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灯影の駄菓子屋  作者: 沈丁花
四章. ノアの方舟

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ミアの作戦


春の陽光が教室の床に柔らかな格子模様を描く昼休み。その穏やかな静寂を切り裂くように、ミアが勢いよく椿の席へと駆け寄ってきた。


「椿ちゃん! 最近、ノアがおかしいの。なにか聞いてる?」


机に突っ伏していた椿は、頭上で響いたミアの声にゆっくりと顔を上げた。


「……あぁ。そうだね」


気の抜けた返事をしながら、椿の脳裏にはノアの切実な横顔が浮かぶ。


(回帰のきっかけがミアだって言ってた……)


この天真爛漫な少女も、ノアの言う凄惨な終焉に深く関わっているかもしれない。そんな不穏な推測が、椿の思考をかすめる。


「『そうだね』って……。ねぇ、椿ちゃんまでやめてよ! 二人ともどうしちゃったわけぇ?」


突然向けられた矛先に、椿は呆気に取られて瞬きをした。


「二人? 私はいつも通りだけど」


「どこがよ! 前まであんなに黒川君を追いかけてたくせに、なんで急に避けてるの? もしかして、高度な駆け引き中?」


ニヤニヤと顔を近づけてくるミアの指摘に、椿は心臓が跳ねるのを感じた。


「避けてないってば……。ただ、ちょっと距離感を考えてるだけで……」


「ふーん。怪しいなぁ……あっ! 黒川君!」


「えっ」


ミアが教室の入り口へ向かって手を振った瞬間、椿は条件反射で手元にあった教科書を掴み取り、顔を隠すように読み始めた。


「椿ちゃん……」


ミアが心底呆れたような声を出す。


「……まさかとは思うけど」


「……違うの、ミア。何も言わないで」


両手で押さえた教科書の陰で、椿の頬はみるみるうちに熱を帯びていく。

その様子を眺めていたミアの瞳が、いたずらっぽく細められた。彼女は抑えきれない様子で、口元をニヤつかせながら椿を覗き込む。


「あらあらぁ、天下の灯郷椿様にも、そんな初心ういな一面があったのねぇ」


「ほんとに、違うのに……っ」


椿の制止も虚しく、ミアは椿の背後に向かって、これ以上ないほど明るい声を張り上げた。


「黒川君、ちょっとこっち来て!」


「ミア、もう嘘はやめて! 二回も同じ手に――」


「……なんだ? 来栖」


背後から降ってきた、低く、聞き慣れた声。

椿の体が、瞬間的に硬直した。


「……っ!」


ミアは椿の動揺を楽しみながら、平然と嘘を並べ立てた。


「なんかね、椿ちゃん……熱があるみたい。顔も真っ赤だし。悪いんだけど、保健室まで連れてってあげてくれないかなぁ?」


「本当か?」


椿がミアを睨みつけるより早く、レイが横から顔を覗き込んできた。隠しようのない熱が、椿の頬からレイへと伝わりそうな至近距離。


「椿、歩けるか?」


咄嗟に目を逸らした椿の視界の端で、ミアが両手で口を抑え、腹立たしいほどに肩を震わせて笑っている。


(……ミア、絶対に許さないから)


そうは言っても、ノアから聞かされた未来を思えば、いつまでも逃げ回っているわけにはいかない。これは好機なのだ。彼と、真正面から向き合うための。


「……自分で、歩けるから。大丈夫」


立ち上がろうとした椿の目の前に、当たり前のようにレイの大きな掌が差し出された。


躊躇ためらいつつも、その掌へ恐る恐る手を重ねる。ぐい、と軽い力で引き上げられた。自分よりわずかに高い体温が、手のひらを通じて心臓まで直接流れ込んできた。


背後から、ミアの追い打ちをかけるような声が響く。


「椿ちゃん、先生には私から言っておくから! そのまま戻って来なくて大丈夫よぉ。お大事にねぇ!」


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