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女子高生吸血恋愛事情以下略。  作者: 理祭
人を殺すべからず
4/26

  ◆


 うつらうつらとしているうちに、夕方を迎えてしまっていた。

 お母さんが、今日ははやくお湯沸かしたから入っちゃいなさいと私のことを起こしにきたので、よっぽど家の中に充満する湿布薬の匂いが嫌だったのだろう。私は浴場へ向かった。私自身の鼻は、昼寝から目覚めた頃にはもう麻痺しきってしまっていた。

 身体を洗い、入念に髪を濯いでから、たっぷりと湯の張られた浴槽につかる。吸血鬼というのは基本的に清潔好きだ。互いに鼻が利くため、自分達の体臭にだって気をつける。人間のように香水などで安易にごまかすことができないからという理由もあった。

 あの湿布薬のおかげで多少痛みがひいたように思える(そうでなければ我慢した甲斐がない)足首に触れて、ゆっくりと揉んでみると、やはり、痛い。これくらいの怪我なら、一晩寝れば気にはならなくなると思うのだが。

 のぼせる寸前くらいまでつかってから、洗面所にあがって、簡単に髪を拭いて、体の水分を拭き取った。バスタオルを巻いた格好で洗面台の前に椅子を持ち、収納棚からドライヤーを取り出してお手入れをはじめる。

 一cm伸びるのに人間の倍以上の日数がかかるのだから、私のような若い吸血鬼にとって髪の手入れはなににも勝る真剣事だった。人間のように軽々しく脱色したり、パーマをあてたりする気にはなれない。ただ、彼女達が読んでいる雑誌を見たり、彼女達自身と街ですれ違うと、少し羨ましい気分になるのも確かだった。

 長い時間をかけて髪の手入れをすませると、次に私は肌の手入れもすませてから、ようやく洗面所を出た。

 リビングに行くと、テーブルの上に湿布薬が置かれてあった。茶色の、匂いがないやつだ。私はソファに座ってそれを足首に貼り、キッチンに向かった。


「お母さん、手伝う?」


 いつものように聞いてみたのだが、


「足、痛いんでしょ。休んでていいわよ」


 と言われたので、遠慮なく甘えることにした。それでもお皿の準備だけしてリビングに戻り、ソファに座ってテーブルの雑誌を拾う。テレビはあまり見ない。騒がしいだけだった。

 やがてご飯の準備を終えたお母さんが料理を運んできて、二人で夕飯を食べた。お父さんはいつものように遅い。私には、どちらかといえばありがたいことだ。

 吸血鬼にも思春期というものはあるのである。

 後片付けも今日はいいというお母さんに礼を言って、私は自室に戻った。明日の二学期の始業式、そのタイムスケジュールと必要なもの(といっても、制服くらいだ)を確認して、ついでにカレンダーを見る。

 明日は金曜日。つまり始業式があって、また二日お休み。授業は来週からだ。

 土曜日、一時。

 昼間交わした不本意な約束を思い出し、私は卓上のペンを取ってカレンダーに予定を書き込もうとして――やめた。まるで自分がその日を心待ちにしているようで、それはなんだか大変不条理なことに思えたのだ。

 また嫌なことを思い出してしまった。

 部屋にこもった匂いを逃がすために、お母さんが開けておいてくれたのだろう。全開になっていた窓を閉めると、私はそれからしばらく雑誌を読んだり、友人からのメールに返事を返したり、少しだけ予習もして、十時にはベッドにもぐりこんだ。昼寝のせいで眠れるかなと心配したけれど、思ったより早く睡魔がやってきて、私はすぐに彼、あるいは彼女に意識を委ねた。



