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『与えすぎる夫と理想を求めすぎる妻の件』

作者: くろめがね
掲載日:2026/02/22

この物語には、大きな悪人は出てきません。


 けれど、誰もが少しだけ間違えていて、少しだけ正しかったのかもしれません。


 与えることは、優しさなのか。

 守ることは、自由を奪うことなのか。

 そして、選び直すという行為は、救いなのか、それとも別れなのか。


 答えは一つではないと思っています。


 読みながら、誰の言葉が一番心に残ったのか。

 どこで立ち止まったのか。

 そんな小さな違和感を、大事にしていただけたら嬉しいです。


 もし以前に、

「与える側」と「選ぶ側」の距離を描いた別の物語を読んでくださった方がいたら、

この作品は、少しだけ違う角度から同じ問いを見ているのかもしれません。


 どうぞ、静かな時間の中でお楽しみください。

プロローグ まだ閉じていなかった手


 それは、誰の目にも小さな出来事に見えただろう。


 王都の社交広間。夜の灯りが揺れ、音楽が流れ、笑顔が交わされる。貴族たちはいつものように言葉を選び、誰もが失礼にならない距離を保っていた。


 アルヴェインは壁際に立ち、グラスの中の液体をゆっくりと揺らしていた。


 視線は遠くにある。


 そこには、白いドレスの女性がいた。


 彼の妻、リディア。


 彼女は誰かと笑っている。


 その笑顔は、彼がよく知っているものとは少し違っていた。軽く、風に触れるような柔らかさがある。


 彼はその違いに気づいていた。


 気づいていないふりをしていただけだった。


 ――与えることは、簡単だ。


 金も、屋敷も、衣装も、彼には不足がなかった。望まれる前に用意し、困る前に整え、選ばせる前に選択肢を消す。それが彼のやり方だった。


 優しさだと思っていた。


 守ることだと思っていた。


 彼女が困らないように。


 彼女が笑っていられるように。


 それが、彼の愛し方だった。


 だが、その夜。


 音楽が止まり、軽い拍手が広がる中で、リディアは彼の方を見なかった。


 ただ、それだけのことだった。


 誰も気づかないほど小さな出来事。


 だが彼の中で、何かが静かにずれた。


 嫉妬ではない。


 怒りでもない。


 ただ、長く閉じていた手の中に、空気が入り込んできたような感覚だった。


 隣に立っていた老貴族が言った。


「人はな、与えられ続けると、それが世界の形だと思ってしまう」


 アルヴェインは答えなかった。


 その言葉が、自分に向けられたものなのか、それとも誰か別の人間の話なのか、分からなかったからだ。


 音楽が再び始まる。


 人々が中央へ集まり、灯りが揺れる。


 リディアは別の男の手を取っていた。


 それは不自然な光景ではない。


 社交の場では、よくあることだ。


 だから彼は微笑み、グラスを傾けた。


 その笑顔が、本物だったのかどうかは、自分でも分からなかった。


 彼は知らなかったのではない。


 知っていて、選ばなかっただけだ。


 与えることを、やめなかっただけだ。


 その手が、まだ閉じていなかったから。


 ――そしてその夜は、まだ終わっていなかった。


第一話 優しい檻


 アルヴェインは、贈り物を選ぶ時間が嫌いではなかった。


 それは義務でも社交でもなく、ただの習慣に近い。領地の収支は安定している。王都での投資も、彼が目を通したものに限っては外れがない。彼の生活の中で「迷う」という行為は年々減っていたが、宝石店の棚の前に立つときだけは、ほんの少しだけ足が止まる。


「旦那様、こちらは今季の新作でして」


 宝石商が差し出したのは、夜明け前の空の色を閉じ込めたような青石だった。光を強く返すわけではない。ただ、深く、静かに、見る者の視線を留める。


 アルヴェインはしばらく黙って眺めた。


 リディアの横顔が脳裏に浮かぶ。笑うときの癖、髪を耳にかける仕草、退屈そうに指先を弄ぶときの癖。彼女は華やかな色よりも、こういう静かな石を好む――少なくとも、彼はそう理解していた。


「これにしよう」


 金額は聞かなかった。宝石商もそれを当然のように包み始める。


 金は問題ではない。与えることも、迷いではない。迷いがあるとすれば、それは――渡した後の沈黙の方だった。


     ◇


 屋敷へ戻ると、午後の光が庭を満たしていた。


 白い小道の先、藤棚の下にリディアの姿がある。椅子の背にもたれ、足元の花をぼんやりと眺めていた。絵画のように整った姿だが、近づくにつれて、彼女の表情の力が抜けていることに気づく。


