表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
灯影の駄菓子屋  作者: 沈丁花
三章. 梓鳳学園

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

52/57

偽りの恋心


三階の校舎の窓から、粘りつくような甘い気圧が立ち昇るのを感じ、レイは視線を外へと投げた。


——リンが近くにいる。



裏門。そこには、あってはならない光景が広がっていた。

白光の狐を掲げる椿と、その前に立ち塞がるリン。そして、椿の前へ割り込むように立つハルの背中。


(あいつら、また余計なことに首を突っ込みやがって――。)


あの時、自らの手で切り離したはずの呪縛。それなのに、当然のようにリンは今もその力を使っている。その事実が、レイの胸に言いようのない不吉な予感を突きつけた。

理由を考えるより先に踵を返し、階段を駆け降りる。


一刻も早く、あの二人をあの場所から引き剥がさなければならない。だが、二階の踊り場で不意に耳に届いた声が、レイの足を強引に止めた。


「椿ちゃん、本当に黒川君のこと好きなのかなぁ? はっきり言い切った割には、なんだか淡々としすぎじゃなぁい?」


来栖ミア。

隣には水瀬ノアもいる。妙なことに、二人とも外の騒ぎに引き寄せられていない。その異質さを記憶の隅に放り込み、レイは耳を澄ませた。


「うーん……私も最初は疑ってたんだけど。なんていうか……本当、だと思う」


ノアが静かに、けれど確信を込めて応じる。


(椿が……なんだって?)


一瞬にして全身の血の気が引く。

もしこの噂に尾ひれがつき、久世の耳にでも入れば、潜伏していた「九尾」の計画は一気に加速するだろう。


椿の『執着』は、最悪のトリガーになりかねないのだ。


「え、ほんと? ノアがそう言うなら――」


「……来栖」


低く鋭い声が、ミアの明るい響きを切り裂いた。

振り返ったミアの表情が瞬時に凍りつき、隠しきれない焦りが滲み出す。


「やば……」


「詳しく話せ。椿が、そう言ったのか?」


レイは逃げ場を塞ぐように間を詰め、ミアの目の奥を覗き込む。


「ミアちゃん……これは、言い逃れできないかも……」


ノアが困ったように呟くと、ミアは諦めたように小さく「椿ちゃんホントごめん」と手を合わせた。それから、開き直ったような笑みを無理やり作ってレイに向き直る。


「で……でも、やっぱり黒川君も気になるんだぁ? 椿ちゃんみたいな子に好かれて、嫌なわけないよねぇ」


レイは短く息を吐き、視線を逸らした。

リンといい、この不気味な噂といい、また椿が何かを企んでいる。


これ以上踏み込ませるわけにはいかない。

そして、何も告げずに屋敷を去り、結果として彼女をこの危うい状況に放り込んだ自分にも、その一因がある。その自責の念が、レイの心をじりじりと焼く。


窓の外を再び見やると、既にリンの気配は消えていた。

甘ったるい毒が霧散し、正気に戻った生徒たちが、何事もなかったかのように窓から外を眺めている。

逃げ続けてもらちが明かない。


恋心という盾まで使い、執拗にこちら側の境界線を越えようとする彼女に、正式な「拒絶」を突きつける必要がある。


(……椿と、一度向き合わなければならない)


それが、彼女をこの深淵から遠ざける、唯一の手段だと信じて。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