2
◇
「マモっち。はい、あーん」
昼休み。僕の隣には新井さんが座っていた。
屋外のベンチに二人で並んで、仲良くお昼ごはんを食べている。
どうしてこんなことになったのか記憶はあいまいだったけれど、確か購買部でパンを買った帰りに捕まったんだと思う。そのまま有無をいわさず連れて行かれて今に至る。
僕も特に抵抗せず、黙々と調理パンを食べていた。時々、新井さんが自分のお弁当箱の中身をおすそ分けしてくれるので、ありがたくそれも頂戴している。
自分で毎朝、お弁当箱をつめているという新井さんのお弁当の中身は、どれも美味しかった。半分は昨日の残り物とかだけどね、と照れる仕草が素直に可愛らしいと思う。
「こういうの、一度やってみたかったんだー」
と彼女は笑った。
本当は、それを誰相手にやりたかったかなんて聞くまでもない。だから訊かなかったんだけど、視線だけで彼女は意味を読み取ったらしかった。
「たっくんは、だって。吸血鬼だもん」
その言葉には二重の意味があるはずだった。
一つが、たっくんとかいうヤツが吸血鬼で、新井さんが人間だってこと。もう一つが、その吸血鬼と新井さんがそういうことをする関係じゃないということだ。二つの意味がどういうイコールで結ばれているのかがこの場合はとても重要で、
「吸血鬼の人にとって、あたし達なんて恋愛対象にならないんだよね」
彼女はそう悟ったように言った。
「あくまで得血のための“タンク”。それがあたし達だから」
新井さんに教えてもらって、僕ははじめて「得血」という言葉の意味を知った。それとは違う、本来の意味に近い「吸血」のことも。“タンク”というのが、そうした人間の別称であることも。
今まで自分がなにも知らなかったことを僕は知ったのだ。
そのことでショックはもちろんあった。けれども、それ以上に僕の頭のなかには、今までの彼女――神螺さんの言動が思い出されていた。
出会った日のあれこれは別にして、後日はじめて会った日のやりとり。人間への敵意。恋愛対象の否定と、彼女の強い眼差しの意味。
吸血鬼と人間であるということ。
好かれてる? 好きになってくれるかもしれない?
僕はなにを思い上がっていたんだ。
ぎゅっと唇を噛み締める。そうしないと、叫びだしてしまいそうだった。
「だから、あたし達は同志なのだっ」
いえーい、とハイタッチを要求してくる彼女に、僕は訊いた。
「……新井さん。そいつのこと、好きなんだよね」
「うんっ。そうだよ」
「でも相手は新井さんを、そういう風には見てくれないんでしょ。それで、いいの?」
彼女は困ったように眉をしかめて、首を振った。
「よくはないけど。でも、しょうがないし。それに、こんな風に役に立ててたらさ、いつか向こうの気が迷ってくれるかもしれないじゃん?」
あははと笑う。
「だからねー、マモちゃんには感謝してるんだー。ほんと、久しぶりだったの。たっくんから電話もらったの。メールもあんまり返してくれないんだよねぇ」
奥歯がギリっと鳴った。
「……新井さん。そいつの電話番号、教えてもらえる? ちょっと、話がしたいんだ」
「ん? んん、どうだろ。私の携帯から、掛けてみよっか?」
「うん、それでもいい」
嬉しそうに彼女は携帯を操作し始めた。好きな人の声が聞けるだけで表情が崩れてしまうのは、自分にも理解できるから、見ていてなんとなく息が詰まった。
「――あ、もしもし。あたし、新井です。――うん。えっと、マモ――護クンが、話がしたいって、それで――うん、うん。わかった。はい、マモっち」
手渡されたピンク色の携帯を耳に当てる。いくつもつけられたストラップ類がじゃらりと音をたてた。