「戻ったよ」


 声を掛けると、彼女はゆっくりと顔を上げた。


「あら、早かったのね」


 微笑む。その笑みは穏やかだが、どこか遠い。


 アルヴェインは小箱を差し出した。


「君に」


 彼女は受け取り、蓋を開ける。青い石が日差しを受けて静かに揺れた。


 一瞬だけ、瞳が細められる。だが次の瞬間には、いつもの社交用の笑顔に戻っていた。


「綺麗ね。……本当に、あなたは何でもくれるのね」


 感謝でも非難でもない声音だった。


「気に入らなかったか」


「そうじゃないの。ただ……少し思っただけ」


 リディアは石を指先でなぞりながら言った。


「あなたは、私が欲しいものを全部分かってるみたいに振る舞うでしょう?」


 アルヴェインは言葉を選ぶ。


「分かっているつもりはない。ただ、困らせたくないだけだ」


「……そう。優しいのね」


 その“優しい”という言葉は、褒め言葉のはずなのに、胸に軽い重さを残した。


「私は、君が望まないものは与えていないつもりだった」


 彼女は小さく息を吐く。


「それがね、分からないのよ。私が何を選びたいか、聞かれたことがない気がして」


 風が止まった。


 庭師の鋏の音だけが遠くで響く。


 アルヴェインは答えを探した。だが言葉にすると、何かを認めてしまう気がして、口を閉じた。


「……守りたかっただけだ」


 ようやく出た声は、思っていたよりも小さかった。


 リディアは何も言わず、宝石を箱に戻す。机の端に置いたまま、身につけるでもなく、返すでもない。


 それが彼女の返事のように見えた。


     ◇


 夕食には妹たちも同席していた。


 長姉ミレナは新しいドレスを翻し、末妹エルシアは甘い酒を楽しげに傾ける。


「お義兄様のおかげで、今季も流行の布が手に入ったのよ」


 ミレナが笑う。


 アルヴェインはうなずくだけだった。彼女たちは分かりやすい。欲しいものを口にし、与えれば喜ぶ。その単純さが、時に安堵を与える。


 ふと、リディアを見る。彼女は皿にほとんど手を付けていなかった。


「体調が悪いのか」


「いいえ。少し考え事をしていただけ」


「社交の件か?」


「……ええ、まあ」


 彼女は視線を逸らした。その横顔は、誰か別の記憶を思い出しているように柔らかい。


 アルヴェインはそれ以上尋ねなかった。


     ◇


 夜。書斎で帳簿を確認していると、侍従グレンが入ってきた。


「明日の舞踏会ですが、騎士団のセリオ卿も出席されるそうです」


「……そうか」


 その名を聞いた瞬間、胸の奥がわずかに軋んだ。


 理想を語る男。詩のような言葉で人を励ます男。アルヴェインとは正反対の存在。


 最近、リディアの口からその名を聞くことが増えていた。


「予定通りでいい」


「かしこまりました」


 グレンはそれ以上何も言わず、去っていく。


     ◇


 寝室へ向かう途中、庭を通りかかると、リディアがまだ椅子に座っていた。


「冷える」


「少しだけ、風に当たりたくて」


 彼は上着を脱ぎ、そっと肩に掛ける。拒まれることはなかった。


「ねえ、アルヴェイン」


「なんだ」


「もし私が……」


 言葉が途切れる。


「……やっぱり、いいわ」


 彼は追及しなかった。答えを聞けば、何かが変わってしまう気がした。


 だから聞かない。それが彼の選び方だった。


     ◇


 部屋に戻ると、小箱が机に置かれていた。


 青い宝石は開けられたまま。触れられた形跡はあるが、身につけられてはいない。


 彼は蓋を閉じかけて、手を止める。


 ――彼女は嫌がっているのだろうか。


 いや、違う。嫌いなら受け取らない。


 そう自分に言い聞かせる。


 だが胸の奥に残るのは、怒りでも悲しみでもない、名付けられない重さだった。


 彼は知らなかったのではない。知っていて、触れないことを選んでいた。


 優しさが、檻に見える日が来るかもしれないと。


 その夜、アルヴェインは初めて、贈り物を机の奥へしまった。


第二話 理想の名前


 舞踏会の朝は、屋敷全体が静かに慌ただしかった。


 廊下を行き交う侍女の足音は控えめだが、空気には落ち着かない気配がある。季節の変わり目の社交は、いつも以上に目を引く装いが求められる。アルヴェインは書斎の窓から庭を眺めながら、報告書に目を通していた。


