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都会に疲れた僕が猫又と温泉巡りしたら人生が変わった  作者: もものけだま


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猫又と行く癒しの温泉巡り 第七話 帰郷

ミケ曰く、僕の湯治旅行も終わったようで、僕達は別府から3人でフェリーと電車を乗り継いで、ミケと僕が住む実家へと向かっていた。


 実家が近づいてくると、春香が車窓から夜空を眺めながら燥いでいる。


「うわー! 空気が全然違う! 星がこんなに見えるなんて!」


 ミケもバッグから顔を出し、誇らしげに髭を揺らした。


「ふふふ、凄いだろ? ここが私たちの故郷だ!」


「うん! とっても綺麗!」


 春香は初めて見る田舎の風景に目を輝かせながら、車窓に張り付くようにして外を眺めていた。


 窓から流れる懐かしい風景に、僕も心が和んだ。田んぼと山に囲まれた小さな町の光景は、都会での喧騒を忘れさせてくれる。やっぱり地元は落ち着くな。この冷涼な空気と草木の匂いは、僕に深い安心感を与えてくれた。


 しかし数分後、実家の最寄り駅が近づくにつれて、春香の表情が曇り始めた。


「勢いでここまで来ちゃったけど、どうしよう……」


 ミケが呆れたように言う。


「私も連れて行けと騒いだのは春香だろ?」


「だ、だって、ご家族に迷惑かけちゃうかも……」


「ここまで来ておいて、今更何を言ってんだよ!」


「だって〜」


 春香は手をもじもじと動かしながら、小さな声で不安を吐露した。その背中が小さく見えて、僕は自然と声をかけていた。


「春香? 僕が居るから大丈夫!」


「え?」


 春香が驚いて顔を上げるのと同時に、ミケがニヤリと笑う。


「ほほう! 格好良い事を言うではないか」


「そんなつもりは……」


 照れる僕を見て、春香はようやく表情を緩めた。


「……うん、ありがとう。ちょっと安心して来た」


 春香は安堵の笑みを浮かべてくれた。


 僕は何気なく言ったつもりだったが、自分でも驚くほど自然に言葉が出ていた。以前の僕なら、こんな風に人を安心させる言葉は出てこなかっただろう。


 ついこの前までは、他人の気持ちを考える余裕なんてなかった。ずっと狭くて暗い思考の中だけで過ごしていて、周りを見る余裕なんてなかったのだ。


 もうそろそろ実家だなと思いながら、この旅がどれほど自分を変えてくれたのかが分かった。




 ガラガラと玄関の引き戸を開けると、懐かしい匂いがした。


「ただいま〜」


 奥からパタパタと足音がして、母が顔を出した。


「おかえり〜」


 玄関で母が出迎えてくれた時、僕は久々に故郷の温かさを感じた。母は僕の顔をじっと見つめると、ハッとしたように目を見開いた。


「あら! 顔色がすっかり良くなったわね」


 母は僕の表情の変化に驚き、手で口を覆いながら涙ぐんでいた。旅立つ時の僕がどれほど憔悴していたか、改めて実感させられる反応だった。


 僕は横にいる春香を促す。


「お、おじゃまします」


「母さん、こちら春香さん。温泉旅行で知り合った友達なんだ」


「は、はじめまして! は、はるきゃ……春香と言います。突然お邪魔してしまい申し訳ありません」


 春香は緊張のあまり噛んでしまったが、深く頭を下げて丁寧に挨拶をした。


「あんたに電話で友達を連れてくるって聞いてたけど、こんな可愛らしいお嬢さんだったなんてびっくりだわ」


「お、おじょ、お嬢さんだなんて……」


「わざわざこんな田舎まで来てくれてありがとうねぇ」


「こ、こちらこそ、ありがとうございます」


 足元では、ミケが普通の猫を装って母の足にすり寄っていた。


「にゃーん」


「ミケも元気そうで良かったわ。本当に心配してたのよ?」


「にゃーん」


「さあさあ、3人共上がって上がって」


 母は春香を温かく迎え入れ、まるで以前からの家族のように接してくれた。

 

 


