十六話め 願望と因果応報
佐久良に手を引かれた。
どこに向かっていたのかは知らないが、大人しくついて行った。
暫く歩くと、小さな建物の前に着く。
三階建てのそれの周りには、高い建物ばかりで、その小ささが際立つ。
「随分と庶民的な感じだね」
扉を開ける佐久良に声をかける。
彼女は少し恥ずかしそうに頬を掻いて言う。
「私達、お金があんまりないんですよ。これは生産じゃありませんから」
「世界を救ってるのに不思議」
「別に名誉とか、お金とかは重要な要素ではないですから」
なるほど、どうやら高潔らしい。
使命を成し遂げることがもっとも重要だと。
胸の奥に多少チクチクとした感覚があった。
「それに、契約を履行するという側面もあります」
「契約?」
「一つ願いを叶えさせて貰えるんです。勿論、あんまり大きなことは無理ですが。その代わりとして世界を救う使命を負うと言いましょうか」
「何を願ったの?」
「世界を救える強い力、ですかね。世界の危機と言われて、私事を頼むというのが思いつかなくって」
佐久良について部屋の中に入る。
思ったよりも広かった部屋には、見知った顔がいた。
その人は私の顔を見ると、一瞬目を丸くした。
「久しぶりだね、摩耶」
何だか悪役チックに声をかける。
彼女は一度溜息を吐いた。
「佐久良、どういう考え?」
「あそこに居たということは、ある程度できることがあると思うんですよ。それに、頭数は多ければ多いほど良いと思うから」
佐久良は打算を隠さずに言う。
もっともそれに邪な感情があるかというと、たぶん全く介在していないと思う。
彼女は純粋に、そう思っているだけに違いない。
「さっさ、あの人のことは置いといて、こっちです」
連れられるままに行くと、人形らしいタコが置かれている。
それを佐久良は持ち上げると、何度か縦に振った。
「紹介します。これが妖精さんです」
タコはやはり人形らしいが、その触手をゆっくりと動かしている。
それから目が合ったように思われる。
「あっ、よろしくです」
手を差し出すと、タコには取られなかった。
まるで眼中にないという様子である。
「アズサさんです。彼女を仲間に引き入れたいんですがどうですかね」
佐久良が声をかけると、ようやく私が眼中に入ったという様子である。
彼か彼女か、全く知れない存在と目が合う。
暫くしてから声が上がった。
「才能の欠片もない。無駄じゃないかな。……まあ、いいや。それで君、願いは?」
「願い?」
「うん、何かすごいことが叶う訳じゃないけど、身近な人の幸福とか」
「それじゃあ、家族が幸せになってほしいです」
タコは呆れたように溜息を吐く。
そして、こちらに触手を向けた。
「うん、全く才能がないし、そもそもやる気はあるのかな。それ本気じゃないだろう」
事実、口にした言葉はひどい欺瞞だったように思う。
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モニカは室内で本を読んでいた。
彼女が読んでいたのは、アズサから最初に貰った本である。
端的にいえば、理不尽に不幸が人を襲う話である。
それも分かりあうとか、分かり合わないとかじゃなくって、ただただ孤独になるのだ。
孤独と不幸。
モニカの眼前に迫ったこれらは、ひとえに自身の隠匿によるものが大きい。
あるいは不幸というのも間違いだったのかもしれない。
自身の行為から生まれ落ちたそれを、因果応報と言うのかもしれない。
もしかしたら、モニカの最初の不幸とはアズサに出会ったことだと考えられた。
一時の幸福を知ってしまって、不幸の正体を知った。
さて、それからしばらく本を読み続けた。
虫となった主人公が死んでしまった所である。
その時、モニカは強い違和感を覚えた。
いうなれば二度目の不幸に出会ったのだ。