 数字はいつも通り整っている。領地の収穫量、王都への納入予定、投資先の収益予測。どれも問題ない。問題があるとすれば、それは紙の上では測れないものだった。


「旦那様」


 扉を叩く音とともに、侍従グレンが入ってくる。


「奥様のお支度が整いました」


「……そうか」


 ペンを置き、椅子から立ち上がる。


 歩き出す前に一瞬だけ迷ったが、机の引き出しは開けなかった。昨日贈った青い宝石は、まだその中にある。


     ◇


 鏡の前に立つリディアは、白銀に近い薄青のドレスを纏っていた。胸元は控えめだが、背中の布が軽く揺れ、歩くたびに光が流れる。


「似合っている」


 率直にそう言うと、彼女は微笑んだ。


「ありがとう。……今日は少し軽い色にしてみたの」


「いいと思う」


 言葉は短い。それ以上何を言えばいいのか、分からなかった。


 リディアは鏡越しに彼を見つめる。


「ねえ、アルヴェイン。舞踏会って、あなたは楽しい?」


「必要な場所だ」


「……そうじゃなくて」


 彼女は少しだけ笑った。


「あなたは、楽しんでいるように見えないから」


「仕事だと思っている」


「そう」


 それ以上、彼女は聞かなかった。


 その沈黙が、以前よりも長く感じられた。


     ◇


 舞踏会場は王都でも古い宮殿の一つで、天井の高い大広間に無数の燭台が並んでいた。音楽が始まる前から、貴族たちの視線がアルヴェインに集まる。


 彼は軽く会釈を返すだけで、中央には立たない。


 リディアはその隣で、周囲に柔らかな笑顔を向けていた。彼女は社交の中心に立つことができる人間だ。彼はそれを誇りに思っていたし、同時に、どこか遠く感じてもいた。


「アルヴェイン卿、お久しぶりです」


 若い騎士が挨拶に来る。背筋が伸び、視線は真っ直ぐだ。名前を思い出す前に、リディアが少しだけ前へ出た。


「セリオ卿」


 その声は、アルヴェインが聞き慣れているものより、わずかに柔らかかった。


「今夜はお会いできて光栄です」


 セリオは笑った。飾らない笑顔だった。貴族特有の距離感がなく、まるで古くからの友人に接するような軽さがある。


「あなたが選んだ色、素敵ですね。夜明けみたいだ」


 リディアは少し驚いたように瞬きをした。


「……ありがとう」


 アルヴェインは二人の会話を静かに聞いていた。特別な言葉ではない。ただ、彼が普段口にしない種類の言葉だった。


「アルヴェイン卿」


 セリオが軽く頭を下げる。


「いつも奥様には励まされています」


「そうか」


 それ以上の言葉は出てこなかった。


     ◇


 音楽が始まり、人の流れが中央へ向かう。


 リディアは一瞬だけアルヴェインを見る。いつものように手を差し出すべきか迷ったが、その前にセリオが一歩前へ出た。


「一曲、お願いできますか」


 彼女は少しだけ戸惑ったように視線を揺らし、それからアルヴェインを見る。


 拒む理由はない。


 彼は小さくうなずいた。


「行っておいで」


 リディアは静かに息を吸い、セリオの手を取った。


 音楽に合わせて二人が回り始める。軽やかな足取り。言葉を交わさなくても通じているような距離感。


 アルヴェインはグラスを手に取り、壁際へ移動した。


 嫉妬ではない。


 少なくとも、そう自分に言い聞かせる。


 ただ、胸の奥に、名前の分からない重さがあった。


     ◇


 舞踏が終わり、休憩の時間になると、ミレナとエルシアが近づいてきた。


「お義兄様、あの騎士、面白い方ね」


 ミレナが笑う。


「軽すぎる」


 アルヴェインは短く言った。


「でもリディア姉様、楽しそうだったわ」


 エルシアの言葉に、彼は返事をしなかった。


 遠くでリディアがセリオと話している。彼女の表情は、屋敷で見るものとは少し違っていた。力が抜けていて、何かから解放されたような笑み。


     ◇


 帰りの馬車の中は静かだった。


 街灯が窓を流れていく。


「今日は……楽しかったわ」


 リディアがぽつりと言う。


「そうか」


「あなたは?」


「いつも通りだ」


 彼女はしばらく黙り、それから小さく言った。


「セリオ卿はね、私を対等に見てくれるの」


 アルヴェインは視線を窓の外へ向けた。


「……私は、君を守る側でいたかっただけだ」


「分かってる。でも、時々ね。守られていると、息が詰まりそうになるの」


 責めているわけではない声音だった。


 だからこそ、何も言えなかった。


     ◇


 屋敷へ戻り、リディアは先に部屋へ入った。


 アルヴェインは書斎に立ち寄る。机の引き出しを開け、青い宝石の箱を取り出した。


 手の中で重さを確かめる。


 与えることは、間違いではないはずだ。


 だが、彼女の言葉が耳に残る。


 ――対等に見てくれるの。


 箱を閉じ、ゆっくりと息を吐く。


 彼は怒ってはいなかった。


 ただ、初めて、自分がどこに立っているのか分からなくなっていた。


 窓の外では、夜の庭が静かに揺れていた。


第三話 笑顔の別れ


 社交界というものは、いつも同じ顔ぶれでできているように見えて、実際には毎回少しずつ空気が違う。


 アルヴェインはその変化を読むことに慣れていた。誰が誰と距離を置き、誰がどの話題に触れないようにしているのか。言葉よりも、視線の流れや、沈黙の長さの方が正直だった。


