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終、『未来へ繋がる何か』

「はじめまして、こんにちは」


 それは、出会った日の思い出。

 無人の居住区の一角――黎明期の混乱のゴタゴタで生まれた瓦礫の山で二人は出会った。

 正確には、ゴミを漁って生きる糧にしていた少年に少女が会いに来た、が正解。

 迫害されて生きてきた少年は、少女を警戒する/目の前に迫害してきた人間がいるのに短絡的に復讐に走らない――そんな少年の姿に、少女は知性の輝きを感じていた。

「…………なんかよう?」

「へえ、意外。アンタ喋れるんだ。誰に言葉教わったの?」

 質問に質問で返す失礼な少女。

 少年は懐から小さな箱を取り出して見せる。

「……コレで覚えた」

「ラジオ…………まさかのスピードラーニング方式!?」

 教わったのではなく聞いて覚えた、と少年は言う。

 ちなみにラジオ番組は有志によるFM放送/外部電波は壁により遮断されているため、外の番組は聞けない――しかし、人間らしく生きるためには娯楽は必要不可欠っていうことで、一部の住民が番組を作っているのです。

「あはは。すごい、すごい。そんな方法で言葉覚えたとか、どこのマンガよ、ソレ!」

 なにかツボに入ったようで、少女が腹を抱えて笑い出す。

 突然現れ、バカにするように笑い出す少女に……少年は嫌悪しか抱けない/第一印象最悪。


 そして、少女はひとしきり笑ったあと――その『手』を差し出す。


 グーで――目をつむって、注射を我慢する子供みたいに何かを待っている。

 少年には意味不明な行動だった。

 あまりにも意味不明すぎたから、毒気を抜かれて――思わず尋ねてしまった。

「………………なんのつもり?」

「噛み付かないの?」

「なにいってんだ、アンタ!?」

「おかしいな……野生動物は手を差し出されたら噛み付かずにはいられないって、お祖父様が言ってたのに。それで、怖くないアピールするとコロッと懐いてくるって……」

「……バカにしてんのか」

「まさか。私はいつだってマヂで本気に大真面目に真剣なんだから」

「うん。解った。バカにしてるんじゃなくて、アンタがバカなんだ」

 名前の無い少年はただひたすら呆れた。


 ……そんなのが、彼と彼女の出会いだった。


 続けて、いろいろな思い出がフラッシュバックしていく。

 心臓をナノマシンに侵食されて死んだライバル/脳を侵食されて、今も眠り続けている妹のような女の子/みんなを守ろうとした挙句にバケモノになり、みんなに殺された友達。

 それはナノマシンの暴走が引き起こした悲劇。

 強く願った結果、人一倍頑張った結果引き起こされる悲劇。

 頑張った人間がバカを見る……そんな狂った世界で紡がれた悲劇。

 それが終わったことを、現在のアクトは知っている。

 ――……夢、か。

 それを意識した瞬間、気づきたくないことにも気づいてしまった。

 ――……ああ、そっか。俺、生きてんのか……。



「……気分は、どうだ?」

「寝起きにご老人の顔アップは最悪だと思います」

「フ……そんな冗談が言えるなら問題ないな!」

 目覚めてみれば、あの闘いから既に三日経過していた。

 あれから――アクトの勝利を見届けた住民達は、すぐさま救出隊を組織して地下百階を目指した。当初は困難な道になるかと思われたが、マザーのプログラムが修復されたことにより、都市の妨害ワナが無くなっており、さらにクリチャー達も防火シャッターなどにより『偶然』隔離されていたので、半日と経たずにマザールームへ到達することができたらしい。

 その時、既にアマメの姿はなく、救出隊は瀕死のアクトと、アイだったモノを確保し帰還。

 そして、現在に至る――

「――と、言った感じだ。すまんな、余計なことをして」

「なんで、謝るの?」

「自己満足でウヌを救った」

「…………」

 重い空気が場を支配する。

 イリマは暗に『死にたかったんだろ?』と言っていることが解ったから、アクトには何も言えなかった。それこそ余計なことまで言ってしまいそうだから、口を閉じた。

 だが、イリマの方は止まらない。 

「正確には中途半端に救った、だな。『加速進化』の影響で既にウヌの身体は遺伝子レベルで人間では無くなっておる。人の形はしておるが、中身は完全な別物……まともに生きるのは難しいだろう。それこそ、たぶん死んだほうがマシなぐらいにはな」

