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灯影の駄菓子屋  作者: 沈丁花
二章. 椿の屋敷

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30/42

クリスマス


駄菓子屋の前は制服の群れが途切れず、いつもより甘い匂いがする。赤と緑の装飾が、冬の冷え込みを華やかに塗り替えていた。


それでも、ハルの視線は入口に落ち着かなかった。


昨日の電話。

椿は短く言った。


「協力者が増えた」


それだけで、胸の奥が落ち着くどころか、逆にざわついた。

増えたって、誰が。


鈴が鳴る。冷たい空気が一枚、店に滑り込む。


「…椿、いらっしゃい」


椿は店内を一度見回した。人が少ないのを確認するみたいに、視線が棚をなぞる。


ハルはレジの前で、言い方を探してから切り出した。


「昨日の、あれ。……どういうこと? “協力者が増えた”って」


椿は、少しだけ唇を噛んだ。迷っているというより、言葉を最短に削っている顔だった。


「昨日伝えた通りだけど、私が集まりに参加することになったの。…ハル一人に、危ないことはさせられないから」


椿は鞄から紙袋を取り出して、カウンターの上に置いた。

紙が擦れる音がやけに大きく聞こえる。


「これ、服」


「……え」


「私服で入ったら浮くでしょ。だから、これ着て」


紙袋の中には、見ただけで分かる“ちゃんとした”服が入っていた。新品の匂いがする。

ハルは思わず眉を寄せる。


「こんな高そうなの、もらえないよ……って言いたいけど」


今夜は、そんな綺麗事で守れる夜じゃない。


椿が、少しだけ目を細める。


「言わないで。こんなの、ハルの協力に比べればお礼にもならないよ」


「……ありがとう」


受け取るしかなかった。

今夜は些細な綻びすら許されない。


椿が続けて、折り畳んだ紙を取り出した。手書きの地図。線が細いのに迷いがない。


「正面から来客を装って入る予定だったけど…」


椿の指先が、地図の正面玄関を軽く叩く。


「一人だけ違う動きをしたら、目立つ」


指が裏へ滑る。勝手口の線。


「だから、この裏口から入って。……夜までに、通れるようにしておく」


ハルは地図を覗き込む。

椿の家が“家”じゃないことを、こういう時に思い知らされる。


「で、協力者って……どんな人?」


問いかけると、椿の目が一瞬だけ揺れた。すぐに戻る。


「…猫。訳ありなの」


――訳ありの猫。


(…椿らしいな)


「この前拾った子か。…わかった。詳しくは聞かないよ」


「…ありがとう。見張りを任せてるから、ハルはその合図で動く事になる。私もできるだけ早く合流するから」


椿の手のひらに、淡い光がふっと滲む。ちいさな狐。息をしているみたいに揺れる。


「尻尾を立てたら止まれ。揺れたら進め」


椿の声は低く、ゆっくりだ。覚えさせる声だった。


「本当にまずい時は、狐に伝えて。すぐに行くから」


狐は鳴かない。ただ、耳だけ動かして辺りを聞く仕草をした。

ハルの背筋が少しだけ伸びる。


「……分かった」


椿は地図を折り畳む。カウンターの端で指先が強くなった。


「ハル…無理はしないでね」


「椿もだよ」


椿は頷いた。


「じゃあ、また夜にね」


店を出る前、椿は一度だけ振り返った。


「……ありがとう」


ハルは咄嗟に、笑う形だけ作った。


「どういたしまして」


椿が去ったあと、ハルは地図を広げて最終確認をした。

日が落ちるころ、紙袋の服に袖を通す。サイズはぴったりだった。嫌な汗が背中を伝う。


失敗は、許されない。


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