 今夜の晩餐会も、表面だけ見ればいつも通りだ。長いテーブル、磨かれた銀器、上質なワイン。笑顔と礼儀に包まれた夜。


 だが席に着いた瞬間から、彼は何かが違うと感じていた。


 リディアはいつもより言葉数が少ない。代わりに、セリオの声が目立つ。軽やかな話しぶりは周囲の緊張をほどき、貴族たちの間に微かな笑いを生んでいた。


「理想というのは、時に現実より重いものです」


 セリオがグラスを持ち上げながら言う。


「ですが、人は理想を語らなければ、現実の檻から出られない」


 誰かが小さく感心したようにうなずいた。


 アルヴェインは黙ってワインを口に運ぶ。


 理想。檻。


 その言葉が、昨日の庭の会話と重なった。


     ◇


 料理が進み、会話の輪が自然と小さな集まりに分かれていく。


 リディアはいつの間にか席を立ち、窓際でセリオと話していた。距離は近すぎない。だが、彼女の表情は屋敷で見るものより軽かった。


 アルヴェインはそれを遠くから眺めていた。


 胸の奥にある感情に、まだ名前はついていない。


 嫉妬なのか、疲れなのか、それとも――。


「アルヴェイン卿」


 隣に座っていた老貴族が声を掛けてきた。


「奥方は、あの騎士と親しいようですな」


「……社交の範囲でしょう」


「ふむ」


 老貴族はそれ以上何も言わなかったが、その沈黙が妙に長く感じられた。


     ◇


 食事の終盤、司会役の侯爵が軽い余興として意見交換の場を設けた。


「今夜の話題は、“理想の伴侶”について。若い方々の意見も聞いてみたい」


 軽い笑いが起こる。


 アルヴェインは視線を落とした。こういう話題は嫌いではないが、好んで語るものでもない。


 数人が冗談交じりに答えた後、侯爵の視線がリディアに向いた。


「奥方はどうですかな」


 リディアは少し驚いたように瞬きをし、それから微笑んだ。


「理想、ですか」


 彼女は一度だけアルヴェインを見る。その視線は短かった。


「優しい人がいいですね。でも……」


 言葉が続く。


「優しさだけでは、息が詰まってしまうこともあると思います」


 場が静まる。


 誰も不快そうではない。むしろ、興味深そうに耳を傾けている。


「私は、私自身の人生を歩きたい。守られるだけじゃなくて、同じ高さで話せる人がいいと思うんです」


 それは誰かを否定する言葉ではない。


 だが、アルヴェインには十分すぎるほど意味が伝わった。


 彼はグラスを持つ手を止め、静かに息を吐いた。


     ◇


 宴が終わりに近づく頃、セリオが彼の前に立った。


「アルヴェイン卿、少しお話しできますか」


「構わない」


 二人は廊下へ出た。


 夜風が窓から入り、燭台の炎が揺れる。


「あなたのことを、私は尊敬しています」


 セリオはまっすぐに言った。


「領地を守り、人を支え続けている。その強さは、私にはない」


「……用件は」


「奥様のことです」


 アルヴェインは表情を変えなかった。


「彼女は、自由を望んでいます。あなたの優しさを否定しているわけではない。ただ、別の形を探しているんです」


「それを、君が教えるのか」


 静かな声だった。


「教えるというより……隣に立ちたいだけです」


 言葉に悪意はない。


 だからこそ、重かった。


     ◇


 帰りの馬車の中、リディアは窓の外を見ていた。


 しばらく沈黙が続いた後、彼女が口を開く。


「さっきの話、怒ってる?」


「怒ってはいない」


 それは本心だった。


 怒りというより、何かが終わったような静けさがあった。


「私は……あなたを傷つけたいわけじゃないの」


「分かっている」


「でも、私は私の人生を選びたい」


 その言葉に、彼はゆっくりとうなずいた。


「……そうか」


 短い返事だった。


 彼女は何かを待っているように見えたが、アルヴェインはそれ以上何も言わなかった。


     ◇


 屋敷に戻り、彼は書斎へ向かった。


 机の上に書類を広げる。


 婚姻契約書の写し。


 支援契約の一覧。


 リディアの家族への援助記録。


 どれも彼が望んで続けてきたものだ。


 ペンを手に取る。


 しばらく動かなかったが、やがて静かに署名欄に目を落とした。


 怒りではない。


 罰でもない。


 ただ、彼自身がどこに立つべきかを決めるためだった。


     ◇


 その夜、リディアは寝室に来なかった。


 彼は一人で窓を開け、夜の庭を眺める。


 青い宝石の箱を手に取り、ゆっくりと開けた。


 光は変わらない。


 変わったのは、それを見る彼の気持ちだった。


 彼は知らなかったのではない。


 知っていて、笑っていた。


 守るという形で、距離を作っていたのは、彼自身だったのかもしれない。


 箱を閉じる。


 机の上に置かれた書類に視線を戻し、ペンを握る。


 そして――


 静かに、署名をした。


幕間 灯りの届かない場所


 屋敷の北側には、普段ほとんど人が来ない小さな温室があった。


 冬の間だけ花を守るための場所で、春になれば扉は半分開け放たれる。だが誰かが長く足を止めることは少ない。庭師が朝に一度見回るだけで、あとは風と光が静かに通り抜ける。


