いじらしさあまって
婚礼衣装を纏った彼女を一目見て思った。
やはりこの縁談は間違っているのだと。
そう、彼女はあまりに美しすぎた。
美の女神ですら嫉妬するではないかと感じさせるまでに。
こんなにも醜い俺と並ぶなんて、以ての外。
だがもう何もかも遅い。
彼女は誓いの言葉を返した。
彼女は指輪を受け入れた。
彼女は口付けも交わしてしまった。
そして今は寝台の上で横たわっているのだから。
「ボルケノ様……」
細々とした声で呼ばれ、思わず喉が鳴る。
清楚な乳白色に露出も少ない衣装だというのに、
どうしてこうも艶めかしいのか。
年甲斐もなく気持ちが昂ぶるのが分かる。
欲望にかられるまま手を伸ばそうとして気付いた。
堅く閉じられた瞼と震える肩、指先が白くなるまで掴まれたシーツ。
怯えているのか。それもそうだろう。
無理矢理嫁がされた上、
こんな息を荒くした男と初夜を過ごさねばならぬとなれば。
冷静になる頭。甘っちょろいと言われそうだが強いるのは可哀想だ。
本人に意思がなくとも、こんな醜い俺の妃になってくれたのだ。
できる限りは大切にしたいと思う。
嫌がる女を手籠めにするなんぞ外道のやる事だ。
一国を担う王とすればあまり褒められない思考ではあるが、
俺は生まれついての王ではないのだから仕方あるまい。
しばし経って、どうしようもなくなったら考えればいい。
そんな訳で抱かずとも別に俺は一向に構わないんだが……。
印がないと周りがうるさいだろうしな。
不仲をうたわれるかもしれん、あと他の男を通じてたとか。
どちらにしろ、辛い思いをするのは王妃だ。
もっとえげつない言動をやられてきた俺としては今更どうとも思わん。
(……作ればいいのか、嘘を)
指先を噛み切る。ブチと音、痛みも若干。
滴る感覚にこれでいいと指を寝台の方へ。
垂れる血がシーツに落ちた。
「……寝る」
「え?」
予想外の事だったらしい。彼女が目を丸くした。
彼女の隣へ潜り込んで背中を向ける。
初夜の偽装は済んだ。
これなら要らぬ噂が立つ事もなかろう。
こんな時ばかりは年老いていて良かったと思う。
なんせこれほどの据え膳。
彼女と同じく青い頃ならきっと自制など利かなかっただろうから。
しばらく彼女も慣れぬ国に連れてこられ、
疲れざるをえないだろう。
落ち着いたら少しずつ歩み寄ってみようか。
それでいつか本当の夫婦になれたら……いいけどな。
そんな夢のような出来事に憧れながら目を閉じた。
陛下と違って紳士なボルケノさん、別名ヘタレとも言う。
根本的なところで間違っているので手は出さない。
でも好感度は既にほぼMAX。ダメだこのおっさん。