「――もしもし」
『こんにちは、護くん。久しぶり』
「……自己紹介をしたつもりはないんだけど」
『そうだね。この間はそんな暇もなかったから。藤原です。って、電話でってのもおかしな話だし、次に会ったときに出来ると思う』
「別に会うとかそんな予定ないです」
『あれ、美雪ちゃんから聞いてないのかな。今、僕と神螺さんで、ゲームをしようって話になっていてね。すぐにまた会えると思うよ』
「彼女は、それに参加するって言ったんですか?」
『私には関係ありません、って態度だったかな。――ああ、心配しないでも大丈夫だよ。口ではそう言っていても、彼女、絶対にノってくると思うから』
神螺さんの台詞を聞いて、口元が緩んでしまうのは、男の言ったことがどうこうじゃない。まるで違う。ただ、その答え方がとても彼女らしいと思えたからだ。
うん。間違いなく、彼女は彼女だった。
だったら、悩む必要なんてなんにもない。柄にもなく落ち込みかけていたさっきまでの自分を一笑して、
「――ゲームって言ったよな」
僕は言った。
「よくわからないんだけど。血が必要ってのはわかるよ。なんだか本能みたいなやつのせいで、ずっと医療パックだけじゃ満足できないってのも。でも、それで、どうして僕なんだ? あんたにはさ、血をくれる相手、いるだろ」
隣にいる女の子を見る。その首元にある傷は今は見えない。
『だから、ゲームだよ』
と、男は言った。
『キミ達二人は、とても不自然な関係に見えたから。それでちょっと話をしてみたら、やっぱりそうだった。まあそれは、あの子の側に問題があるみたいだけど――だから、ちょっかいをだしてみたくなっただけさ』
「……ようするに、暇つぶし?」
『まあ。早い話がそうなるかな。僕ら、長生きだから。娯楽に飢えてるんだよね』
知ったことか。吐き出しかけた言葉を飲み込んで、息を吸った。
そうした心の準備が必要だった。
なにしろ、人生で初めてのことをやろうっていうんだから。他人にケンカを売るなんて、生まれてはじめてのことだ。しかも相手が吸血鬼ときたら、多分そんなの一生に一度のことだろう。
覚悟を決めて、口を開く。
「――いいよ。そのゲーム、ノってやる。彼女じゃなくて、僕が」
『……へえ?』
「神螺さんの言うとおりさ。これは僕とあんたの問題だろ。だったら、ゲームも僕とやるのが筋じゃないか」
くすりと、笑うのが聞こえた。
『人間が、吸血鬼相手に対等な場に立ちたいって?』
「ほざけよ、蚊の親玉のくせに。漫画とか小説でどれだけあんたらのお仲間が人間にやられてきてるのか、知らないのか?」
『……漫画っていうのは、あくまで虚構だからこそ面白いんだと思うけどね。まあ、キミがそうしたいなら、それでいいんじゃないかな。今回のゲームの景品はもともと、動いて喋るモノなんだから』
「そうさせてもらうよ。あんたが勝ったら、血を吸おうがなんだろうが好きにしなよ」
『ああ――、なるほど。当然、キミが勝ったら、なにか要求があるのかな』
僕は新井さんを見た。彼女はどこか真剣な表情でこちらを見ている。その視線を正面から受け止めながら、
「別に。一発殴らせてくれればそれでいいよ。なんか、あんたの態度ってやたら上から目線で腹が立つからさ」
電話を切る。
「ごめん」
携帯を返しながら、新井さんに謝った。
好きな人のことを悪く言われて、嫌な気がしない子はいないだろう。それに、その相手と僕は今からケンカをしようっていうんだから。
でも、彼女は怒りもせず、にっこりと微笑んだ。
「男の子だー」