 その日、エルシアは一人でそこにいた。


 ガラス越しに差し込む光は柔らかく、葉の影が床に揺れている。


 彼女はしゃがみ込み、小さな鉢を指でなぞった。


 名前も知らない花だった。


 ただ、まだ咲ききらないつぼみが、少しだけ開こうとしている。


「……こんなところにいたのね」


 声に振り向くと、ミレナが立っていた。


 華やかなドレスではない。簡素な外出着。最近、彼女も少しだけ装いを変えていた。


「別に、隠れてたわけじゃないわ」


 エルシアは立ち上がる。


 ミレナは温室の中をゆっくりと見渡した。


「ここ、昔はよく来てたのよね。覚えてる?」


「……ううん」


「あなたはまだ小さかったから」


 彼女は棚に置かれた古い鉢を指で叩く。


 乾いた音が小さく響いた。


「お義兄様が、この温室を修繕したのよ。最初の年に」


 エルシアは少し驚いた顔をする。


「そうなの?」


「ええ。でも誰にも言わなかった」


 ミレナは苦笑した。


「私たち、あの人が何をしてるのか、ちゃんと見たことあったかしら」


 問いというより、独り言に近かった。


     ◇


 午後の光が少し傾く。


 温室の扉が静かに開いた。


 アルヴェインだった。


 二人を見つけても驚いた様子はない。


「珍しい場所にいるな」


「……少しだけ、静かでいたかったんです」


 エルシアが答える。


 彼はうなずき、棚の一つに視線を向けた。


「その鉢は、水を控えめにした方がいい。根が弱い」


 言葉は短い。


 だが花の名前も、世話の仕方も、迷いなく口にした。


 ミレナが小さく笑う。


「そんなことまで知ってるのね」


「必要なことだ」


「必要……ね」


 彼女は言葉を繰り返した。


     ◇


 三人の間に、しばらく沈黙が流れる。


 外の庭では使用人たちの声が遠くに聞こえた。


 エルシアはつぼみを見つめたまま、小さく口を開く。


「……ねえ、お義兄様」


「なんだ」


「与えるって、疲れませんか」


 問いは素直だった。


 アルヴェインは少し考え、肩をすくめる。


「慣れている」


「でも、誰かがそれを当然だと思ったら?」


 彼は答えなかった。


 ミレナが視線を落とす。


「……私たち、当然だと思ってたわ」


 その声は以前より小さかった。


 彼は否定もしなかったし、責めもしなかった。


 ただ温室の外を見た。


「花はな」


 ぽつりと言う。


「咲いている間は、誰も根を見ない」


 エルシアは言葉の意味をすぐには理解できなかった。


「枯れかけて初めて、水や土の話をする」


 それ以上、彼は説明しなかった。


     ◇


 ミレナは棚に背を預けた。


「あなた、怒ってるの?」


「怒っていない」


「じゃあ、どうしてそんな顔してるの」


 彼は少しだけ眉を動かした。


「どんな顔だ」


「……遠い顔」


 その言葉に、エルシアが小さく息を呑む。


 アルヴェインは答えず、鉢の位置を少しだけ動かした。


 光が当たる角度が変わる。


「風の通り道を作るだけで、花は変わる」


 それは独り言のようだった。


     ◇


 温室を出る頃には、日が傾き始めていた。


 ミレナが先に歩き出す。


「ねえ、エルシア」


「なに?」


「私たち……少し遅かったのかしら」


 エルシアはすぐに答えなかった。


 温室の扉が閉まる音が小さく響く。


「……分からない」


 彼女は振り返り、ガラス越しにアルヴェインを見る。


 彼はまだ中に立ち、つぼみを見つめていた。


 何も与えず、ただ光の位置だけを整えている。


 それが、以前とは違って見えた。


     ◇


 アルヴェインは一人、温室に残った。


 ガラスの向こうに夕焼けが広がる。


 静かな場所だった。


 与える必要も、決断する必要もない、短い時間。


 彼は鉢の土を軽く押さえ、手を離す。


 花はまだ咲かない。


 だが、急がせることはしない。


 風がガラスを鳴らす。


 その音は、どこか遠い記憶に似ていた。


 彼は目を閉じ、短く息を吐く。


 与え続けることが、すべてではない。


 だが、与えなかった時間もまた、消えるわけではない。


 温室の灯りが静かに点り、つぼみの影が長く伸びた。


 それはまだ、誰のものでもない時間だった。


第四話 与える手を閉じた日


 朝は、いつも通りに始まった。


 廊下を歩く侍女の足音も、庭師が落ち葉を集める音も、昨日までと何も変わらない。だが屋敷の空気は、わずかに重かった。誰も理由を口にしないのに、何かが終わりに向かっている気配があった。


