凪を裂く悲鳴
春休みが明け、椿たちは二年生になった。
校門から校舎へと続く桜並木は今が満開で、風が吹くたびに淡い桃色の花びらが雪のように舞い散っている。
放課後の屋上。
珍しく、昼休み以外の時間にレイに呼び出された。
フェンス越しに街を眺めていたレイが、背後で足を止めた椿に気づいて、ゆっくりと振り返る。
「レイ。どうしたの? ……話ってなに?」
レイは視線を落とし、言葉を探すように沈黙を保っている。
「……告白でもするつもり?」
椿が冗談めかして笑うと、いつものように小さなため息が返ってくる。
「……なんでそうなるんだよ」
「だって。言いにくそうだったから」
「……お前なぁ」
呆れながらも、レイは一歩、椿の方へ歩み寄った。温かな指先が頬に触れ、逃がさない角度に椿の顔を向けさせた。
「……っ」
椿の思考が一瞬、硬直する。
頬に伝わるレイの手の熱と、彼女の反応を少しも見逃さないような瞳に、椿は得体の知れない居心地の悪さを感じた。見慣れたはずのその目が、なぜか今日は恐ろしいほど真っ直ぐで、咄嗟に目を逸らす。
「椿。……春休みの間、ずっと考えてた」
「何を、考えてたの……?」
椿の声がわずかに震える。怖いのに、触れてみたい。
「お前の――」
レイの唇が言葉を紡ごうとした、その瞬間だった。
――ガタァン!!
屋上の鉄扉が、異様な激しさで叩かれる。
「椿ちゃんっ!」
扉が開き、なだれ込むようにして現れたのはノアだった。
「……ノア? どうしたの? 」
あまりの形相に、椿は咄嗟にレイの腕の中から身を引いた。ノアは膝をつき、今にも崩れ落ちそうだ。
「椿ちゃん! 助けて……っ」
悲鳴に近い声。
ノアは込み上げたものを抑え込むように口を塞ぎ、喉の奥で嗚咽を噛み殺した。
椿は咄嗟にレイの視線を切るように、ノアの前に立ち、彼女を抱き寄せた。細い肩を包み込み、震える背をゆっくりと擦る。
「ノア、大丈夫。落ち着いて……」
ノアの瞳を深い闇が濁している。
椿が背後のレイに目配せを送る。レイは一瞬ノアの様子を窺ったが、すぐに椿の意図を察して短く頷き、屋上を後にした。
その去り際、ノアがレイの背中に向けた視線は、縋るような熱を帯びていた。