 ――夢を見た。

 薄暗闇に、たまに赤い光が漏れ出る。どこかわからない広い空間だった。

 霧のような闇の中で私は手探りになにかを探していて――伸ばした手を、逆に掴む手があった。

 電撃が走った。

 意識が飛び、腰が砕けそうになる。

 私はあわてて手を振り解いて、一転してそこから逃げだした。

 わからない。自分が誰から、なにから逃げているのかもわからない。

 ただ焦慮だけがあった。

 前へ、前へ。

 だが確かな地面さえないそこでは、果たして自分が進んでいるかどうかもあいまいだった。

 背後からなにかが迫ってきている。そんな焦りだけがどんどん心の中で大きくなって、私は泣きたくなって口を開いた。

 誰かを呼ぶ。

 不意に目の前に誰かが現れた。顔も、格好も、よくわからない。

 いや、そんなもの見てはいなかった。

 なぜならそこに誰かが現れた瞬間、もう私の頭は蕩けきっていたからだ。

 どうでもいい。

 私は自分でも抑えきれない衝動に身を任せ、そして――


 はっと、そこで目が覚めた。

 暗闇。だがすぐに視界の中で物が輪郭をなしていく。傍に置かれた目覚まし時計を見ると、真夜中だった。

 じわりと、嫌な感触があった。

 暑い。寝苦しい。だがそれは外気の問題というより、自分のせいであるようだった。

 いつもはほとんど汗なんてかかないというのに――全身が湿っぽい。

 額にはりついた前髪が気持ち悪かった。かきあげようとして、拍子にシャツがその部分にこすれてしまい、小さく悲鳴をあげてしまった。

 私は寝る時はいつもブラを外すようにしている。そのことを忘れてしまっていたわけではないが。気づいては、いなかった。

 私はうずきに耐えるように身を丸めて、やがてそっと全身の力を抜いた。

 今度は気をつけて身体を動かす。

 なんとかそれに成功して、ほっと吐くその息までもが……ひどく湿っていた。



 今度は夢を見ることなく、次に目が醒めた時には白が世界を圧倒していた。

 脳が焼かれるのを防ぐようにゆっくりと目を開けながら、上半身を起こす。手探りで目覚まし時計を手にして見ると、六時だった。

 ようやく色彩が落ち着きを取り戻してくる。私は時計を元の位置に戻し、まだぼんやりと働かない頭でゆっくり十を数え、最後のカウントを合図にベッドから飛び出した。

 んーっと、万歳するように背伸びする。

 眠気が、けだるさと共に脊髄を駆け登り、手のひらから放出されていく感覚。ひっぱられるように頭のもやもやも外に追い出されて、あとにはいつもの私が残る。

 部屋を横断して、窓を開けた。

 灰色の世界のなかで通りを歩く人影が見えた。ジョギングや、朝刊を配っている。

 この時期の空気はこの時間でもひやりとしたりはしないが、新鮮なことは確かだ。思いきり深呼吸をすると、さぼりがちな細胞が否応もなく活性化していくようだった。

 廊下に出ると、階下から包丁の音が聞こえてきた。

 ふと、足の痛みがほとんどないことに気づいた。吸血鬼の回復力と、足首に巻かれた湿布に感謝する。脳裏をかすめた誰かにも、ほんの少しだけ感謝することにしよう。

 それでも無理をしないよう気をつけて階段をおりて、私はまず顔を洗い、それから朝食作りの手伝いに向かうことにした。

 トーストにハムエッグ。作りたての野菜ジュース、サラダスティック。朝食のメニューは簡単だった。それに食後の一杯がつく。


「何型?」

「Rh+A1型」

「普通ね」

「あら、普通が一番よ」


 グルメを気取るつもりはなかったから、文句があるわけじゃない。

 我が家の得血は朝に行われるのが習慣だ。食後のブラッド・ティーと言えば生々しいが、人間が健康のために毎朝、青汁とかを飲んだりするのと変わらない。もちろん、嫌々というわけでもなかった。