 アルヴェインは書斎の机に座り、整然と並べられた書類を見下ろしていた。


 婚姻契約書の写し。援助金の記録。リディアの家族への貸与証書。


 どれも彼自身が選び、続けてきたものだった。


 ペン先が紙に触れる。


 音は小さいのに、やけに大きく聞こえた。


 怒りはない。


 悲しみも、今は遠い。


 ただ、決めなければならないという静かな感覚だけがあった。


     ◇


 午前の終わり頃、リディアが書斎を訪れた。


 ノックの音はいつもより控えめだった。


「入っていい?」


「ああ」


 彼女は部屋の中央まで歩いてきて、机の上の書類に目を落とした。


「……忙しそうね」


「少し整理をしている」


 嘘ではない。


 彼女は椅子に座らず、立ったまま窓の外を見た。


「昨日のこと、まだ考えてる?」


「考えていないと言えば嘘になる」


 リディアはゆっくりと振り向いた。


「私は……あなたを責めたかったわけじゃないの」


「分かっている」


「でも、私、息ができる場所を探してるの」


 彼はすぐに答えなかった。


 言葉を選んでいるのではない。ただ、返事が必要なのか分からなかった。


「……そうか」


 短い言葉だった。


 それ以上、会話は続かなかった。


 彼女は何かを待っているようだったが、やがて小さく息を吐き、部屋を出ていった。


     ◇


 昼過ぎ、ミレナとエルシアが書斎に呼ばれた。


 二人とも軽い調子で入ってくる。


「どうしたの、お義兄様。改まって」


 ミレナは笑顔を崩さない。エルシアは少しだけ不安そうに視線を揺らしていた。


 アルヴェインは立ち上がらず、椅子に座ったまま言った。


「今日で、支援契約を終了する」


 言葉は静かだった。


 だが部屋の空気が一瞬で変わる。


「……え?」


 ミレナの笑顔が止まる。


「冗談よね?」


「冗談ではない」


 エルシアが小さく息を呑んだ。


「どうして……?」


 問いは責める声ではなかった。ただ理解が追いついていない響きだった。


 アルヴェインは視線を落とす。


「罰するためではない」


「じゃあ、なんで?」


 ミレナの声が少し強くなる。


「あなたは今まで、何でも与えてくれたじゃない」


「……それを、やめるだけだ」


 冷たい言葉ではない。


 ただ、決めた人間の声だった。


     ◇


 リディアが駆け込んできたのは、その直後だった。


「アルヴェイン、それ本当なの?」


 彼女は机の前まで歩み寄る。


「支援を止めるって、どういう意味?」


「そのままの意味だ」


「急すぎるわ」


「急ではない」


 彼はゆっくりと顔を上げた。


「考える時間は、十分にあった」


 リディアは言葉を失った。


 怒っているわけではない。声も荒げていない。それなのに、彼の言葉は以前より遠く感じられた。


「私のせい?」


「誰のせいでもない」


 それは本心だった。


「じゃあ、どうして……」


 彼は少しだけ視線を逸らす。


「……私が、私であるためだ」


 部屋が静まり返った。


 誰もすぐには意味を理解できなかった。


     ◇


 夕方、屋敷の外では荷車の音が響き始めた。


 支援契約に含まれていた調度品や馬車の一部が、静かに運び出されていく。使用人たちは命令通り淡々と動いていたが、視線には戸惑いが滲んでいた。


 ミレナは窓際に立ち、唇を噛む。


「本気なのね……」


 エルシアは何も言えず、庭を見下ろしていた。


 リディアだけが動かなかった。


 彼女は机の上に置かれた青い宝石の箱を見つめていた。


「あなた、怒ってるの?」


 彼女は小さく聞く。


「怒っていない」


「じゃあ、どうしてこんなこと……」


 アルヴェインは答えなかった。


 怒りで動いたのなら、もっと簡単だった。


 だがこれは、彼自身の選択だった。


     ◇


 夜。


 食堂の席はいつもより静かだった。


 誰も会話を始めない。


 皿に触れる音だけが響く。


 やがてエルシアが小さく口を開いた。


「……お義兄様」


「なんだ」


「私たち、何か間違えた?」


 彼は少しだけ考え、首を横に振った。


「間違いではない。ただ、続けられなくなっただけだ」


 それは責めない言葉だった。


 だからこそ、重かった。


     ◇


 夜更け。


 書斎で一人になったアルヴェインは、窓を開けた。


 庭の灯りが揺れている。


 遠くで荷車の音が止まった。


 机の上には、署名済みの書類が並んでいる。


 彼はそれを見つめながら、静かに息を吐いた。


 与えることは、彼にとって呼吸のようなものだった。


 だからこそ、それを止めるという選択は、思っていたよりも重かった。


 だが、不思議と後悔はなかった。


 胸の奥にあるのは、空白に近い感覚だった。


 ――これでいい。


 そう思った瞬間、廊下の向こうで足音が止まる。


 ノックはなかった。


 誰も入ってこない。


 それでも、彼は誰がそこにいるのか分かっていた。


 しばらくして、足音は静かに遠ざかっていった。


 アルヴェインは机の上の青い箱を手に取り、ゆっくりと引き出しにしまった。


 与える手を閉じた日だった。


■幕間 風のない廊下(リディア視点)


