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一話め

 吹奏楽部の演奏の音がする。

 窓を見ると、カーテンが揺れていて、その隙間を縫うように夕陽が射している。


「ねえ、森本もりもと先輩」


 頑張って声を出して、いつも通りの演技をする。

 心臓が少し痛い。


「私と付き合ってくれませんか?」


 真剣な言葉を紡ぐ。

 先輩は少し驚いた表情をして固まる。

 彼の瞳の奥が揺れているような気がした。


 少し経ってからだ。


「ごめんね」


 先輩はゆっくりと頭を振って、優しく言う。


 心臓が止まったような感じがした。

 鼻の奥というべきか……それとも目の間というべきか、そこが痛かった。


「タハハ、冗談です、冗談」


 頑張っていつも通りの演技をする。

 ドキドキと鼓動に合わせて痛んだ。


 先輩は少し驚いた表情をしている。

 そして少しの安堵だ。

 そんな表情をしないでほしい。


「冗談でも許されないぜ」


 先輩は怒ったように言う。

 何か足元が覚束ない。


「本気だと思っちゃいました?」


 おちゃらけたことを言いながら、詰め寄る。

 ああ、冗談だと思ってほしい。

 本気だと思わないでほしい。

 せめて仲の良い後輩のままでいたい。


 果たして私はしっかりと演技できてただろうか。

 おふざけばかりのだらしない、そんな後輩の役を。


 何とも情けない話であるが、こんなどうしようもない、普通なことで私、前山アズサの初恋は終わった。


 それからの会話は覚えてないし、どのように学校を出たかもわからない。

 ただ、気付いたときには、いつの間にか暗くなってしまった。

 そして、よく分からない公園にいる。


 スマホを見ると、最寄り駅のすぐそばの公園のようだ。

 親に迷惑を掛けたくなくって、家へと足を引きずった。


 何が悪かったのだろうと考える。

 先輩が悪いわけがなくて、間違いなく私が悪い。

 彼に告白してしまった私が悪かったのだろう、と思う。


 一つ溜息を吐いて、両頬を叩く。

 演技だ。演技をしよう。

 どうせ家にいないだろうが、もしかしたら親に心配をかけてしまう。


 覚悟を決めて、顔を上げる。

 電灯が点滅している。


 どうにも不気味だ。

 幽霊が出るにしても、まだ早いのではなかろうか。丑三つ時はまだまだ先だ。


 何か恐ろしいものを感じながら、電灯の方へと歩く。

 興味本位だった。


 電灯の近くにまで来たところで気付く。

 灯の下に一人の女の子がいた。

 白い髪の綺麗な女の子だ。


「大丈夫?」


 座っている少女と視線を合わせるために、しゃがみ込む。

 綺麗な目をしてる。

 深いアメジストみたいだ。


 少女と目が合う。

 より一層深い色に見えた。


「ねえ、大丈夫?」


 少し息を詰まらせながら問いかける。

 人形というべきだろうか、そういったものに話しかけているような感じがする。


 先輩の濡羽色とは正反対の、銀髪というのだろうか?

 ただ綺麗な髪の色だと思う。


 綺麗である。

 これの否定は全くできない。

 ただ綺麗であるからこそ、恐ろしく思ってしまうのだ。

新しい連載です。

ゆっくりと一週間に一話くらいで投稿していこうと思ってます。

これからどうもよろしくお願いいたします。

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