 僕が荷物を置いていると、ミケが小声で耳打ちしてきた。


「ばあちゃんに挨拶して来い!」


 久しぶりの実家に安心したのか、気が緩んでいた僕にミケが喝を入れる。

 

 そうだね、と仏壇に向かおうとすると、台所から春香の元気な声が聞こえてきた。


「私にもお手伝いさせてください!」


「ありがとう。でも長旅で疲れてるでしょ? ゆっくりしてなさい」


「いえ、大丈夫です! 何かをしている方が緊張が紛れるんです」


「あら、緊張してるの?」


「はい! とっても!」


「ふふふ、そういう事なら手伝って貰っちゃおうかな」


「はい! 喜んで!」


 春香は積極的に料理を手伝い、あっという間に母と意気投合していた。2人が台所で楽しそうに話している声を聞いていると、なんだか嬉しい気持ちになった。


「なんか、おばあちゃんと母さんが一緒に台所で話してた時を思い出すな〜」


 僕がそう漏らすと、ミケが畳の上で丸くなりながら答えた。


「あの2人は義理の親子と言うより、友達みたいだったからな」


「あはは、確かに春香はばあちゃんに似てるのかもね」


「性格は似てはいるが、格が違う!」


「え、そうなの?」


「昔、婆ちゃんと温泉に浸かっていた時、男湯から喧嘩の声が聞こえると、裸で男湯に乗り込み説教してたぞ?」


「え? 本当に?」


「ばあちゃんの若い頃は凄まじかった。ちなみに、その時にボコボコにされたのがお前のじいちゃんだ!」


「……そうなんだ」


 知られざる祖父母の馴れ初めを聞いた僕は、急いで仏壇へ行き、手を合わせながら婆ちゃんと爺ちゃんにお礼を伝えた。


(婆ちゃん、ただいま……じいちゃん、お疲れ様……)


 

 

 夕食の席には、郷土料理が所狭しと並んでいた。


「温泉はどうだった?」


 母は興味深そうに旅の話を聞きたがった。僕たちは草津、老神、下呂、有馬、道後、別府での体験談を詳しく話して聞かせた。


 ミケが普通の猫として振る舞っていたので、春香は事情を理解して上手く話を合わせてくれた。


「ミケちゃんがいてくれたお陰で、本当に楽しい旅になりました」


 春香が膝の上のミケを撫でながら言うと、ミケは「当然だ」と言わんばかりに気持ちよさそうに目を細めていた。


「ミケが家族以外に撫でさせるなんて珍しいわ」


 春香が驚いて母に尋ねる。


「そうなんすか?」


 春香は何かを思いついたように「しまった!」と言う顔にかわると言いなおす。


「あっ! そ、そうなんですか?」


「もう! そんなに気を使わなくて良いわよ」


「は、はい」


 母はビールを注ぎ足しながら、上機嫌で言った。


「ミケもこんなに懐いてることだし、いっそうの事、春香ちゃんもこの家の家族になっちゃう?」


「え? 良いんですか!」


「こっちこそ、こんな田舎で良いの?」


「え? 凄い良い所だと思いますけど……」


「そんな事を言って貰えて嬉しいわ。良し! 春香ちゃんはもううちの子で決まり!」


 お酒を飲んで燥ぐ母につい口を出してしまう。


「母さん? 飲み過ぎじゃない?」


「そんなことないわよ〜。さぁ、春香ちゃんも飲んで飲んで!」


 母に勧められ、春香もグラスを掲げた。


「は〜い! 頂きます!」


 すると、春香の膝で眠っていたミケが声を上げた。


「にゃーん」


「あっ! ミケちゃんがうるさいって怒ってる」


「ミケ〜 ごめんね〜」と母が適当に答える。


「にゃーん」


ミケはしょうがないかとでも言うように一声鳴くと、また気持ちよさそうに眠ってしまった。


 夕食は温泉旅行の思い出話で盛り上がり、笑い声が絶えなかった。こんな風に家族で団らんするのは本当に久しぶりだった。

 

 


 次の日。朝食を済ませると、僕達は3人で祖母の墓参りに向かった。

 

 山の麓にある墓地は静かで、澄んだ朝の空気に包まれていた。

 

