリ。
巨大化していてもウナギはウナギ。この地下都市に存在する『クリーチャー』は元々、全て食用。例え怪物化していても基本全て食べられる事は、ここに至るまでの道程で証明されているので安心。安心なのだが――
「――そういえば、ウナギには毒があるんだっけ?」
「それは肯定――血液にイクシオトキシンという毒素。熱を加えると変質し無害。安心」
咀嚼しながら応えるアイさん。
その顔は無表情――普通、いま食べているモノに毒があるとか言われたら慌てて当然。だけど、正しい知識を持っていればそんな醜態を晒さずに済むというワケです。知識は大事☆
「……美味しい?」
「それは否定――大味でくどい。わさび醤油プリーズ」
「無えよ」
わさび醤油を持って、ダンジョン探索する冒険者はいねえ。
でも、塩は持ってます。いざという時、塩分と水分は大事ですから。
……ちなみに、塩をふったら、それなりに美味しくいただけました。塩は偉大☆
「……では、お腹も膨れたから、改めて探索再開といきますか」
「それは了承――ちなみに、残ったウナギはお魚さん達の餌になりました」
「誰に説明してんの!?」
相方とそんなやりとりをしながら、水をかきわけ歩く。
水に満ち溢れた世界――地下都市における水産系プラントだった階層。
この地下都市は地下二十一階~六十五階までは農産系プラント。六十六階~七十五階までは水産系。七十六階~九十九階は畜産系となっております。現在地は六十六階。水産系一層目。
「この階のどっかに『安全装置』が隠してあるんだよね」
「それは肯定――お祖父様がそう言ってたから間違いない。ちなみに、安全装置がどんなカタチをしているかは不明。どこにあるかも不明。無事なのかどうかも不明。ちなみに、三十三階に隠してあった安全装置は、破壊されていたそうです。残念」
「……そもそも、カタチも隠し場所も解らないモノを探せとか、無茶苦茶すぎる」
「これは補足――ちなみに、この階層の安全装置が入手出来なかった場合、最後の安全装置が九十九階に隠してあるそうなので安心☆」
「…………くぅ」
あまりにも不安要素しかなくて、ゼンゼン安心できない。
そもそも普通に考えて、一番上層にあったモノが破壊されてたのに、さらに危険な下層のモノが無事である可能性とか……なんか探す前から諦めたくなってくる状況です。
それでも、どんなに絶望しても足を止めなかったからこそ、彼等はここまで来れた。
――……ヒントはないのか? 宝の地図とか暗号みたいな…………って地図!
「――そうだ、アイ姉! 三十三階にあった安全装置ってのは、どこら辺にあったの? もしかしたら、ここのも同じ場所に隠してあるかもしれない!」
「それは疑問――いくらなんでも単純。でも、なんの目的もなく探すよりマシかも知れない」
そう言って、彼女はポシェットからタブレット型端末を取り出して操作する。
タッチパネルをスイスイ――『律の法』を使うにはキーボード型の方が応用が効くのだが、コッチのほうが可愛いという理由で彼女はソレを使っている。可愛いは正義なのだ(誤用)。
数秒後、端末画面に表示された情報を見たアイは、微妙な表情を浮かべ……。
「……これは微妙――まあ、とりあえず、行ってみよ」
返事も待たずに歩き始める。
端末を操作しながら前も見ずに進む不注意者を、護衛するようにアクトも続いた。
そこはフロア中の水が流れ込む場所だった。
円形の壁/深い水位/中央に巨大な柱――しゃぶしゃぶ鍋を連想させるような造り。
壁と柱周辺に幅一メートル程の浅瀬――向こう岸まで二十五メートル/水深五メートル/底面に排水用溝蓋――流れこんでくる水を外縁部へ循環させる仕組みだろう。
「ここは……フロアの中央?」
「それは肯定――全ての階層に存在する大黒柱。あれに、上の階層の『安全装置』は隠されていたって記録には残っている」
壁際の浅瀬を一周回って確認した結果、中央の柱には傷ひとつ見えなかった。
――……畜産系のクリーチャーが深い水位を嫌ったのと、柱周辺が浅瀬で水産系のクリーチャーも近寄らなかった結果の幸運……かな?
