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御伽夜興  作者: CLWA
1/2

彼誰夜興

あるところに、火の神に仕える一族があった。

その血族は長い間神に従い、山中で暮らしていた。

麓の村にも知り得ない、古い血を継いでいた。

黒を携えたこの一族は、人でありながら火の妖を従え、火を操った。


ある時、この一族に双子が産まれた。

赤子でありながら美しく、片方は漆黒の、片方は白銀の髪を持って産まれた。

共に生まれながらに黒い炎を纏っていた。

里者は大層喜び、神童と持て囃した。

その日は皆が神に感謝を捧げ、赤子を神の子と信じて疑わなかった。

黒い炎を纏い産まれた子供は、共に神聖とされる『夜』の字を与えられた。

夜の子らはすくすくと育った。

夜の子らが八の年を数える時、里が天災に塗れた。

夜の子らは黒い炎により大事なかったが、里には大きな被害が出た。

それからも度々天災に遭うようになり、その度に夜の子らは無傷で済んでいた。

次第に里者は夜の子らを気味悪がるようになった。

そのうち里者は白銀の夜の子が齎しているのだと言うようになった。

それからは常に二人でいた夜の子らは別れ、二人は寂しがった。


少しして再び天災が襲った。

その時漆黒の夜の子は白銀の夜の子を探し、大きな傷を負った。

それでもなお諦めず、また探しにといったところで白銀の夜の子が訪れた。

「なんてことを。守り切れなかった」

白銀の夜の子は漆黒の夜の子を助け、傷を癒した。

その様子に呆気にとられ、白銀の夜の子が己より遥かに大きいことに気付いた。

「私は最早『夜』ではない。名も姿も取り上げられてしまった。今の私は妖だ」

漆黒の子は酷く驚いた。

「私は守護する『夜』ではない。害為す妖となってしまった」

白銀の子は嘆き泣く。

「私たちは『夜』だ。黒い炎が証しだ」

「それすらも今の私には無い」

炎も失ったという言葉に、漆黒の子も嘆いた。

「せめて炎があれば私が守護できたものを」

「『夜』は妖を従えるのみ。守護はない」

「ならば私が名を分けよう」

名を与えるという言葉に、白銀の子はただただ驚いた。

「名を得、それでもまだ妖であるならば、私の手となれ」

漆黒の子の言葉に、白銀の子は泣いて喜んだ。

「我は夜興。汝は夜興。我らは夜興だ」

白銀夜興は人に戻らなかった。

漆黒夜興は残念がったが、白銀夜興はそれでも喜んだ。

「我らが夜興である限り、私は『夜』を呪い続けよう。我らが夜興であるならば、我らは不死となろう。私が夜興でないならば、私は『夜』に討たれよう。貴方が夜興でないならば、貴方は『夜』となるだろう」

この日から、夜人夜興(ヨヒトヤコウ)の傍らに妖夜興(アヤカシヤコウ)が控えるようになった。


漆黒夜興が十二を数えた時、再び天災に見舞われた。

『夜』の守護もなく、里は酷く荒れた。

白銀夜興も大きな傷を負った。

「神も『夜』も夜興を守護しない。白銀に産まれたというだけで妖に落としなさる」

漆黒夜興はただ嘆いた。

「我らが夜興でいるうちは私は死にはしない。たとえ姿を失ったとしても、妖として貴方の手であろう」

これより先、夜興の傍らに妖が立つことはなかった。

夜興が齢十五を数えた時、再び天災が訪れた。

未だ『夜』は呪われたまま、里には大きな被害が出た。

その日、夜興は朧夜興と会っていた。

此度の異変を漆黒夜興によるものと考えた里者は、漆黒夜興を痛め付けた。

漆黒夜興は歩くことができない程の傷を負った。

それに怒った朧夜興は、『夜』に向けていた呪いを里者にかけた。

「私を妖に落とすばかりか、夜興から『夜』を奪おうというのか」

それから里者は二十を数えず死ぬようになった。

暫くすると、長命な夜興の名を知る里者はいなくなった。


随分経った後、里をまた災害が訪れた。

漆黒夜興は大きな怪我をし、臥せた。

長く目覚めず、里者が何代も産まれ、死んでから漸く目覚めた。

その時、漆黒の子は全てを失っていた。

里者は彼を夜の子と呼んだが、彼自身はその呼び名を拒んだ。


漆黒の子はある時、人の朧影が付き従うことに気付いた。

昼に影は見えず、目に留まるは何時も夜明け前、彼誰時だった。

「あれは誰だ?」

漆黒の子の問いに答えられる里者はいなかった。

漆黒の子は残念がった。

その後も鳥に獣に、見かける度に訊いた。

それでも誰も答えることが出来なかった。

漆黒の子も諦め、最後に訊いた影が、唯一答えを返した。

「彼は夜興。黒陽夜興(クロビノヤコウ)だ」

漆黒の子は驚き振り向くが、影はいない。

それでも礼を言い、夜興の名を口に出した。

「彼は夜興。夜興だ」

それから二度と、夜興の朧姿は現れなかった。

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