 僕は墓前に手を合わせ、改めて祖母にきちんと報告した。


「おばあちゃん。僕はミケのお陰で大丈夫になりました。おばあちゃんの最期にも立ち会えなかった僕を、どうか許してください」


 線香の煙が真っ直ぐ空へ昇っていく。


「あの頃の僕は、仕事が1番大事だと思っていました。でも今は違います。ちゃんと人と向き合えるようになりました」


 続いてミケが墓石の前に進み出る。


「ばあちゃん! 私もちゃんと約束を果たしてきたぞ! お前達の血を引く子を、私なりにちゃんと守ったぞ」


 ミケもまた、200年越しの約束の完了を報告していた。

 

 最後に春香が手を合わせる。


「はじめまして、春香と言います。お孫さんとミケちゃんと、とても楽しい旅ができました。ありがとうございました」


 春香も祖母に丁寧に挨拶をしてくれた。

 

 


 墓参りを終えた後、墓地の片隅で春香が立ち止まり、急に真剣な表情になった。


「ここで言うことじゃないかもしれないけど……でも、おばあちゃんにも聞いてもらいたくて……」


 春香は手をギュッと握りしめながら、勇気を振り絞るように話し始めた。


「私、君と一緒にいるとすごく楽しくて……温泉を巡る旅の中で、君の優しさがとっても嬉しかった」


 彼女の瞳が僕を真っ直ぐに射抜く。


「私、君のことが好きになっちゃった……みたいです」


 祖母の墓前での春香の真剣な告白に、僕は心臓が早鐘を打つのを感じた。嬉しい、けれど今の僕にその資格があるのか――不安がよぎる。


「僕も……春香といると心が軽くなるよ。でも僕はまだ……春香の気持ちに応えられるような、しっかりした人間ではないんだ」


 僕が春香から視線を逸らすと、横から鋭い声が飛んできた。


「はぁ〜 また自分の殻に閉じこもって、自信ゼロの根暗野郎になりやがった! まったく……春香の勇気を大切にしてやれよな」


「ミケ……」


 ミケは僕を睨むと、春香に向かって叫んだ。


「春香!」


「は、はい!」と、ミケの声に驚いた春香が姿勢を正す。


「こいつを殻から引きずりだせ!」と、ミケがニヤリと笑う。


「了解しました! ミケちゃん!」


 春香は一歩踏み出し、力強く宣言した。


「私は急いで答えを求めるつもりはない! 私はいつまでだって答えを待てる! 君は君の気持ちを、私に正直に言ってくれればそれでいい!」


 彼女の声が墓地に響く。


「私は君に別に振られたってかまわない! もっと良い女になってリベンジするだけだ!」


「……だから……だから私は大丈夫だ!」


 言い切ったあと、急に緊張が解けたのか、春香は顔を覆って泣き出してしまった。


「う、うぅ、うわ〜〜〜ん」


「春香! 良く言った! 頑張ったな!」


「うわ〜〜〜ん、ミケちゃ〜〜〜ん」


 春香に抱きつかれているミケが、ジロリと僕を見る。


「で、お前はどうすんだ?」


「…………」


「お前だって春香の事が気に入ってるだろうが! 昔みたいに自分に言い訳をして逃げるのか? 自分が傷つきたくないからって、春香の気持ちから逃げるのか?」


「…………」


「まだウジウジしてるようなら、この大妖怪『都の毛玉様』が、お前を温泉に投げ込んでやろうか?」


 僕は深呼吸をして、顔を上げた。


「……春香?」


 泣いていた春香が顔を上げる。


「……はい」


「身勝手な事で申し訳ないけど、僕はこの先の事でちゃんとしたい事があるんだ。それが片付くまで待ってて貰えませんか?」


「……わかった……待ってる」


 2人のやり取りを見て、ミケがため息をついた。


「はぁ、なんだその曖昧な答えは……40点だな」


「え?僕も結構、頑張ったのに低すぎない?」


「だが、春香は100点満点だ!」


「やったーー!」


 きっとミケが適当に付けたであろう採点に、春香は飛び上がって喜んでいた。




 その日の夜。実家に戻ってから、僕は一晩じっくりと考えて大きな決意を固めた。

 