「……本人目の前にしてハッキリ言うね」

「嘘をつく意味が無い」

 イリマは淡々と事実だけを告げる。

 だから、聞いてるアクトもあまり感情的になれない。

 同情して涙ながらにでも語ってくれれば、感情を爆発させることもできたのに――と、彼は悔しく思った/対するイリマは、機械的に言うことで少年の怒りを煽っていたのだが……残念ながら不発だった様子。

 ――……殴っては、くれぬか。

 子供達を死地へ向かわせた『罪』に対する、解りやすい『罰』が欲しかった。

 とても甘い考えだと解っていても、求めずにはいられなかった。

 激昂して、『こんなことになったのは誰のためだ』とでも言いながら殴って欲しかった。

 この少年に殺されて――死んで楽になりたかった。

 だが、アクトは応えてくれない。

 ――……そうだな。生きて、償い続ける方が苦しいからな……ホント、お互い嫌になるな。

 数秒間の沈黙――諦めた老人/溜息と苦笑――少年も苦笑で返す。


 痛みも違和感も、疲れすら無い――完全状態な身体で、アクトはゆっくりと立ち上がる。

 ――これで死にかけてから三日しか経過してないとか……ホント、バケモンだな。

「……ヌシの身体、人間的には問題だらけだが、健康的には問題ない。意識もハッキリしておるようだし、帰りたければ帰ってもいいぞ」

「……帰る前に寄りたいトコあるんだけど、教えてくれない?」

「ん?」

「アイ姉のお墓」



 ――……あのバカ娘……共犯者にしたなら、少しは相談しろというのだ。

 帰路につく少年の背中を見送りながら、老人は毒突く。

 ゴドーの目的が『この都市が生み出すモノ』にあったというのは正直誤算だった。

 マザーに残されていたデータ――『螺旋迷宮NAGOYAウィロー』とやらを調べた結果、『この戦いを乗り越えた「進化種」達に世界を征服させる』という無茶苦茶な計画が彼女の本当の目的で間違いないという事をイリマは確信している。

 ――まず、ナノマシンを世界中に散布する。それだけで人類の九割を無力化できるというのはこの都市で実証済みだ。その上で、ナノマシン下で自由に動ける進化種によって残る人類を制圧する……無茶だが、無理ではない、な。

 計画は無茶苦茶だが、荒唐無稽な絵空事ではない、と思えた。

 彼女の計画に誤算があったとすれば、それは全て『禍神』を読みきれなかった点にある。

 禍神博士が残した安全装置や隠し通路は彼女の計画には無いものだ。 

 そして、ナノマシンに完全適合する少年・禍神アクトがいた事も、だ。

 本来、長い時をかけてナノマシンに適合した進化種達によって、マザーまでの試練を一階ずつ乗り越えていくハズだった計画を、一人の『超越種』が一気に全て終わらせてしまった。

 しかも、守護機神撃退と同時に世界中に散布されるはずだったナノマシンも、マザーのシステムが安全装置によって修正されたため未遂に終わっている――もう一度やり直そうにも、アマメによって修正されたマザーは『ナノマシン暴走プログラム』を受け付けない/実験済。

 それは、どこまでも彼女の思惑を無視した結末。

 結局、戦いが終わって残されたのは『進化種』になり損ねた自分達――『変異種』と少し平和になった地下都市。そして、この都市に住む人々をバケモノ扱いする人類という名の敵。

 ――……散々だな。

 そんな状況を生み出すために戦ってきたわけではないのに。

 こんな世界にするために、可愛い子供達を死地へ送り出したわけではないのに。

 ――それでも……生きたいなら、なんとかしていくしかないってトコが特に酷いだろう。

「……クフ……フは、ぷっ――はは……ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」

 誰もいない部屋で、老人は狂ったように笑い出す。

「……ああ。その程度の事はここでは日常茶飯事だ! 面白い。やってやろう。我等は世界が敵だろうが絶対に負けぬ! 絶対に復讐してやるから、首を洗って待っていろ、バカ娘!」