 廊下は静かすぎて、足音が少しだけ大きく響いた。


 屋敷の灯りは以前より控えめになっている。誰もそう言ったわけではないのに、自然と夜が深く見えるようになった。


 リディアは立ち止まり、壁に手を添えた。


 冷たい石の感触が、指先に残る。


 支援が止まってから、何日経ったのか数えていない。ただ、時間の流れ方だけが変わったように感じていた。


 以前なら、夜はもっと明るかった。


 廊下の奥まで灯りが届き、使用人の声が絶えず聞こえていた。


 今は違う。


 誰も慌てていないのに、どこか慎重だ。


 それが、自分のせいだという自覚はあった。


     ◇


 彼女は温室の前で足を止めた。


 扉は少しだけ開いている。


 中には誰もいない。


 棚に並ぶ鉢の一つに触れると、土が乾いているのが分かった。


「……水、少なかったのね」


 独り言のように呟く。


 その瞬間、思い出した。


 アルヴェインが以前、同じ鉢を見ながら言った言葉。


 ――根が弱い。


 その時は、ただの庭の話だと思っていた。


 だが今は、少し違って聞こえる。


     ◇


 温室の奥に小さな椅子があった。


 彼女はそこに座り、天井のガラス越しの空を見上げる。


 青くもなく、暗くもない色。


 中途半端な時間帯。


 自分の気持ちと似ていると思った。


 セリオの言葉を思い出す。


 理想は、遠くにあるから美しい。


 あの時はそう感じた。


 今も嫌いではない。


 でも――。


 彼女はゆっくり息を吐いた。


 アルヴェインの顔が浮かぶ。


 怒鳴ったことはない。


 命令したこともない。


 ただ、いつも先回りして、道を整えていた。


 それが息苦しかった。


 でも、それは本当に“檻”だったのだろうか。


 彼女は答えを出せなかった。


     ◇


 遠くで足音がした。


 反射的に立ち上がるが、誰も入ってこない。


 扉の外を誰かが通り過ぎただけだった。


 彼女は少しだけ笑う。


「……変ね」


 以前なら、彼がここに来ていたかもしれない。


 何も言わずに鉢の位置を直し、灯りを少しだけ動かして、また去っていく。


 そういう人だった。


 彼女はそれを“当然”だと思っていた。


 だから、見ていなかった。


     ◇


 温室を出て廊下を歩く。


 途中で書斎の扉の前に立った。


 中からは紙をめくる音が聞こえる。


 ノックをしようとして、手が止まる。


 何を話せばいいのか分からなかった。


 謝りたいわけではない。


 戻りたいとも思っていない。


 ただ――。


 彼女は手を下ろした。


 そのまま歩き出す。


 扉は開かれないまま。


     ◇


 自室に戻り、鏡の前に立つ。


 宝石箱の中には、青い石が入ったままだった。


 彼女はそれを手に取り、しばらく見つめる。


 身につけようとして、やめた。


 理由は分からない。


 ただ、今は違う気がした。


 箱を閉じる。


 窓を開けると、夜風が入ってきた。


 屋敷の灯りが遠くに揺れている。


 彼女は初めて、自分がどこに立っているのか分からなくなった。


 選んだはずの道の上で、足元だけが静かに揺れている。


 それでも、戻るとは思わなかった。


 ただ、少しだけ遅れて気づいたことがあった。


 彼は、自分を囲っていたのではない。


 ただ、先に歩いていただけだったのかもしれない。


 その背中を、彼女は見ていなかった。


 夜の風がカーテンを揺らす。


 彼女は目を閉じ、静かに息を吐いた。


 答えは、まだ出ないままだった。


第五話 理想の重さ


 支援が止まって三日目の朝、屋敷の空気は目に見えないほどゆっくりと変わり始めていた。


 廊下を歩く足音が少しだけ慎重になり、食堂の椅子を引く音もどこか遠慮がちだ。使用人たちは何も言わない。だが視線の奥には、これまでとは違う緊張があった。


 アルヴェインは書斎の窓を開け、庭の風を取り込んだ。


 帳簿は整っている。契約もすべて完了した。彼が決めたことは、もう戻らない。


 それでも、胸の奥に残るものが消えるわけではなかった。


     ◇


 リディアは朝食に遅れて現れた。


