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灯影の駄菓子屋  作者: 沈丁花
四章. ノアの方舟

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凪を裂く悲鳴


春休みが明け、椿たちは二年生になった。

校門から校舎へと続く桜並木は今が満開で、風が吹くたびに淡い桃色の花びらが雪のように舞い散っている。


放課後の屋上。

珍しく、昼休み以外の時間にレイに呼び出された。

フェンス越しに街を眺めていたレイが、背後で足を止めた椿に気づいて、ゆっくりと振り返る。


「レイ。どうしたの? ……話ってなに?」


レイは視線を落とし、言葉を探すように沈黙を保っている。


「……告白でもするつもり?」


椿が冗談めかして笑うと、いつものように小さなため息が返ってくる。


「……なんでそうなるんだよ」


「だって。言いにくそうだったから」


「……お前なぁ」


呆れながらも、レイは一歩、椿の方へ歩み寄った。温かな指先が頬に触れ、逃がさない角度に椿の顔を向けさせた。


「……っ」

椿の思考が一瞬、硬直する。

頬に伝わるレイの手の熱と、彼女の反応を少しも見逃さないような瞳に、椿は得体の知れない居心地の悪さを感じた。見慣れたはずのその目が、なぜか今日は恐ろしいほど真っ直ぐで、咄嗟に目を逸らす。


「椿。……春休みの間、ずっと考えてた」


「何を、考えてたの……?」


椿の声がわずかに震える。怖いのに、触れてみたい。


「お前の――」


レイの唇が言葉を紡ごうとした、その瞬間だった。


――ガタァン!!

屋上の鉄扉が、異様な激しさで叩かれる。


「椿ちゃんっ!」


扉が開き、なだれ込むようにして現れたのはノアだった。


「……ノア? どうしたの? 」


あまりの形相に、椿は咄嗟にレイの腕の中から身を引いた。ノアは膝をつき、今にも崩れ落ちそうだ。


「椿ちゃん! 助けて……っ」


悲鳴に近い声。

ノアは込み上げたものを抑え込むように口を塞ぎ、喉の奥で嗚咽を噛み殺した。


椿は咄嗟にレイの視線を切るように、ノアの前に立ち、彼女を抱き寄せた。細い肩を包み込み、震える背をゆっくりと擦る。


「ノア、大丈夫。落ち着いて……」


ノアの瞳を深い闇が濁している。

椿が背後のレイに目配せを送る。レイは一瞬ノアの様子を窺ったが、すぐに椿の意図を察して短く頷き、屋上を後にした。


その去り際、ノアがレイの背中に向けた視線は、縋るような熱を帯びていた。


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