 その声に応えるモノはいない。

 だから、老人は気が済むまで狂ったように笑い続けた。



 数日ぶりの居住区には屍の山が築かれていた。

 仰向けで白目を向いている男、全裸で逆立ちしている男、自らの吐瀉物に溺れている男。

 昼夜を問わず行われた『祝勝パーティー』で力尽きたダメな大人たちである。

 アクトはそんな屍の群れを、苦笑いを浮かべながら進む。

「……バカばっか、だな」

 バカだと思うけど、勝利を素直に喜べる彼らが羨ましい。

 自分達の勝利を我を忘れるほど祝ってくれる彼らを好ましい、と感じる。


 しばらく歩くと……こちらに向かって駆けてくる人影が見えた。


 必死の形相で全力疾走してくるのは、どこかで見た少年。

「あ、あ、あ、アクト兄ぃぃ――――――――――――――ッ!」

「あ、うん。よ――ぐぉっ!?」

 急ブレーキする少年――すれ違い/アクトが振り返ると、腰にタックル――痛い。

「だ、大丈夫なの! 怪我、もう平気なの!? 痛くないの?」

「あ、ああ。腰が凄く痛い以外は大丈夫」

「ダメじゃん! 腰は大事なんだよ! 安静にしてないと!」

 皮肉の通じない天然さんでした。

 でも、心底心配してくれているのが解るから、注意もできない。

 言葉に詰まったアクトは、とりあえず話を逸らすことにした。

「俺のことより、お前はどうしたの? なんか凄い鬼気迫ってたけど?」

「あ、そうだよ。大変なんだよ! 一大事なんだよ! どうしよ! どうしよ! あわわ~」

「お・ち・つ・け!」

 オーバーアクションで狼狽える少年を、脳天チョップで黙らせる。

 涙目で頭を抱え、うずくまる少年/手加減したのだが……ちょっと力加減間違えたらしい。

 ――……やべえ、もっと加減しないとダメか。

 今の自分には、あの機神を素手でぶち壊せる膂力がある事を完全に失念していた。

 第二世代の少年が常人より頑丈にできていなければ、今のチョップで脳天破裂していたかもしれないという、かなり恐ろしい事実に思い当たって戦慄する。

 でもそんな恐れを表には出さない。

 むしろ思いっきり誤魔化すように、平気な表情で続けてやる。

「で、どうしたんだ?」

「そうそう。大変なんだよ! 聞いてよ、アクト兄! ビックリなんだよ!!」

「はいはい。大変なのは解ったから簡潔に言え」


「暴れ牛だよ!」


 ろくでもない未来が容易に想像できる御言葉です。

「あのね、祝勝パーティーやってたらメインな食料が不足してきたんで、第二世代で適当にパーティー組んでメイン食材ゲットなハンティングに行ったんだけど……見つけた獲物が大物過ぎてどうにもならなくなって……逃げようとしたら追いかけてきて、結局『ここまで』ついてきちゃったんだよ!!」

「アホか――――――――――――――――――――――――――――――――――ッ!!」

 子供は大人よりダメダメだった。ビックリだ。

 ちなみに、変異した生物はマザーを修正しても元には戻らない。

 狂った生物は狂ったまま生物として営み、狂ったまま生態系を維持・繁殖する。

 つまり、この都市は依然『クリーチャー』で溢れてて、時間とともに増えていくのである。


 見れば、少年の後ろ――遠くから近づいてくる怒りと殺意のカタマリ/縦方向にアクトの倍はあろうかという巨大な牛のようなモノの姿――後数秒でエンカウントな距離にソレはいた。

「……アレか?」

「うん。ボクが囮になって、仲間たちを逃したからね!」

「囮になるなら、人気のない方向に逃げろよ!」

 後ろにはダメな大人たちが死屍累々――逃げたらヤバイ。

「ああ、もう!」

 仕方がない。

 本当に仕方がないから、拳を振りかぶり――


「こっち来んな!」


 ――その巨体を叩きのめす。

 大振りの一撃/電撃付加――地面に叩きつけられ活動停止する暴れ牛。

 ……今は生物の命を奪う気分ではなかったので、殺さないで終わらせる。

「すっげぇ!」

「まったく……これからは気をつけろよ」

 ――……ハァ……こいつらに後を任せるのは不安だなぁ……。

 それでも後を託して、再びアクトは帰路につく。

「うん。じゃあねアクト兄! またね!!」

「じゃあな」

 背中越しに手を振るアクト/少年は大きく手を振りながらその背中を見送った。

 何故か、二度と会えないような気がして……見えなくなるまで見送った。



 重い扉が開いていく。

 肌に感じる清浄すぎる風。

 眼を刺すような黄金の輝き。

 あの日二人で見た、異常な光景。


 数日前にアマメと一緒に通った門を独りでくぐる。


 遺体を回収したなら、墓があると思った。

 アクトは居住区の片隅にある共同墓地のどこかだと思っていたのだが、意外にも彼女の墓は博士によって地上に作られたらしい――地下都市を開放した人間を地上に埋葬するとか博士も大概ロマンチストである/でもアクトは博士のそういうトコが大好きです。