ぽん、と小さな拳が僕の胸を打つ。
「そういうの、いいなあ。――うん。マモちゃんがやりたいようにやればいいと思うっ」
にへらと笑う表情はなんというか。ものすごく、可愛かった。
思わず心が揺れてしまうくらい。もしも神螺さんに出会ってなかったら、一発で好きになってしまっていたかもしれない。
「ごめん。――ありがとう」
そうと決まればやるべきことは多い。
なにしろ相手は一人でオリンピックを全種目制覇とかできそうな連中なのだ。ケンカするならそれなりに準備がいる。ベンチから立ち上がり、さっそく作戦を立てねばと歩き出したところで、誰かに裾をひっぱられてつんのめった。
後ろを見る。引っ張っているのはもちろん、新井さんしかいない。
「……あの? 離してもらえる?」
「だーめ」
天使のような笑顔のまま、彼女は首を振った。
「たっくんの迷惑になるようなこと考えるんでしょ。そんなの許可しません」
「さっきやりたいようにやれって言ったのに!」
「それはそれ。これはこれー」
さすが女の子。恋をしていてもあくまで現実的だった。
ニコニコと微笑みながら、彼女はあくまで服を離してくれる気配はない。おもいきり暴れれば振り切ることくらいできるだろうけど、絶対に彼女は後を追ってくるだろう。
どんな作戦をたてていくら準備をしたって、それを側で見られていたら台無しだ。携帯で即効、報告されてしまう。
――やむをえまい。少々、強引な方法をとることにしよう。
「あ、あんなところに藤原のたっくんが!」
「ええ、どうしてここに!?」
素直すぎるよ新井さん。
気がそれた隙を狙って全力疾走。彼女の小さな手がはずれて、体が自由になる。
「ああ、こらー! 逃げるなっ」
背後から追いかけてくる声には応えず、僕は吠えた。
「啓吾!」
「おうよ!」
その反応、わずか一秒も後れなし。
がさりと近くの茂みが揺れ、こっそり出歯亀にいそしんでいたらしい啓吾が立ち上がる。どうせ近くにいるだろうって信じてたよ、この馬鹿!
「後ろの女の子に抱きついていいぞ! 僕が許す! ついでに午後の授業、サボるから上手いこといっといて!」
「よっしゃまかせろ! ありがとう役得! 行くぞ青春っ!」
互いを知ったる親友とのあいだには、交わす視線も叩く手のひらも必要ない。阿吽の呼吸ですれちがい、僕は絶対の自信をもって走り抜けた。
ぎゃー。
後ろに響く新井さんの悲鳴。
ちなみに。もちろん僕が許すことと新井さんが許してくれることは全くの別問題なわけで。
せめて啓吾が退学なんかにはならないよう、あとでフォローしておこうと思った。
◆
――結局、午後になっても護からの連絡はなかった。
別にどうでもいい。私は私で行動するだけだ。あいつの意志なんか最初から関係ない。
自分でも無理があると思えるような理屈を胸に刻みこみながら、玄関に向かう。男が立っていた。
「やあ」
いつものように薄っぺらい笑顔を無視して、靴箱に向かう。
「護くんから連絡あった? こっちには来たんだけど」
動揺の素振りはなかったはずだった。顔色も、動作も。ポーカーフェイスには自信があったのに、
「――ああ。ないんだね。そっか、本気なんだな、彼」
あっさりと言い当てられ、態度を繕うのをやめて私は相手を見た。
「……どういうことですか」
「面白いね、彼。ゲームなら自分が受けてやるって。昼間、そう言ってきたよ」
「護が? 護が、そんなことを言ったんですか?」
「うん。神螺さんは関係ない、僕とお前の問題だろうってね。――言われてみれば、確かにそうかもしれない」
「何を、ふざけたことを――」
