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いずれ花咲くオルフェーブル  作者: 朝日 橋立
一章め いずれ花咲くオルフェーブル
16/17

十六話め 願望と因果応報

 佐久良に手を引かれた。

 どこに向かっていたのかは知らないが、大人しくついて行った。


 暫く歩くと、小さな建物の前に着く。

 三階建てのそれの周りには、高い建物ばかりで、その小ささが際立つ。


「随分と庶民的な感じだね」


 扉を開ける佐久良に声をかける。

 彼女は少し恥ずかしそうに頬を掻いて言う。


「私達、お金があんまりないんですよ。これは生産じゃありませんから」


「世界を救ってるのに不思議」


「別に名誉とか、お金とかは重要な要素ではないですから」


 なるほど、どうやら高潔らしい。

 使命を成し遂げることがもっとも重要だと。

 胸の奥に多少チクチクとした感覚があった。


「それに、契約を履行するという側面もあります」


「契約?」


「一つ願いを叶えさせて貰えるんです。勿論、あんまり大きなことは無理ですが。その代わりとして世界を救う使命を負うと言いましょうか」


「何を願ったの?」


「世界を救える強い力、ですかね。世界の危機と言われて、私事を頼むというのが思いつかなくって」


 佐久良について部屋の中に入る。

 思ったよりも広かった部屋には、見知った顔がいた。

 その人は私の顔を見ると、一瞬目を丸くした。


「久しぶりだね、摩耶」


 何だか悪役チックに声をかける。

 彼女は一度溜息を吐いた。


「佐久良、どういう考え?」


「あそこに居たということは、ある程度できることがあると思うんですよ。それに、頭数は多ければ多いほど良いと思うから」


 佐久良は打算を隠さずに言う。

 もっともそれに邪な感情があるかというと、たぶん全く介在していないと思う。

 彼女は純粋に、そう思っているだけに違いない。


「さっさ、あの人のことは置いといて、こっちです」


 連れられるままに行くと、人形らしいタコが置かれている。

 それを佐久良は持ち上げると、何度か縦に振った。


「紹介します。これが妖精さんです」


 タコはやはり人形らしいが、その触手をゆっくりと動かしている。

 それから目が合ったように思われる。


「あっ、よろしくです」


 手を差し出すと、タコには取られなかった。

 まるで眼中にないという様子である。


「アズサさんです。彼女を仲間に引き入れたいんですがどうですかね」


 佐久良が声をかけると、ようやく私が眼中に入ったという様子である。

 彼か彼女か、全く知れない存在と目が合う。


 暫くしてから声が上がった。


「才能の欠片もない。無駄じゃないかな。……まあ、いいや。それで君、願いは?」


「願い?」


「うん、何かすごいことが叶う訳じゃないけど、身近な人の幸福とか」


「それじゃあ、家族が幸せになってほしいです」


 タコは呆れたように溜息を吐く。

 そして、こちらに触手を向けた。


「うん、全く才能がないし、そもそもやる気はあるのかな。それ本気じゃないだろう」


 事実、口にした言葉はひどい欺瞞だったように思う。





 ──────────

 ────────

 ──────





 モニカは室内で本を読んでいた。

 彼女が読んでいたのは、アズサから最初に貰った本である。


 端的にいえば、理不尽に不幸が人を襲う話である。

 それも分かりあうとか、分かり合わないとかじゃなくって、ただただ孤独になるのだ。


 孤独と不幸。

 モニカの眼前に迫ったこれらは、ひとえに自身の隠匿によるものが大きい。


 あるいは不幸というのも間違いだったのかもしれない。

 自身の行為から生まれ落ちたそれを、因果応報と言うのかもしれない。


 もしかしたら、モニカの最初の不幸とはアズサに出会ったことだと考えられた。

 一時の幸福を知ってしまって、不幸の正体を知った。


 さて、それからしばらく本を読み続けた。

 虫となった主人公が死んでしまった所である。


 その時、モニカは強い違和感を覚えた。

 いうなれば二度目の不幸に出会ったのだ。

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