 お気に入りのアンティークの紅茶カップに注がれた、赤黒い液体を口元に運ぶ。鉄錆の香りが鼻孔を満たす。潮の香りにも似て濃厚な、それはまさしく生命の匂いだった。香気を楽しむようにたゆらわせてから、私はゆっくりとカップを傾けた。とろりとした口当たり。よく冷えたそれが口の中から喉を通り、やがて胃の中に落ちていくのを確かな感覚として受け取り、私はほうっと満足の吐息を吐いた。

 血の飲み方は人肌派、アイス派さまざまだが、私はもっぱら後者のほうだった。ホットなんて論外だ。砂糖やレモンなにかをまぜるのも好かない。――とても寒い冬の朝などには、自然解凍で常温に戻したそれを温めたミルクで割ったりすることはあったが。

 一杯の命を、わたしは十分ほどかけて味わった。

 おかわりはしない。毎日、紅茶カップ一杯の得血。それで私の場合はほとんど間に合っている。日曜の三時に追加を頂いたりすることもあるけれども。


「お父さんは?」


 私が聞くと、お母さんは困ったように笑った。


「昨日、帰ってこれなかったのよ。お仕事大変なのね」

「……そう」


 ご飯が終わろうというタイミングで話題に出すあたり、もうバレバレではあるのだろうけれど、私は感情があけすけにならないよう慎重に返事をして、立ち上がった。

 お父さんが嫌いというわけではない。

 恐らく同じ年代の人間の女の子にも、私と同じような人はいると思う。決して、嫌いというわけではない。ただ、父が、男性が、男が、どうしてもその事実が強く意識されてしまって、生理的な気分とともに頭から離れないのだった。つまりは――思春期なのだ。


「あ、不二さんがね、だから今日はお見送りしてくれるって。足のこともあるし、せっかくだから甘えちゃいなさいな」


 不二というのは、お父さんに使える専属の運転手さんのことだ。昨日、街に迎えに来てくれた寡黙な男。お父さんは勤め先でそれなりの役職にあって、だから運転手さんなんて持っているわけなんだけど、今日のように泊りがけの日には不二は暇になってしまう。


「わかった。今日は式だけだから、早く戻れると思う」

「お昼は?」


 その質問には、少し考えた。

 久しぶりに会う友達は、多分放課後にどこか行こうと言い出すだろう。お昼を食べて、街に出て、ショップを回る。それはいいのだけど、例えばカラオケやゲームセンターに行こうと誘われるかもしれなかったし、そういう気分ではなかった。そうでなくとも途中で言い寄ってくる連中――人間の、男――が大概いるだろうことを思うと、気が乗らない。昨夜の夢見のせいもあって、今朝の目覚めは決してよくはなかった。


「家で食べる。足、無理して癖になっちゃってもあれだから」

「そう、じゃあ。美味しいもの、つくっとくわね」


 嬉しそうにお母さんは言った。

 可愛い人だと、娘ながら思う。どうしてこんな真っ直ぐなお母さんの子である私は、こんなにも捻くれてしまっているのだろう。やっぱり、お父さんの――それともお爺ちゃんの影響だろうか。


「あ、不二さんに伝えておくけど。今日は何時に出るつもり?」

「八時過ぎ。ゆっくりしててって伝えて」


 もうすぐ朝食をとるために玄関のベルを鳴らすはずの彼を待たず、私は自室に戻った。また楽しくないことを考えてしまったせいで、気分が苛立っている。

 身鏡の前に立ち、夜着を脱いで着替える。

 私の通う高校の制服は、白と黒のモノトーンで、ぱっと見ではシスター系の教会チックなものなのだけれど、シンプルなデザインなわりにやけに着るのがめんどくさかったりする。頭から被った上着を横で留め、どこかで皺ができないよう、ぴっと張ってから適当なボタンをひっかけて、スカートの位置を調整。最後に上掛けの位置を直すと、鏡の前には「いいとこのお嬢様」が一人、清楚な佇まいで立っていた。

 と、言うには目元に険がありすぎだ。

 むやみやたらと他人に笑顔を振りまかなければいけない理由なんて知らなかったので、気にはしなかったけれど。「そんなんじゃ、小皺ができちゃうわよ」と前にお母さんに言われたのは、実は少し気になっている。