「違うのかい? それじゃあ、君と彼の関係は何? 血を吸ってもない。つまり制約関係にない。友人でもない。それは君が否定したよね。それじゃ、恋人?」
かっと頬が熱くなるのがわかった。
「そんなわけあるはずないでしょう!」
「そうだね。人間と恋愛しようなんて吸血鬼、いるわけがないよね」
見透かすような視線が不快で、でもそれから視線を外してしまうと負けを認めてしまうことになってしまう。私は思いっきり睨みつけたが、そんなのが効く相手ではないことはわかっていた。
「なら、ほら、彼と君は関係ない。知り合いなんておためごかし、いらないよ。だったら君は口を挟むべきじゃないよね、僕のことにも。彼のことにも」
反射的に開いた口から、出る言葉はなかった。虚しく息を吸吐する、私を哀れむように見て、男が言う。
「彼の気持ちを知って、そのままにしてたのは君だろう? 責める権利なんてあるはずないよ。それくらい、自覚はあると思うけどね。――それじゃあ、さよなら」
言いたいことだけを告げて、男は去っていった。
その背中を見届けながら、携帯電話を取り出す。呼び出した番号のプッシュ音の後に機械音声が続いた。
『ただ今、電波が届かないところにいるか、電源が入って――』
「……なにやってるのよ、あの馬鹿はっ」
叩きつけるように携帯を閉じた。
◇
午後の時間でやることはたくさんあった。
学校を飛び出して、街で適当な近くのファストフードに入って僕は考えた。
吸血鬼とゲームをすることになった。
景品は僕の血。わあ、生々しい。
現代の吸血鬼は、人間社会にとけこむようにして生きている。その為に色々苦労もしていて、人殺しなんて一番のご法度らしいので、殺されるようなことはないんだろうけれど。自分の血を狙われるなんて、もちろん愉快な話じゃなかった。しかも相手は男。
僕と同じ立場になれば誰だって思うだろうけど、どうせ血を吸われるなら、異性がいい。しかも美人。つまり具体的に言うなら、僕の場合は神螺さんだ。
――どうして、彼女は僕の血を吸おうとしないんだろう。という疑問はもちろん僕のなかにあったけれど、それについて深く考えることはなかった。
というより、考えても仕方がない。彼女の気持ちは、彼女に聞かなければわかりっこない。
そのためにも、僕にはまず目の前のゲームとやらをどうにかする必要があった。
はっきりと、僕は理解していた。
あの男はお邪魔虫だ。僕と彼女の関係に、退屈だからなんてくだらない理由でちょっかいを出してきた。そんな相手になにか言われるいわれもなかったし、遠慮をする必要もない。周囲でぶんぶん飛ばれていたら、彼女になにを聞くこともできやしないのだ。
絶対に、叩きのめしてやる――なんて威勢のいいことを言ってはみるものの、さてどうするかというとぶっちゃけノープランだったりする。
なにせ相手は吸血鬼。パンプスを履いた神螺さんも、二メートルの壁をゆうゆうとジャンプしてみせたのだから。吸血鬼って種族にどのくらいの男女差があるのかは未知数だけど、あのイケメン吸血鬼の運動能力がいかほどか。考えるだけでちょっと周りの気温が下がる気がした。
そもそも、ゲームの内容というのが決まってるわけじゃないのだ。ゲーセンの格闘ゲームで決着をつけるわけでも、スポーツ十番勝負というわけでもない。
ようは、あの男に僕の血を諦めさせること。
それがこのゲームの全てだ。その為にはなにをやったっていい。まあ、それは向こうも同じことで、結局は腕ずくになってしまう気がしたけれど。
腕力では勝てる見込みがなくて、頭のよさでも残念ながら同じく。
なら、どうする?