 以前なら侍女が用意した新しいドレスに身を包み、軽やかな足取りで席についただろう。だが今日は、飾り気の少ない淡い色の衣装だった。


「おはよう」


 彼女は静かに言う。


「おはよう」


 アルヴェインも同じ調子で返した。


 会話はそれだけだった。


 ミレナはワインを口に運びながら、落ち着かない様子で指先を叩く。エルシアは皿を見つめたまま何も言わない。


 テーブルの上には料理が並んでいる。質は変わっていないはずなのに、以前より質素に見えた。


「……今日、王都へ行ってくるわ」


 リディアがぽつりと言う。


「用事か」


「ええ。少し……話したい人がいて」


 名前は出さなかった。


 だが誰のことかは分かっていた。


 アルヴェインはうなずくだけだった。


     ◇


 午後、王都の街はいつもより騒がしかった。


 馬車を降りたリディアは、少しだけ立ち止まる。以前なら護衛や侍女が自然と道を開けたが、今日は視線が長く留まるだけだった。


 彼女は気づかないふりをして、広場の奥へ歩いた。


 セリオは約束通り噴水の近くに立っていた。


「来てくれたんですね」


 笑顔は変わらない。


 だがその背後に、以前のような余裕はなかった。


「少し、話したくて」


「もちろん」


 二人は並んで歩き出す。


 広場の喧騒の中で、言葉は自然に途切れた。


「最近、どうしていました?」


 セリオが聞く。


「……色々、変わったわ」


「聞きました。支援が……」


 彼は言葉を濁した。


 リディアは小さく笑った。


「あなたなら、こういう時どうする?」


「どうする、とは?」


「理想を守るために、現実を失ったら」


 セリオは少し考え、空を見上げた。


「理想は、誰かが支えてくれるから続けられるものだと思っていました」


 その言葉に、彼女の表情がわずかに揺れた。


「……じゃあ、支えがなくなったら?」


「その時は、自分で立つしかない」


 答えは正しい。


 だが軽かった。


 リディアは初めて、彼の言葉の向こう側にある空白に気づいた。


     ◇


 夕方、屋敷ではミレナとエルシアが静かな口論をしていた。


「どうするのよ、このままじゃ……」


「お姉様を責めても仕方ないでしょ」


「でも全部変わったのよ!」


 エルシアは言葉を飲み込む。


 怒りではなく、戸惑いだった。


「……私たち、あの人の優しさを当たり前だと思ってた」


 その声は小さかったが、はっきりとした重さがあった。


 ミレナは答えなかった。


     ◇


 夜。


 リディアが屋敷に戻ったのは遅い時間だった。


 廊下の灯りは半分落とされている。


 彼女は書斎の前で立ち止まった。


 ノックをする手が、一度止まる。


 それでも扉を叩いた。


「入っていい?」


「ああ」


 アルヴェインは机から顔を上げた。


 彼女は部屋の中央まで歩き、少しだけ迷ってから口を開く。


「今日、セリオに会ってきたの」


「そうか」


「……あの人、悪い人じゃない」


「分かっている」


「でも」


 言葉が続かない。


 彼女は初めて、視線を床に落とした。


「……理想って、思ってたより重いのね」


 アルヴェインは答えなかった。


 彼女は机の端に置かれた書類を見る。


「ねえ、あなた。後悔してる?」


「していない」


 迷いのない声だった。


 その言葉が、彼女の胸を静かに締め付けた。


「私は……」


 続きを言えず、唇を閉じる。


     ◇


 その夜、屋敷の庭はいつもより静かだった。


 エルシアは一人でベンチに座り、灯りを見つめている。


「寒いわよ」


 ミレナが隣に腰掛けた。


「……ねえ、お姉様」


「なに」


「私たち、あの人の隣に立ったことあった?」


 ミレナはすぐには答えなかった。


 遠くで書斎の灯りが揺れている。


「……立ってるつもりだったのかもね」


 続きはKindle版にて。

ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます。


Kindle版に移植しました。よろしければご覧ください。

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