 ミケにも相談したのだが、ミケは聞こえないふりをして眠っていた。なんだかミケに、『もう私に頼るな! 自分で決めろ!』と言われているような気がした。


 僕が出した答えは正解じゃないかもしれない……。それでもこの旅でミケに教わった事を思い出し、僕は自分で答えを出し、春香に伝える事にした。


 僕は客間で休んでいる春香の部屋をノックした。


「春香? こんな遅くにごめん……起きてる?」


「え? お、起きてる」


 襖越しに返事があり、僕は少しだけ戸を開けた。


「ちょっと良い?」


「え? え?……うん」


 春香は寝間着姿と言うか、タンクトップにショートパンツといった、とてもラフで寒そうな格好で布団の上に座っていた。僕は正座をして切り出した。


「僕、東京には戻らないことに決めたよ」


「え? 本当に? お仕事はどうするの?」


「ここで新しい人生を始めたい! 東京での生活は僕を壊してしまった。きっと僕に都会の生活は合わないと思う」


 僕は言葉を選びながら、自分の正直な気持ちを伝えた。


「僕は自分に出来ない事で背伸びをするのはやめて、今度は人との繋がりを大切にしながら生きていきたい」


 そして、彼女の目を見てはっきりと言った。


「春香! 僕にもう少し時間をください! 地元で仕事を見つけて、準備ができたら春香を迎えに行きます!」


 春香の瞳に涙が浮かぶ。


「わかった! 待ってるね。どんなに時間がかかっても私は待ってるよ」


「大丈夫! すぐに迎えに行く! 春香の為に僕は頑張る!」


「ありがとう! 凄く嬉しい!」


 すると、開いたままの襖の隙間から、ミケがのっそりと入ってきた。


「なんだか男らしくなっちゃって……でも良い選択だと思うぞ」


 僕を見上げるミケも満足げに頷いていた。


「ミケちゃん、私やったよ! この鈍感男を振り向かせたよ!」


 ミケは春香に頭を下げ答えた。


「……苦労を掛けてすまん」




 次の日の朝。母にも東京には戻らないことを報告すると、母も納得してくれた。


「そうね、無理して東京にいることはないわ。ここで新しいスタートを切りなさい。あんたがこの家を継いでくれるなら、ご先祖さまもきっと喜んでくれるわ」


 春香も道後に帰らないといけないので、僕はミケを連れて駅まで見送りに行った。春香の帰郷と共に、僕も退職手続きのため、一度東京に戻る事にした。


 プラットホームで向き合った時、春香の目に涙が浮かんでいた。


「必ず迎えに行くよ。今度は僕がミケと春香を温泉に案内する」


「待ってる! 私も温泉の素晴らしさをもっと勉強して、ミケちゃんに負けない女になって待ってるから!」


 そう大声で叫ぶ春香をやっぱり凄いと思った。少ないながらも駅には人が居て、みんな微笑ましく僕達を見守ってくれていた。都会に無い田舎の良さを、さっそく春香から1つ思い出させて貰ったような気がした。


 春香との別れは寂しかったが、今度は僕から会いに行く約束ができて嬉しかった。電車が見えなくなるまで、僕はホームで手を振り続けた。


 ミケは僕の肩で大きなあくびをしながら春香を見送ると、僕の肩から飛び降りてさっそうと1人で改札の方へ歩き出した。


(もう、一言もないなんて……)


 そんなミケの後ろ姿を見送りながら、僕も反対ホームに来た東京行きの電車に乗った。

 

 


 数日後。退職手続きの為に会社に顔を出すと、同僚が最後に僕の肩を叩いて激励してくれた。


「今の時代、この仕事は田舎にいても出来る! お前には才能があるんだから、フリーランスになってのんびり続けてみるのもありだと思うぞ?」


「ああ、考えてみるよ」


「なんならこっそり仕事を回してやる!」


「ははは、ありがとう!」


 そう同僚に告げ、僕は会社を後にした。


 アパートの片付けや各種手続きなど、東京での最後の用事を3日かけて済ませた。荷物をまとめながら、ここでの3年間を振り返ると感慨深いものがあった。辛いことも多かったが、ミケと出会えた場所でもある。


 東京での手続きの最終日。


 その静寂を切り裂くように、スマホの着信音が鳴り響く。

 