決まってる。悪あがきに、知恵と勇気をブレンドして立ち向かうのだ。僕が知る吸血鬼モノの登場人物はみんな、そうやって足掻いてみせていた。
問題は僕がどうやったって主人公って柄じゃなくて、物語のなかじゃそういう中途半端な役どころは大抵、話の途中でリタイアすることになっちゃうということだけだ。
夕方になるまで、僕はわざと携帯の電源を切っていた。
全ての準備を終えて、もうこれでいいかと悩みに悩んで、電源を入れようとしてやっぱりやめてというくだりを三回ほど繰り返して、覚悟を決める。
ディスプレイに光が走り、デジタルの画像が浮かび上がる。すぐに左上に幾つかの合図が浮かんだ。メールと、不在着信の存在を示すそれらの発信先はどちらも同じ相手からのものだった。
ちょっと嬉しい。多分、彼女は怒っているだろうけれど。彼女のことはなにもわからないけど、今、怒っている表情だけはありありと想像できる。単純な僕はそれだけで、少し元気がでてくるのだった。
さあ、来い。と思ったらほんとに来た。サイレントモードの携帯が震えだす。表示された番号は、神螺さんのものでもなければ、他のどの知り合いのものでもなかった。無機質な数字の羅列を見つめて、僕は通話ボタンを押した。
「――もしもし」
『やあ、藤原です。今、学校が終わって。待たせちゃったかな』
「いいや。こっちはたっぷりあんたを倒す作戦を考えてたから」
『お昼から学校、サボったらしいね。あんまり良くないと思うな、そういうのは』
吸血鬼に生活指導を受けるなんて思わなかった。思わず笑ってしまう。
「僕が逃げ出したのは新井さんの落ち度じゃないからな。彼女を責めるなよ」
これだけは彼女の名誉のために伝えておかなくちゃならない。
『わかってるよ』
物のわかった口調で男は言った。
『彼女、自分も学校抜け出すって言って聞かなかったからね。その必要はないって説得するのが大変だったよ。ほんと、真面目な子だよね』
頭がカっとなった。
そうじゃないだろう。
彼女がそんなにも必死なのは、あんたの役に立ちたいから――あんたのことが、好きだからだろ!
そう言ってしまいたかった。でもそれは余計なお世話というものだ。他人の恋愛事に偉そうに説教できるほど僕は偉い人間じゃない。
ただ、一つだけ、これではっきりした。
「……はじめて会ったときから思ったんだけどさ」
『うん? なにかな』
「僕、あんたのことが大ッ嫌いだ」
少しの間をおいて、くすりとした笑みで返された。
『残念だな。僕はけっこう君の事気に入ってるんだけど。人間としての話だけれどね』
「そいつは悪かったね。人間に生まれてよかったよ」
ちらりと外の様子を確認して、告げる。
「今、街にいる。あんたが前に話しかけてきた、あのビル1Fのファストフードさ。早く来なよ、ゲームをはじめよう。場所を疑うなら店のBGMでも聞かせようか?」
『その必要はないよ』
挑発してみても、あくまで相手は澄ました返答を崩さない。
『逃げていても仕方ない。それくらい、わかるはずだからね。なら自分の選んだ場所で待ち構えたほうがいいっていうのは、作戦として正しいんじゃないかな。今から夜って時分に、たかが人間の浅知恵でなにかできるとは思わないけれど』
「余裕がおありなこって。なら話がはやいや。正直、あんたみたいな変態につきまとわれるのはごめんなんだ。決着は、今日つける」
『君がそうしたいなら、それでいいんじゃないかな』
最後まで落ち着いた声のまま、相手は電話を切った。
くそ、ちょっとでも挑発できればと思ったけど、まるで相手にもされなかった。
まあいいさ。相手がこっちを侮ってるのは確かなんだから。もちろんこっちが罠をはってるのを警戒してくるだろうから、ようは化かしあいだ。
相手はきっとめちゃくちゃ強い。
だけど、でもそれなら誰だって考えつく。
どうしてそんな吸血鬼達が今、人間社会のなかで隠れて生きているのか。そこに、希望の光はあるはずだった。
携帯が点滅する。手に取ったそこに浮かんだ「神螺さん」という文字を見て――ためらうことなく、その着信を切った。
ハードボイルドを装って、とびきり苦く注文してしまったコーヒーを一気に飲み干す。口の中に広がる味わいで恐れを無理に押し込んで、僕は席から立ち上がった。
――さあ。格好もついたことだ。
一つ、吸血鬼退治と洒落こんでみようじゃないか。