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都会に疲れた僕が猫又と温泉巡りしたら人生が変わった  作者: もものけだま


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猫又と行く癒しの温泉巡り 第六話 別府温泉

第六話別府温泉


電車の中でミケと春香との思い出を話しながら、僕たちは九州に向かうフェリー乗り場に向かった。


「春香との出会いが、この旅をさらに豊かなものにしてくれた気がするよ」


僕がそう言うと、ミケが車窓から外を眺めながら答える。


「人との出会いも温泉の恵みの一つだからな」


「そうだね」


「春香は良い奴だったな」


「うん!元気だし本当に良い人だったね。

性格もちょっとミケに似てるし・・・」


さっきまで流れる景色を楽しんでいたミケは、こちらに向き直り顎に手を当て真剣な表情に変わった。


「大きさでは負けたが、肌艶と形は私の勝ちだとおもうぞ?」


何の話?と聞き返すと、さらに訳の分からない答えが返って来る。


「今度どっちが凄いか見比べてみろ!きっと私の勝ちだと思うぞ!」


突然、怒ったミケは視線を窓に戻し、映っている自分の姿を見ながらウンウンと何かを確認していた。




電車が港に到着し、僕たちは九州行きのフェリーに乗り込もうとフェリーのタラップに足をかけた瞬間、後ろから声が聞こえた。


「待ってー!」


振り返ると、息を切らせて走ってくる春香の姿があった。


大きなリュックを背負い、明らかに旅の準備をしている格好だった。


「春香?どうしたの?」


「私も一緒に行く!」


両膝に手を当てながら息を整えている春香に、

え?と驚いている僕を無視してミケが答える。


「ふふふ!私は別にかまわんぞ?」


春香はホッとした表情をした後、視線を下に向けたままの姿勢で息を整えている。


「・・・道後以外の温泉も知ってみようかなと思って。それに、猫又と一緒の旅なんて二度とないし・・・」


春香は恥ずかしそうに俯きながら呟いた。頬を赤らめながら、もじもじしている春香を見るのはなんか新鮮だった。


「春香!」


と、ミケが大きな声をあげる。


「・・・なに?」


「一緒に来い!」


「うん!」


元気に返事をする春香を、ミケはニヤニヤしながら見ていた。


「・・・本当にいいの?」


今度は僕の方に視線を向け、不安そうに訊ねてくる。


「もちろん!一緒に旅ができるなんて嬉しいよ」


そう返すと、春香は大きな荷物を背負いながら大きく両手を上げた。


「やったー!」


春香の大きな声に周りの人がこちらを見て笑っていたが、彼女らしい行動に僕も笑ってしまった。


こうして猫又のミケと僕の温泉旅行は3人旅になった。




別府駅に到着すると、街全体が湯煙に包まれていた。その光景は今まで見てきたどの温泉地とも違って、観光客の数も多くいた。


フェリーでは海が怖いのか、ずっと僕にしがみ付いていたミケも元気を取り戻し、いつもの解説が始まる。


「ここが別府だ!源泉数・湧出量ともに日本一を誇る温泉の王様だぞ!」


「うわー!すごい湯煙!」


春香は目を輝かせながら街を見回していた。僕も辺りを見回すと変な銅像が視界に入った。


「なんか変な銅像があるね」


「あれは油屋熊八だ」


「油屋熊八?」


「別府観光の父と呼ばれ、明治時代から昭和初期にかけて、別府温泉を世界的な観光地にするために尽力した人だ」


「じゃぁ別府温泉の歴史は、そこまで古くはないの?」


と、ミケの解説に春香が質問をする。


「そんな事は無い。ここは奈良時代の『豊後国風土記』にも記されている古い温泉地でな、速見の湯と呼ばれていたんだ」


「道後には負けるけど、それでも1300年の歴史があるのね!道後には負けるけど!」


春香に、そうだねと僕が相槌を返すと、ミケがニヤニヤしてこちらを見ている。


「あまいぞ春香!別府の源泉の数は2300本以上!毎分83000リットルもの湯が湧き出している!まさに日本一の温泉地なんだぞ」


「そんなにすごいんだ・・・まさか道後が負けるとは」


「地獄と呼ばれる源泉も有名でな、お前達も自然の力の凄さを感じられると思うぞ?」


「地獄?怖そう・・・」


「大丈夫だ!見た目は派手だが温泉の恵みに変わりはない」


そんな2人のやり取りを聞きながら少し歩くと、見るからに老舗旅館だと分かる建物に到着した。


「いらっしゃいませ~」


3人で自動ドアを潜ると女将さんが笑顔で迎えてくれた。


「3名様ですね。お部屋割はどう致しますか?」


そう女将さんが尋ねてきた時、春香の顔が急に赤くなった。


「・・・勢いで来ちゃったから、部屋のことを考えてなかった」


モジモジする春香に対し、ミケが堂々と答える。


「こいつらは私が認めた許嫁だ!私はこいつの姉だから、もちろん同じ部屋で頼む!」


「まぁ、それはそれは」


と女将さんが僕達を見る。


「そんな冗談を言ったら春香に失礼だろ?」


と僕がミケに小声で言う。


「・・・冗談なんだ」


なぜか春香は怒ったような顔で黙り込んでしまった。


「春香?」と声を掛けるが、「ふんっ!」と言いながらそっぽを向かれてしまった。


そんな僕と春香を無視して、ミケは同部屋で3人分の宿を取っていた。