 ――……うん。俺達の『死に場所』にはちょうどいいかな。


 帰る前に寄りたいところなんてない。

 自分が帰るところは、彼女のいる場所だから。

 だから、自分が帰るべき場所に、真っ直ぐ、一直線に帰る。


 その光のなかに、『誰か』が立っていた。


 逆光で顔はよく見ない。

 キラキラ輝く長い銀髪/アホ毛二本/アクトより小さな身長/柔らかな体つきから――十歳かそこらぐらいの女の子と推測(これで男の子だったら嫌だな~という願望込み)。

 だんだん目が慣れてくる。

 眩しすぎる光に目が慣れて、少女の顔が視えてくる。

 思い出の中のアイと、アマメと同じ顔をした少女の顔が。

 これで他人の空似なんてありえない、と思えるその女性が。

 だから、これはアマメがなにか裏ワザを使ったんだと思った。

 彼女が、ナノマシンを上手く使って生き延びたんだと期待した。

 もしかしたら、アイを生き返らせてくれたんじゃないかと期待した。

 ――博士も人が悪いな。こんなサプライズ企むとか、ホント、ヒデェよ。

 世の中捨てたもんじゃないと嬉しくなった。

 だから、満面の笑みを浮かべて――彼女の名前を呼ぶ。

「ア――」


「初めまして、こんにちわ……なの」


 真面目な顔で――少年の呼びかけを拒絶するような――第一声。

 そんな、一言で少年の期待は完膚なきまでに打ち砕かれた。



「あの時……禍神アマメは『アナタの幸せ』を願ったの」


 金色の瞳を持った少女が淡々と告げる。

「それで考えに考えた末、その場にあったもので自分達の代用品を創ることにしたの――床にに転がってたアイの遺体を分解して、足りない部分は彼女自身を構成していたナノマシンで補って再構成――そうやって二人の少女の抜け殻を再利用して創られたのが私なの」

 軽い口調で自分を卑下する少女。

 その顔には誰が見ても強がりと解る笑顔が浮かんでいる。

「なんで、アマメはそこまで?」

「アナタが死なないコトが解ってたから、なの――アナタはあの瞬間、死を乗り越えたの。そうなの。現在のアナタはこの地下都市限定不老不死なの!」

「地域限定特産品みたいな言い方だな!?」

「でも、それは『幸せ』なんかじゃないの――むしろ幸せから程遠いモノなの」

 不老不死――過去、幾人もの人間が求め、誰一人到達できなかったユメ。

 そんなモノを実現できる存在はもはや人間ではない。紛うことなきバケモノだろう。

「そんなアナタの為だけに、私は創られたの――だから、責任とるの!」

「……別にいいけど。具体的にどんな感じに責任とればいいんだ?」

「ヨメにして三食昼寝付き――ダダ甘やかしライフを所望させていただくの!」

「……それで俺、幸せになれるの?」

「うん! アナタは女の子に無理難題を押し付けられる時こそ、もっとも輝く漢なの!」

「…………くぅ」

 つい先日、似たようなことを言われた事を思い出す。

 もう何年も昔の出来事のような気分だったが、確かにあった――

「――あ! 記憶、あるんだ」

「もちろん記憶はあるの――それが自分のモノだとは、どうしても思えなくても、あるの」

 つまり他人の記録を見ているような違和感があるらしい。

「例を挙げると……寝てるアナタにイタズラした記憶とか、寝てるアナタに裸で抱きついた記憶とか、寝てるアナタを裸に剥いた記憶とか、寝てるアナタの体中を舌でペロペロした記憶とか、寝てるアナタ相手に処女喪……」

「起きてる時にやれよ!」

「解ったの――じゃあ、『私』は起きてるアナタに堂々とするの」

「そうじゃなくて! あ――――っ!!」

 あまりの展開に脳の情報量を超えかけて――アクトは地面に転げながら叫ぶ。

 ひとしきり転げたら――爽やかな表情で立ち上がる/情報整理ができたのではなく、考えるのを止めた結果の爽やかさ――人はそれを現実逃避と呼ぶのだが、問題ない。それより本題。