 画面に表示された『母』の文字を見て、僕は通話ボタンを押した。


「……もしもし?」


 返事がない。

 

 電話の向こうから聞こえてきたのは、押し殺したような母の嗚咽だけだった。


「……ミケが……亡くなったわ」


「え?」


 頭が真っ白になった。


「うそ……だろ?」


 母の震える声での知らせに、僕は言葉を失った。

 

 僕はすぐに荷物をまとめて、最終の便で故郷に向かった。

 

 


 実家に着くと、ミケは冷たくなって静かに座布団の上に横たわっていた。まるでいつも縁側で眠っているように、静かにそこに横たわっていた。200年以上の長い生涯を終えたのだ。

 

 ミケの穏やかな表情を見た時、涙が止まらなくなった。


「あんたが東京に戻ってから、ずっと寝たきりになっちゃってね。あんたが帰ってくるのを待ってるかのように、最後まで頑張ってたんだけど……」


 母の言葉に、僕はさらに涙があふれた。


「ごめん、ミケ。待たせてごめん……」




 翌日。ミケを庭の木の下に埋葬した。そこは日当たりが良く、ミケがお気に入りだった場所だ。


「……ありがとう、ミケ。君がいなかったら、僕は今でも東京で壊れたままだった」


 土をかけ、手を合わせる。


「君が教えてくれた温泉の力、人との繋がりの大切さを僕は絶対に忘れないよ」


 僕は深い悲しみの中で、心からの感謝をミケに伝えた。

 

 庭に建てたミケの墓の前で僕は1人佇んでいると、突然一匹の子猫が草むらから現れた。その子猫は毛色も目の色も、不思議なくらいミケに似ていた。


 でもミケはもう居ない……。


「うわ〜〜〜ん、ミケ〜。ちゃんとお礼もお別れもしてないのに、なんで勝手に逝っちゃうんだよ!」


 僕はミケに似たこの子猫を見ていると、ミケと過ごした時間を思い出してしまい、さらに涙を流しながらミケのお墓に感謝を伝えた。


 そんな僕を、その子猫はじっと見つめていた。


「よう! 戻ってたのか」


「え?」


 聞き覚えのある偉そうな口調。


「そんなに泣いてどうした? もう春香にフラれたのか?」


「え?」


 子猫が喋った瞬間、僕は驚いて目を見開いた。その声は確かにミケの声だった。


「いつまでも同じ猫のままじゃ周りに怪しまれるからな! まだ人の姿になれるほどの妖力は戻ってないが……」


「どうだ? 子猫の私はもの凄く可愛いだろ? にゃん!」


 子猫はクルリと回って見せる。


「ミケ?……本当にミケなの?」


「まだまだお前の面倒を見てやらなければならんからな。それに春香の奴も心配だ。あいつ一人では絶対に何かやらかすぞ?」


 僕は涙を流しながら、その子猫を両手で包むように抱きしめた。温かい。確かに生きている。


「ミケ……戻ってきてくれたんだね」


「当然だ! 私がいなくなったら、お前はまたダメになってしまうからな」


 ミケは僕の手の中で声を張った。


「それに私には、この家の子孫を護る約束もある。春香との縁も見届けなければならん。私にはまだまだやる事が多くて大変なのだ!」


 子猫のミケは相変わらずの調子で、僕を安心させてくれた。


「さっそくだが、お前にはやるべき事がある!」


「え? 何?」


「私をこの家で飼って貰えるようにしろ!」


 僕は涙を拭いて、力強く頷いた。


「うん! 任せて!」


「良かった〜 これからも一緒なんだね」


 すると子猫のミケは僕の腕からぴょんと飛び降り、庭の真ん中で家を見上げながら叫んだ。


「私はミケ! この家を守護する猫又なり!」


「にゃん!」


(おしまい)

最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!

ミケと主人公、そして春香の旅を最後まで見届けていただけて、作者として感無量です。

ラストシーンのミケの姿に、少しでも温かい気持ちになっていただけたら嬉しいです。


もしこの物語を気に入っていただけましたら、評価いただいたり、感想をいただけると、飛び上がるほど励みになります!


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▼YouTube動画はこちら

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ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございました。

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