十三話め 一体世間は狭いもの
静か過ぎるのはあまり好きじゃない。
そして、虫もあまり好きではない。
前者は些細な音が大きく聞こえてしまうからだ。
例えば、布が擦れる音、心臓の音。
後者は感情が全くと言っていいほど分からないからだ。
それに毒を持っていそうなのもいけない。
現実にほら、何やら私の目前で汁を垂らしている。
一度深呼吸をする。
夏の空気が肺を満たす。
一つずつが大きい複眼を見る。
そこにはやはり私が映っている。思ったよりもしけた顔だ。
食べられてしまうのかな、とちょっとばかし考える。
目前の虫は肉食だろうか?
虫とはいえない虫けらだから断言が出来ない。
カリカリというのは外骨格の擦れる音だ。
そういえば、以前にモニカが人が虫けらになってしまうという本を読んでいた。
私はどうやら夏の暑さにやられて虫の一部になってしまうようだ。
これはどうにも滑稽かもしれない。
さて、虫けらが口を開くと、私の腕を嚙んでしまった。
これは中々痛くなかった。
ただただ不愉快なものである。
幾度か力が強くなったと思うと、その口を再び開いて私の口を離してしまう。
すると、今度は足に嚙みついて再び離してしまう。
それを何度か繰り返すと、諦めたのかその小さな羽を振り回した。
しかし、それでは飛べないようで、幾つあるか分からない足で私の上から退く。
遅々とした後退を見守る。
虫は触角のない頭を尚もこちらに向けている。
その目に感情というものは見られなかった。
「伏せて!」
大声が聞こえる。
身体に全く力が入らないのだから問題ない。
声の主を探そうと、眼球を動かす。
その私の視界に映ったものと言えば、虫の頭が一刀両断される景色ばかりであった。
虫の頭にはどうやら私の知らない臓器ばかりが入っていたようだ。
落下したそれに服を汚されてしまう。
「大丈夫でしたか?」
そう声をかけてくる少女は、見知った人のように思われた。
茶色っぽい、小さい子向けのアニメに出ていそうな服を着ている。
「摩耶?」
「はっ? えっ?」
目が合うと、一層そのように思われる。
「何を言ってるのかな、お嬢さん」
その声の隅に滲んでいたのは焦燥だ。
「ありがとう」
お礼の言葉に遠くからの声が被る。
その声にも聞き覚えがあった。
「何か落とし物でもした? ルチル」
声の主は紅い髪を振り回しながら走ってくる。
そして、私に気付いたようで、その顔に驚きを映した。
「ルビー、あっち行ってて」
ルチルと呼ばれた方が手を追い払うよう振る。
しかし、もう片方がこう口にした。
「わお、アズサさん?」
知り合いの面影を感じさせる少女たちは、対照的な反応をしている。
ルチルは呆れたように、ルビーは嬉しそうである。
さて、この頃よく感じたことであるが、一体世間は狭いものである。
流れとして区切るとすると、ここで章が変わるんじゃないかと思いたい人です。
あっ、あと各話のタイトルをつけました。




