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八話め

 週末、私はモニカと散歩をしに出ていた。

 これは彼女がしたいと言い出したためだった。


 楽しそうに河川敷を歩く彼女の背を追う。

 小さな背中は楽しそうに揺れている。


「そんなに楽しいもの?」


「ああ、楽しい。彼らがどんな気持ちだったかを容易く想像できるんだ」


 この一週間で彼女は幾つか本を読み終わったらしい。

 その登場人物のことを言っているのだと思う。


 それにしてもこの短い期間の中で、それほどの量を読めるのは尊敬に値する。

 どうにも私には真似ができない。


「そういえば、モニカは学校って興味ない」


 今まで考えもしなかったことが唐突に口をついて出る。

 彼女は何歳なのかは知らないが、よくて中学生だろう。学校に行かないのはまずい気がした。


「学校、学校か」


 モニカは立ち止まって考える素振りを見せる。

 その回答を待ちながら、ふと空を見ると曇天だ。雨が降るかもしれない。


「悩ましいものだな」


 再び歩き出した彼女はそう言った。

 その言葉はいつも通りの抑揚で、感情はよく分からなかった。


 そもそも思い出してみると、私は一体どうして彼女があの夜に外にいたのかを知らない。

 それどころか名前以外を何も知らない。


 歩き続けて私たちはいつの間にか街中まで辿り着いていた。

 モニカは一貫して楽しそうに歩いている。

 アスファルトのにおいが鼻孔をくすぐる。

 風が吹いて街路樹がさざめく。


「モニカ、もう帰ろう。雨が降ってきそう」


 私の言葉に、彼女は空を見上げた。

 その姿が綺麗だなと思いつつ、先程からあった違和感に気付く。


「確かに。遠いところまで付き合わせてすまないな、アズサ」


「良いよ、全然暇だったし」


 此処は間違いなく繁華街のはずだが、これほど人がいないというのは珍しい。

 もうすぐ雨が降りそうだからと言って、中々そんなのはあり得ないだろう。


「あっ」


 唐突にモニカは言葉の破片らしきものを発する。

 それから私の手を引っ張った。

 ちょっと驚いて、つまずきそうになってしまった。


「すまない。少し目を瞑ってもらえるか?」


 脈絡のないお願いだが大人しく目を瞑る。

 断る意味もなかったためである。


 しばらくして肩が叩かれた。

 目を開けると、少し息の上がったモニカがいた。


「どうしたの、大丈夫?」


 驚いて問いかけると、彼女は小さく頷いて言う。


「疲れた」


「ええ、まだ帰り道長いから頑張って」


 こう声をかけたところで、指先に冷たいものが触れた。

 雨が降り始めたのであろう。

 これは大変だ。どうしたものか、と少し悩んで私は一つのことを決めた。


 歩けなさそうな彼女をおんぶすることにしたのだった。

 下の子がいないから少し新鮮な気持ちだったが、家まで着くころには随分と濡れてしまうことになった。


「本当にすまない、アズサ」


 モニカが背中から謝罪をした。

 それに何だか笑えてきてしまった。

 妹がいたらもしかしたらこんな気持ちだったかもしれない。そう思えた。


 モニカをお風呂に入れた後、どこか遠くで爆発音みたいなのが聞こえた。交通事故だろうか?






 ──────────

 ────────

 ──────






「お昼ごろの魔物ってあなたが退治したの?」


 久しぶりに事務所の方に訪れると、同僚であるルビーが問いかけてきた。

 彼女の質問に、私はきっと疑問符を浮かべていたことだろう。


「その顔は違うかー。じゃあ、他の子かな」


「みんな忙しいからないんじゃないかな」


 彼女の言葉を否定しつつも、ふと気になったことがあった。


「いつも誰が倒したとか気にしないのに、突然どうしたの?」


「いや、それがね。ルチルは想像つかないかもだけど、なりふり構わない馬鹿も居るんだよ」


「具体的には何が?」


「一帯が吹き飛んだらしいよ。人払いは出来てたみたいだけど、全く迷惑だよね。ほんと」


 それに苦笑をした。

 恐ろしい人がいるものだという心と、あるいは仲間に出来たら心強いという二つがある。

 いずれにしろ私たちが身を守るため、そして任されたことをやり遂げるためにはメリットが大きいだろう。


 それに私は魔物というのが少し怖かった。

 元来文学少女だ。こんな外からの敵から世界を守るなんて大仕事は辛いものだ。

 それに魔法少女なんてのもどうにも恥ずかしい。もう私も高校生なのだ。


「そういえばルチル、勉強教えて」


 ルビーは学校のワークを取り出し、机に広げた。

 それには二次関数と書いている。


「しっかりしてよ、リーダー」


 中学範囲くらいできるだろうに、と思いながらも彼女に向き合うことにした。

 人生の先輩として見捨てるのは冷たいと思えたのだ。

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