結果から過程を推測しても意味はあまりない。
確かなのは、目の前の柱が健在であるという事実だけ。そして、それが重要なのである。
「……って事は、希望はあるって事か」
「それは否定――いくらなんでも重要アイテムが、あんな部屋の中央の柱なんて言う、いかにもな場所に設置されてるとか、ちょっと単純すぎて、期待するとバカを見そうでダメダメ。ホントにあったら設計者の考えの浅さを嘲笑えるレベル。ゲームやりすぎ。アハハ」
「……アイ姉、ちょっと頭冷やそうか」
次の瞬間――『バチャン』とナニかが水に落ちた音/『ブクブク』と水面に空気/それを見守るアクトくん――ツッコミ(裏拳)使用後の姿勢で『ヤッちまった~』って表情。
そして、三分後――
「浮かんでこねえ!?」
――今度は『ボチャン』と水に飛び込む音が、無人のフロアに響きました。
「これは意外――ファーストキッスはウナギ味☆」
「それは俺のセリフだ!」
初めてのキスが大味なウナギ風味だったことに少年は泣いた。
あれから急いで飛び込んで救出/心肺停止状態/人工呼吸――マウス・トゥ・マウス/心臓マッサージも交互にやり…………無事蘇生成功/なんとか最悪の結果は回避できたけど――
「それは否定――全部アクトの自業自得。むしろ、水に突き落とされて死にかけて、乙女の大事なものを、気を失っている隙に無理やり奪われた私の方が文句をいう立場。責任とって☆」
「反論のしようもございません!!」
少年は水に頭を沈めて土下座する(本日二回目)。
彼女も悪気があって、あんな否定的な事を言ったわけではない。むしろ、期待しすぎてガッカリしないように予防線をはってくれただけ。理解されにくい『優しさ』だったのである。
アクトもそれを理解した上で、ツッコミを入れたのだけど……彼女がカナヅチだったという事は知らなかった。だから、これは無知ゆえ起こった悲劇。知らないことは罪なのです。
「……でも、アイ姉がカナヅチだとは知らなかったよ」
「それも否定――人間は水に浮かばない。私の身体で浮かぶのは、この無駄に大きい胸だけ」
「……浮かぶんだ」
「それは肯定――お風呂に入るとプカプカ浮かぶ。所詮脂肪の塊ですから☆」
思春期真っ盛りの少年(十四歳)は真っ赤になった。
でも、視線はダメだと解っていてもその場所にロックオン。男って哀しい。
「そ、そんな事よりも、とにかくあの柱を調べよう!」
「それは不要――調べなくても、確認はできる」
そう言って、アイは柱に向かって携帯端末をかざす。
画面を見ずに指先を動かして操作/この行為に意味はない――カッコつけてるだけ。
『封印解除プログラム――起動』
端末から響く機械音声。
それに応えるように――柱の表面に無数の幾何学模様が浮かぶ/解除音/パズルが解かれるように、動き、開く柱面――表れた隠し部屋/その中央に置かれた…………古風な宝箱?
「……これは意外――まさかの展開」
「……当たり……って、コト……?」
まさかの大当たりに二人揃って目を見開く。
アイの予防線もあって、期待半分くらいの心持ちだったので……このご都合主義的な展開は正直ビックリだった。ビックリすぎて焦る。アタフタ焦る。
「そ、それは早計――あの宝箱を開けたら『ここまでの冒険が宝物』って書かれた紙とかが入ってるのかもしれない。とにかく、アレを開けてみないと……早く持ってきて、アクト!」
「え、アレ持って泳げと!?」
宝箱は子供が入れるぐらいのサイズに見える。
安全装置がどんなモノかは解らないが、あの箱だけでも凄く重そうに見える。
……そもそも動かせない可能性もあるのに、この娘は無茶をおっしゃりやがりますネ。
「それは当然――私、泳げないから」
「いや、あの宝箱持ってくるより、アイ姉背負って泳いだほうが楽だろ」
「それは肯定――じゃあ、背負って」
言うが早いか、子泣きジジイのようにアクトの背中に飛びつき――ドッキング完了!
――……あれ? 俺一人で確認してくるって選択肢がいつの間にか潰されてる!?
気付いた時には、もう遅い――背中に柔らかい感触/さきほど瞳に刻みつけたものがフラッシュバック/『浮かぶ』、『無駄に大きい』、『プカプカ』、『脂肪の塊』/脳裏に響く声を振り切るように――いざ、発進!
……若さ故に、文字通り苦労を背負い込む、哀しい、哀しい『漢』でありました。
※衣服を着たまま、人を背負って泳ぐのは危険なので止めましょう。
「じゃあ、開けるよ」
「それは了承――何が出るかな、何が出るかな~♪ 爆発しちゃったりするかな~♪」
「……ホント、勘弁して下さい」
律儀に断りを入れた事を後悔しながら、アクトは宝箱に手を伸ばす。
その手がプルプル震えるのは緊張の為……ではなく、泳ぎ疲れて疲労困憊なせい。
そんな指先が宝箱に触れた瞬間、『パチっ』と静電気が走り――
『ここに眠るのは希望であり絶望』
――隠し部屋に渋い男の声が響き渡る。
『故に、コレを手に入れる汝が「正しき悪」であること祈る』
「正しき……悪?」
「それは口癖――『誰にも共通する絶対的な価値観が存在しない以上、完全な正義も存在しない。誰かにとっての正義は、誰かにとっての悪! 正義なんて言葉は、独善主義者の戯言! だから、自分が間違っていることを知っていて、誰にもその考えを押し付けず、独りでも理想へ突き進む人……それが「正しき悪」なのだ~!!』ってお祖父様がよく言ってた。たしか元ネタはお祖父様の尊敬する禍神博士の――アナタのお祖父様の言葉」
「じゃあ、この声が……こんな地下都市を創るために利用された挙句に始末されて、責任全部被せられて、解りやすい悪役に祀り上げられた大馬鹿野郎の声なんだ」
アクトの表情が苦虫を噛み潰したような複雑モノに変わっていく。
その心を、怒り、憎しみ、哀しみ――やるせない、行き場のない感情に絞めつけられて。
「これは補足――そして、ありとあらゆる可能性を考えて、希望を残してくれた人の声」
目の前には既に災いが振りまかれ、希望だけが残されたパンドラの箱/希望――この都市を創った男が、万が一の事態に備えて残した『安全装置』/一発逆転の可能性を秘めた切り札。
静かな音を立てて開いていく箱を、二人は『ゴクリ』と生唾を飲んで見つめる。
そして――
「……なにコレ?」
――二人はその意外なカタチをした『希望』を見て、途方にくれた。




