卑屈な王様とツッコミ宰相
『謳われぬ末姫』『騎士姫の初恋』『不器用陛下の両片思い』
『賢姫が愛した庭師』『紅薔薇姫と銀の蜂』
と共通世界のお話。そっちを読んでいた方がわかりやすいかもです。
さてさてようやく今回で王女様方の物語も終了ですね。
最後?を飾るのは第三王女様。
え、なんですか。なんで断言しないのか?
それは後々のお楽しみと言う事で。
彼女の恋もまた、他の王女様と同じく、
長く募らせてきた恋なのでした。
ただ一つ違うのは、彼女の恋は片思い。
相手の殿方は彼女の恋心をまるっきり気付いておりません。
なんせ二人が出会ったのは一度きり。
おかげでどうにか再開にこぎつけたものの、前途多難の様子。
無事に王女様の初恋は成就するのでしょうか?
それではゆっくり見守る事といたしましょう。
「縁談、だと?」
信じられない気持ちから顔が強ばるのが分かる。
他者曰く人を殺せる視線を話を持ちかけた宰相に向けるが、
当の本人は気にすることなく、淡々と肯定を口にした。
「肝心のお相手だがな、ボルケノ。
ラドゥガ国第三王女セシェルイーズ様からだ」
「……何かの間違えだろう」
「いやぜひお前の王妃になりたいだとよ」
涼しい顔で宰相こと、
軍人時代より十数年の付き合いになる親友は言い切る。
手紙を受け取り、目を通すが本当だった。
だがどうも信じられない。どうしてあの娘が俺などに。
「しかも王女様直筆と来たもんだ」
「……嫌々書かされたに違い無い」
「は?」
「そうでなければありえんだろう」
「お前ちょっと自信持てよ、ボルケノ」
そうは言われても、己の醜悪さを自覚している以上、
友の言葉は慰めにしか聞こえない。
俺は正式な王族ではない、軍人からの成り上がりである。
その経歴故に体は傷まみれだ。全身にくまなくついている。
更に顔の右半分に至っては火傷で爛れているのだ。
おかげで仮面が手放せない状態。
性格とて褒められたものでない、
特に優れた才がある訳でも、年とて一回り以上違う。
そんな男に好き好んで嫁ぐ女性が居る訳無い。
美姫と名高い彼女であれば尚更。
「で、どうするんだ。断るのか」
「宗主国からの慈悲だぞ、断る訳にはいくまい」
「慈悲って……まあ断れないのは確かだが」
「お優しいラドゥガ王の事だ。
この年になっても女の一つも作れない俺を、
哀れんでくださったのだろう。
……それか、監視役かもしれんな。
軍事上がりの荒くれが治めるような国、信頼できまい」
「……それはない、まずない」
「?」
「お前、そんな卑屈になってどうすんだ……。
あのな、ラドゥガ王っつったら、
単身で大陸一つ滅ぼせる魔力の持ち主だぞ。
最強の魔法使い、わかるか」
宰相が頭を抱えながら言う。
その溜息に含まれているのは呆れと驚愕。
「しかも家族命だ、こっちにまで伝わるレベルの。理解してるか?」
「家族思いの方だろう。知っているが」
「冷静に考えろ、ボルケノ。
監視役にするならか弱い娘よりゴツイおっさんにする。
まかり間違って穢されたりしたらたまらんからな。
そもそもここなんか指一本で潰せるんだ。
あの超絶親バカが大事な大事な娘を必要ない人質に出すかっつーの!!」
いつも平静な宰相が声を荒げて怒鳴りつけてきた。
彼は髪を乱し、ぜーぜーと息を吐く。
初めて見た珍妙な光景にぽかんと呆気に取られた。
「……だから、お前は本気で愛されてるんだってば」
「そうは言われてもな」
「だっー!そのマイナス精神どうにかしろよー!」
「とりあえず落ち着け、ハルゲン」
「テ メ エ が 言 う な !」
彼の口調が宰相から軍人時代のそれへと変わる。
長年の鬱憤が溜まっていたのか、
その後もしばらくの間、説教を浴びせられる事となった。
恋に臆病な王様と、愛に一生懸命な王妃様のお話。
のはずなんですがヒロインが出てこないミステリー。
お相手がおっさんなのは私の趣味です。
お付き合い下さりありがとうございました!