 通学鞄の準備まで終えると、私は途端に手持ち無沙汰になって、そうなると頭に浮かぶのはろくなことじゃなかった。夢のこと。お父さんのこと。お爺ちゃんのこと。血のこと、血を得るということ。私達のこと――私のこと。

 ……やめよう。

 今日から新学期が始まる朝だというのに、こんな鬱々とした気分でなんかいたくない。私は窓際に腰掛けて、時計の針が八時ちょうどを指すまでの間、なにも考えないでいようと――そんな無駄なことを考えていた。



  ◇


 夏休みが終わって、これからまただるい学校生活が始まるというのに、僕の気分は晴れ渡っていた。

 恐らく、この年代の男子であれば頭の中を占めている大きな要素であるところの一つ、初体験を先にすませた連中がことさら得意げに使ってみせる「世界が変わって見える」という表現。今の僕はまさにそうした心地で、不景気な顔をした両親の顔を見ても、今日はあたたかく微笑んでみせることができた。


「父さん、母さん。おはよう」


 母親に気持ち悪いと言われた。親父は新聞から顔も上げなかった。僕は気にしなかった。

 貧相な、いや健康志向である朝食をかっこみ、浮き立つ足取りで学校へ出かける。

 途中で犬に吠えられた。目が合ったOLさんが慌てて目を逸らした。僕は気にしなかった。

 にゃーと鳴き返して、お姉さんにはウインクを返しておく。

 やがて視界にはつまらなそうな表情の群れが映る。僕と同じ制服を着た男子とセーラー服姿の女子たちが、吸い込まれるように次々と校門へと入っていく。みんながどうして下を向いているんだろうと僕は不思議に思った。そんなことしたって幸せは落ちてなんかいない。

 空を見上げてみればいいのに。そこには光が満ちている!

 大声で教えてあげたかったけれど、一時の感情であと二年通う予定の高校での自分の評判を地に落とすのはさすがにリスクが高すぎるだろうという、そのくらいの自制はかろうじて利いていた。

 玄関でスリッパにはきかえて、教室でみんなに元気よく声をかけて机に座ると、知り合いが心配した表情で近寄ってきた。


「護、どうしたよ。気持ち悪い顔なってっぞ」


 僕は気にしなかった。


「いや気にしとけ。そこは」


 つんつんの短髪で目つきまで吊り上った悪友を見あげても、僕は優しい気持ちでいっぱいだった。優しく、長い旅の途中でふと窓辺に立ち寄った渡り鳥に語りかけるように、にきび跡の残る友人にそっと昨日知ったばかりの真理を教えてあげる。


「啓吾。世界は愛に溢れてるんだね」

「はあ?」

「愛だよ、愛」


 啓吾は気味悪そうに顔をしかめた。


「宗教かなにかかよ」

「違うって。愛さ」

「……つまり好きなヤツでもできたわけか?」


 さすが、付き合いが長いだけのことはある。


「ねえ、啓吾。恋と愛の違いってなんだろうね」

「知らん。殴っていいか」


 殴られはしなかったけど、かわりにぱたぱたと扇いでいた下敷きの角が頭に突きささった。プラスチックのそれが予想以上の衝撃で突き刺さり、僕は頭を押さえてしばらく声もない。


