十話め 不思議なこともあるもの
コーヒーというのは存外に美味しいものだと思う。
これを今まで飲んでこなかったのは、確かに一つの後悔として生まれている。
さて、私の目前には少し寒そうにしている少女がいる。
つい先刻雨に打たれていた彼女を、放っておくことが出来ずカフェに連れてきたのである。
流石にずぶ濡れだと、お店に迷惑が掛かるから途中コンビニで傘とタオルを買った。
何か羽織るものでも持ってこればよかった。
そう思いながら声をかける。
「何か軽食も欲しかったですか?」
「えっと、大丈夫です。その、ごめんなさい」
「いえいえ、大丈夫ですよ。……えっとお名前は?」
「あっ。植野佐久良です」
「私は前山アズサ、よろしく」
やはり初対面の人との会話は難しいなと思う。
あまり会話が得意な人ではないのだ。
「紅茶は好きじゃない?」
「あっ、頂きます」
このように何か責めているように思われるのも難しさだろう。
「佐久良ちゃんは学生さん?」
「はい。今は中学三年生です」
「来年から高校生か。頑張って」
「アズサさんは?」
「私は高二だね。栄藤だよ。良かったら来て」
それを聞くと、驚いたような顔を彼女は見せる。
「頭いいんですね」
「いや、あんまりだよ。もうちょっと上を受けて落ちちゃったし」
過去の悲しい出来事を思い出した。
確か友達と一緒に受けて私だけが落ちた記憶だ。
何とも恥ずかしいものだ。
「私、栄藤目指してるんです」
「へえ、楽しみにしてるよ。来年の後輩ちゃん」
「あの、もし時間があったらでよいのですが、勉強を教えて頂けませんか?」
「うん、いいよ」
こう会話をしながらも、一体なぜ彼女が雨に打たれていたのかを聞けず仕舞いにいた。
話を切り出すタイミングを見失ってしまったというべきだろうか。
佐久良の鞄から取り出された数学のドリルは、雨に濡れてふやけている。
それに気づいたのか困った様子を見せた。
「うーん、今日は中々難しそうだね。連絡先教えて。また教えてあげるから」
「ありがとうございます」
少し落ち込んだ様子で佐久良はスマホを差し出してきた。
可哀そうなものだと思いながらも、メッセージアプリに追加した。
この為だろうか。話を聞くのはまたあとでもよいかと思って、適当な話をすることにした。
「どうして栄藤を目指そうと?」
「えっと、知り合いが栄藤に行ってて、おいでと言われたので」
中学の頃の先輩だろうか。
もしかしたら知り合いかも知れない。
「アズサさんは部活とかやってますか?」
「うん。オカルト研究会だよ」
「オカルトですか?」
佐久良はよく分からないと言った様子だった。
私も実際よく分かっていない。
オカルトが好きではないし、そもそもとしてあまり興味がある訳ではない。
すると、どうして入ったのかという話が、これは摩耶に誘われたからにすぎない。
「私も友達に誘われただけだから、あんまり分かんないんだけどね」
それからも幾分か話した後、明日勉強を教える約束をし、私たちは解散した。
話してみたところ結構高校受験を頑張っているそうだ。
私自身は適当に偏差値の高いところを選んだだけだから、あんまり偉いことを言うことは出来ない。
けれど、頑張ってほしいとは思うのが先輩としての心だろう。
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事務所でオカルトの本を読んでいた。
友達の返信を待つ間というのはとても短いもので、一文を読んだらスマホを見ることの繰り返しとなっている。
以前私の都合でばらしになったことを思い、大変申し訳ない気持ちが湧いてくる。
どうやって償ったものか、と思いながらもスマホにメッセージを打ち込んだ。
さて、それが続いている中で、私に声をかける人がいた。
「ルチル、ルチル」
私の名前を呼んだのはルビーだった。
一体なぜ楽しそうにしているのかは不思議である。
「どうしたの?」
「いやあ、格好いい人にあったの」
その言葉に少し嫌な想像をする。
中学生を騙すような人も世の中にはいるものだから。
「どんな人なの?」
「えっとね。お仕事の後、少し疲れちゃったんだよ。そしたらね傘をさして、大丈夫って」
何とも漫画的な場面だ。
妄想ではなかろうか?
「それでね、その人に勉強も教えて貰ったんだ」
「へえ。その人は大丈夫な人なの?」
「うん。だってルチルと同じ高校の人だよ」
「名前は?」
さて、彼女が口にした名前に驚いたのは言うまでもない。
世の中というのは、面白い偶然があるものらしい。
一週間に一回は中々だなと思ったので、ストックがなくなるまで毎日投稿します。




