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灯影の駄菓子屋  作者: 沈丁花
二章. 椿の屋敷

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禁忌の箱


離れの空気は、凍りついたまま動かなかった。


部屋の隅に転がされたメイドは、低く唸るだけで、何も話そうとはしない。

美鶴への忠誠心なのか、あるいは話せば消されるという恐怖からか。


椿がメイドの耳へ耳栓を押し込み、外界の音を遮断したのを確認してから、レイはその体を部屋の端へと引きずっていった。


(……今日の椿は、様子がおかしい)


レイは横目で椿を観察する。

いつもの冷静な仮面が剥がれ、剥き出しの攻撃性が指先から漏れているようだった。

表情には隠しようのない疲労が滲んでいる。


「……これを見てくれ」


ハルが、三人の真ん中に自身のスマホを置いた。画面には、書庫で撮った古書の写真が映し出されている。


「できるだけ痕跡を残さないように撮ったんだ。……でも、該当しそうなページはどれも破られている」


写真の中の書物は、無残に中身が欠落していた。


怪異の力を引き出し、人間がその異能を我が物にするための禁忌の工程。灯郷家が秘匿してきたはずのその核心部だけが、一文字残らず掠め取られている。


「やっぱり、灯郷家は知ってて隠してるんだ……」


椿の呟きが、重く部屋に落ちる。


レイは視線を古書から、その隣に置かれた小振りの木箱へと移した。


黒ずんだ木肌に、鈍く光る銀の金具。それは一見して、ただの工芸品には見えなかった。放たれているのは、禍々しいほどの密度を持った「重圧」だ。


「これだけは、確かめなきゃいけないと思って持ち出した。……ごめん、独断で動いて」


ハルが申し訳なさそうに肩を落とすが、むしろ、よく持ち出したと思う。


「この中に、抜き取られたページが入ってる可能性は?」


ハルの問いに、椿が首を振った。


「分からない。でも、この箱…見覚えがある。お父様が大事にしていたものと似てる」


今から母屋に戻って鍵を探し出すのは、死にに行くようなものだ。


「……なら、壊すしかねぇな」


レイは短刀を逆手に握り直し、箱の継ぎ目に刃を差し込もうとした。

だが次の瞬間、鼓膜を刺すような金属音が響き、レイの右腕が激しく弾かれた。


「っ……、クソッ、硬えなんてレベルじゃねえ」


顔をしかめて手首を押さえる。短刀の刃先を確認したが、箱には傷一つ付いていない。どころか、刃を当てた感触すら手に残っていなかった。


続いてハルが工具を取り出し、梃子てこの原理でこじ開けようと試みるが、箱は岩のように沈黙を保ったままだ。


椿が、吸い寄せられるように箱にそっと手を触れた。


「……冷たい。これ、ただの木じゃない」


椿の指先が触れた箇所から、微かに黒い霧のようなものが立ち上ったのを、レイの目は逃さなかった。


「普通には開かないってことだな」


物理も、技術も通用しない。


次の目標は、この「箱」を開けることに決まった。

それでも——確かな手応えはあった。


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