「どうよ。目ぇ覚めたか?」

「いや……決して、寝ぼけてたわけじゃないんだけど……」

「とち狂ってはいたろ。ただでさえ暑ぃんだから、うざいのは勘弁な」


 ひどい言い草だ。

 せっかく人が生まれ変わった世界を堪能していたというのに、下敷きチョップ一発で引きずり戻さなくたっていいだろうに。


「で、その不毛な恋の相手はどこの誰だよ。まさかテレビとか、グラビア相手じゃないだろうな」


 僕は赤くなった頬を隠すように両手でつつんで、嫌々と身をよじってみせた。


「……恥ずかしい」

「いやマジでキモいわ」


 比喩的表現じゃなく友人が遠ざかっていくのを感じて、あわてて裾をつかみ、それ以上、心の距離が広がるのを阻止する。


「いや、待てって。――うちのガッコじゃない。と思う」


 あんな綺麗な子が一緒の学年にいたら、噂にならないはずがない。


「なんだ、街で見かけたとかってだけかよ?」


 わけがわからないといった表情の相手に、僕は昨日あったことを説明した。

 出会い。そこで起きた事故――僕の両手がしでかしてしまったことは、まああいまいに。足をくじいてしまった彼女に、湿布薬を渡して去ると、タクシーで彼女が追いかけてきたこと。そして、明日、会う約束をしたこと――言葉にするだけでまた夢見心地がよみがえってきて、しらずしらずのうちに頬がゆるんでしまう僕を一瞥すると、啓吾は話の感想を告げた。


「妄想乙」

「妄想じゃないし!」

「今時、漫画でももう少し捻ってくると思うぞ。次はちょっとだけ頑張ろうな」

「なに生温かくアドバイスしてくれてんだよ。ほんとなんだって!」

「そうかそうか」


 啓吾は、少しも信用してない顔で頷いて、


「じゃあ護。お前――俺がある日、街ですんげえ美人と出会って、足をくじいたとこに湿布を渡したことがきっかけにデートに誘われてさあ。とか言いだしたら、どう思うよ」


 僕は頭の中でそれを考えて――途中で耐え切れなくなった。


「う、嘘くせー……」

「ほれ見ろ」


 得意そうに見下ろされる。


「いや、でも。案外、事実は小説より奇なりって言うじゃないか」

「それって、悪い意味で使うんじゃなかったか?」

「……え。そうなの?」

「さあ」


 なんだそれ。


「ともかく。一億円の宝くじだって、実際に当たってる人は誰かいるんだぞ。天文学的な確率だって、ゼロってことじゃないぞ」


 漫画みたいなことだって、絶対に起きないわけじゃないのだ。

 実際、事実なんだから。まあ、女の子が空から降ってきて――とか言い出したら、僕もさすがに自分の正気を疑ってしまうところだけれども。


「一億円の当たりクジをなくしたってオチまでついたら信じるけど、ただ当たったって言われてもそんなん信じられるかよ」

「なんでさ」


 理屈にあわないことを当然のように言う啓吾に僕は突っかかって、それに相手はやはり当たり前のように言った。


「そんな幸運が自分以外にくるなんて許せねえからに決まってるだろ」


 ひがみかよ!

 啓吾は、ふんっと鼻を鳴らすと、


「ま、あんま夢見ないでおいたほうがショックは少ねえぞ。悪いことは言わん」


 担任教師が入ってきたのを見て、ひらひらと手を振りながら自分の席に去っていった。

 なんだ、あいつ。人に幸運が訪れたことを素直に祝福もできないのか。そんなんだから幸せも逃げていっちゃうんだよ。

 ちなみに自分が啓吾の立場だったらとは考えなかった。考えるまでもない。

 まあいいさ。

 なんと言われようと、明日は彼女に――神螺さんに会えるんだから。

 お礼だなんて、これってもしかしてデート? いや、それは発想が飛躍しすぎてるよな。うん。デートってのはもっとこう、準備とか心構えとか。僕、なにも考えてないし。

 でも、映画くらい一緒に見れるのかな。今なにやってたっけ。恋愛映画は……ちょっと気まずいよなあ。

 脳裏には昨日の別れ際、「良家のお嬢様が微笑むの図」としてそのままタイトルがつきそうな微笑を浮かべた彼女の姿が思い浮かんでいる。僕がはじめて彼女を見た時の、あの苛烈な表情など頭の中からすっかり忘れ去ってしまっていた。

 まったく――自分でも呆れるしかない。

 僕は、つくづくまぬけだった。



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