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灯影の駄菓子屋  作者: 沈丁花
二章. 椿の屋敷

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静かなる共謀


ハルは、隣を歩く椿の横顔を盗み見た。

灯郷の屋敷で見せた、あの脆く危うい椿。レイという拠り所を失えば、音もなく壊れてしまう――そう危ぶんでいた。


けれど椿は、やはりハルの知る椿のままだった。


「レイを、連れ戻す」


短い言葉に宿る熱が、胸の奥をほどく。ハルは小さく息を吐いた。


夜中、雪まみれで駄菓子屋に現れたレイが残した言葉が、まだ耳の奥にこびりついている。


『ハル、椿を頼む』


行き先も告げず、椿の安全だけを託して闇へ消えた男。

——二人とも、不器用なところだけはよく似ている。


その時、椿が唐突に言った。


「……ハルは、レイとどんな知り合いなの?」


迷いのない目だった。ハルは視線を泳がせ、古い記憶の蓋を開ける。


「前に、家出してた時期があるって話しただろ。……その時、一緒に路地裏で生活してたんだ」


椿の足が止まる。驚きに目を見開いた。


「あ……前に少し話してくれたよね。……その時、レイもいたの?」


「一年くらいだけどね。二人で泥を啜るような毎日だった」


ハルは一度、言葉を切った。


「……でも、ある夜に事件があって。俺は目が覚めたら病院のベッドにいた。レイがどうなったかは分からなかった。探し出せなかったんだ。……みんな、死んだと思ってたよ」


積もった雪を見つめる。白さが、あの夜の暗さを余計に際立たせた。


「その後の空白で、レイが何をしてたのか。そこに、あいつを縛る答えがあるはずだ」


椿はまっすぐに見つめ返してくる。瞳には静かな決意が宿っていた。


「調べる……のは難しいよね。やっぱり、レイ本人に聞くしかないのかな」


「そうだな。冬休み明けに学校に来るなら、そこが一番の接触ポイントだろう」


「結局、会わないと何も進まない……」


そこで椿が、ふっと息を呑んだ。


「……リンは? レイの弟の…リン」


ハルの表情が一瞬、硬くなる。


「……でもその子は怪異の力を使ってたんだろ? 危なくないか?」


「でも、また会いに来るって言ってた。どっちにしても、会うことになると思うの」


椿の言葉に迷いはない。


「レイとリン。二人を救うのは、同時進行だよ」


ハルは、レイが何も言わず椿の前から消えた理由を、ようやく腹の底で理解した。

真実を話せば、椿はこうして自分から危険に踏み込む。だからレイは、言えなかったんだろう。


――いや。本当は、俺も分かっていた。


希望を渡せば、椿が動くことは予想できた。それでも話した。ハル自身も、レイを放っておけなかったからだ。


(……あとで、ひどく怒られるだろうな)


苦笑を飲み込み、ハルは強く頷いた。


「わかった。でも一つだけ約束してくれ。単独行動はやめよう。何か動いたら、すぐ連絡して」


「……うん。わかった」


「二人と接触できるチャンスは、どちらにしても冬休み明けだ。それまでは俺もできる事をやるよ。小箱の事も調べないとな。それと……椿はちゃんと休んで」


ハルは椿の肩に、そっと手を置いた。


「戦うには、体力がいる」


「……ありがとう、ハル」


椿の返事は、雪解け水みたいに静かで、それでも芯があった。


冷たい新年の風が吹き抜ける。

二人が見据える先には、闇に消えた一人の少年の背中があった。


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