「……ところで、俺はキミのことなんて呼べばいい?」


「好きなように、なの――アイでもアマメでもいいの。私は『違う』けど、アナタがソレを求めるなら精一杯応えるの。アイとしてアナタを愛して、アマメとしてアナタを慕うとか、全てアナタが望むままに……それが人形わたしの存在意義だから……なの」

「……そういう哀しいこと、そんなに嬉しそうな表情で言うなよ」

「持ち主に愛してもらえない人形に意味はないの――だから、私は精一杯、愛されるための努力をするの。愛してるヒトに愛されるための努力をするはあたりまえなの」

「愛してんの?」

「愛してます、なの――だから、アナタが呼びやすい、心を込めやすい、甘いささやきに繋げやすい名前をプリーズなの! 責任持って可愛がってくださいなの、御主人様☆」

「後ろ向きかと思ったら、かなり前向き!?」

「甘い言葉をささやいて、アマメにしたように優しく頭をナデナデしてくださいの――それで私は満足なので、あとは御主人様の獣欲の赴くままに、私のロリっ娘ボディを貪るの。全力で貪るの! どんな過激なプレイにも全身全霊で応えてみせるの! 過激に責めるの! 思いっきり痛くするの! 思いっきり踏むの! 私を無理やり這いつくばらせて、アナタの逞しい御御足で踏みつけるの! 痛みが快楽に変わるまでグリグリするの!」

「HENTAIサンダ――ッ!!」

 カミナリが落ちたような衝撃だった。

 ハイライトが消えた金色の瞳/蘇った死者が襲いかかってくるようなポーズで這い寄るように近づき行為を強要してくる恐怖の少女に……地下都市を救った不死身の英雄は泣き叫んだ。

 何と言う事でしょう! 激しい戦いの果てに生き残ったのは、肉体を人外に『変態』させた少年と精神が交じり合った挙句『変態』性が強化された少女……似て非なる二人の変態。

 ちょっと健全な青少年は、いけないと思いつつ、少女との行為を想像してみる……。


 ……目の前に半裸の少女。

 その少女を素足で踏みつけて屈服させる/グリグリと捻りを入れてその背中を踏みにじる。

『いまどんな気分か言ってみろよ』

『い、や……なの。そんなはしたないこと言えないの』

『へえ……じゃあ、もうやめようか?』

『ダメなの! 言うの。言うから……もっと、お願いしますの。もっと……下の方……』

『この変態さんが。ここか? ここがいいのか? 痛いか? 痛いだろ? ほらほら!』

 場所を変えて、その背を刺激していく。

 強く、激しく。優しく、甘く。

 楽器を奏でるようにリズミカルに刺激し、少女を鳴かせる。

『あ、あん☆ 痛くないれすの。気持ちいいれすの。しょこ、しょこがすっごく、すっごく気持ちいいんれすの。もう、らめ! わらし、もうらめなの~! でも、やめないれ。つづけてくらさい……あ、ああん☆』

 快感に身体を支配された少女は、少年のなすがまま。

 恍惚とした表情で、それでも果てなく続きを求める……。


 ――……うん。まるっきる『足踏みマッサージ』だな。

 衝撃の真実! 彼女の求める行為をイメージしたら、まんま『足踏みマッサージ』だった!!

 恐るべきは快楽を求める人の業の深さである。

 ……なんかいろいろ驚愕だった。

 思わず笑ってしまうぐらい驚いた。

 自分が笑っていることにも驚いた。驚きの無限連鎖スパイラルである。

 ――『幸せになって』……か。

 女の子を二人も死なせて、のうのうと生きていける気はしなかった。だから、『死ぬためにここに来た』のに……それなのに、大切な人がいない世界でも笑うことができている。

 ――……十分、幸せ、じゃないか。

 その気持ちを享受することはとても怖い。

 でも、大切な人が残してくれた想いを受け入れないなんて選択肢があるはずもない。

「で、私の名前はなんですの、御主人様?」

 だから、彼は彼女に手を伸ばし――その名を告げる。


「ああ。そうだな……キミの名前は――」


 ――END

制作一ヶ月(GW含む)で書いたヤツです。

昔考えた設定を流用し、ヒロイン&サブヒロインを失いつつ救済措置ありのラストを当初から目指して書いたのですが……書ききってGAに応募した後、これ主人公ダークサイドに堕ちて救済措置の娘をモノ扱いしつつ、地上からの襲撃者を迎え撃つようなエピローグの方が良かったのではと悔やんだものです。


……まあ、これも一次落ちなのですがね(涙

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