部屋に案内され、女将さんが淹れてくれたお茶を飲みながら少し休み、いよいよ温泉巡りが始まる。


最初に訪れた海地獄の美しいコバルトブルーを見て、春香は活発に反応していた。


「うわー!すごい青色!」


「温度は98度もあるから触ったらダメだぞ」


「98度!熱湯より熱いじゃない!」


「この色は硫酸鉄の成分によるものだ」


「自然が作り出す色なのね」


「どうだ?自然は凄い事をしてくるだろ?」


「うん!」


機嫌のなおった春香の元気な様子を見て僕も安心した。




血の池地獄では、真っ赤な湯を見て春香は興奮していた。


「真っ赤!真っ赤で神秘的!」


「この赤い色は酸化鉄や酸化マグネシウムによるものだ」


「面白いね!地質学って奥が深いのね!」


ミケの解説に春香は目を輝かせている。


「春香は大学で温泉の勉強してるんじゃないのか?」


「温泉って言うより民俗学の研究ばっかりしてるかな」


「だったら、今後の為にもしっかり見ておけよ」


「うん!」


3人で自然の力に感動しながら、僕たちは次の地獄に向かった。




龍巻地獄では、間欠泉が勢いよく噴出する様子を見て、春香は大興奮していた。


「すげ~!龍巻すげ~!」


「お!丁度良いタイミングで来れたな」


「そうなの?」


「1回につき数分程度は噴出が続くが、次の噴出まで30分ちかく時間があるからな。丁度良い時間に来れてラッキーだったな」


「私達の普段の行いのお陰だね」と春香が頷いている。


「ちなみに、この湯は地下では150度くらいあって、噴出直後でも100度くらいあるから気を付けろよ」


「すげー!龍巻怖~い!」


「人間の作ったものなど、自然の力に比べればちっぽけなものだ」


ミケの話を聞き終わると、春香が間欠泉に向かって祈っている。


「自然の凄さに畏怖と感謝を!」


春香の意味不明な行動に僕が、「え?なにそれ」と尋ねる。


「あんたも早くやんなよ!」


「え?なにを?」


「自然への畏怖と感謝の祈り!」


春香の行動と言葉に、僕は何が起こっているのか分からず、しばし固まってしまう。


「は~や~く~」


せかす春香に負けて僕も真似をした。


「し、自然の凄さに畏怖と感謝を!」


「よろしい!」


春香は嬉しそうに笑っている。そんな姿を見ていると僕も元気になってくる。


まぁ、僕が何をやらされたのかは意味不明だったけど、自然の凄さに畏怖を感じた事は確かだったし、こんな凄い光景を見れた事にも感謝をした事も確かだった。




次の地獄蒸し料理の体験では、春香が率先して準備を始めた。


「ここでは何をするの?」


「地獄蒸しを体験する」


「え?僕達、蒸されるの?」


「お前を蒸した所で食えんだろうが!ここでは温泉噴気のかまどを使って、自分達で料理が出来るんだ」


僕とのやり取りで呆れ顔のミケに春香が尋ねる。


「ミケちゃんは料理とかするの?」


「肉球でどうやって料理をするんだよ!」


今は人の姿だから肉球じゃないでしょと思っていると、怒るミケに向かって春香は得意気な顔をしている。


「じゃぁ任せて!料理は得意なの!」


春香が腕を組みミケを見つめている。


「ミケちゃん?」


「なんだ?」


「今回は私の勝ちね」


「私に勝ったとて、あの阿呆の鈍感さは異常だぞ?」


ミケの言葉に何も言えなくなった様子の春香を見て、良くわからないが、今回もミケが勝ったのだなと思った。


ミケの指導を受けながら、春香はテキパキと作業をこなしていく。


「春香ってすごく手際がいいね」と僕は感心する。


「ありがとう!」


春香の手際の良さにミケも感心している様子だ。


「うむ!良い嫁になれそうだな」


「・・・ありがとう」


ミケの言葉に、春香は耳まで顔を赤らめていた。




数十分後。


ようやく料理が完成した。春香が木の蓋を開けると、湯気の後に美味しそうな香りが僕に届いて来た。


「地獄の蒸気で蒸した料理は格別だぞ。普通に蒸すよりも数倍は美味く感じる!」


「温泉ってすげーー!」


春香が大きな声をあげると、店員さんも嬉しそうに笑っている。


食事をしながら楽しく3人での会話は弾んだが、エビは全部ミケに取られてしまった。


しかし、ホタテとサツマイモ、それにデザートのプリンはとても美味しかった。


お腹も膨れ3人で後片付けをしていると、春香がミケに尋ねた。


「ねぇねぇ、ミケちゃん」


「なんだ?」


「ちょっと気になったんだけど、ミケちゃんは三毛猫じゃないのになんでミケなの?」


春香の問いに僕が口を挟む。


「多分、僕のお婆ちゃんが適当につけたんだと思うよ?」


「そうなんだぁ」


すると、ミケが不気味に笑い出した。


「ふふふふふふふ」


「ミケ?どうしたの?」


「確かにミケは、ばあちゃんが私につけた名ではある!だがそれは、私の異名から取ってつけてくれた仮の名なのだ!」


「そうだったの?」


と僕が頷くと、春香がさらに疑問を投げかけた。


「そのミケちゃんの異名ってなに?」


「聞いたらビビるぞ?きっと私の事を恐れ慄くだろう」


ゴクッっと2人で息をのみ、ミケの次の言葉を待つ。


「私が昔にそう呼ばれ、皆から恐れられていたその異名は!」


「その異名は・・・」と春香がミケを煽る。


「猫の大妖怪!都の毛玉だ!にゃにゃん!」


ミケは腰に手を当てながら自慢げにそう叫んだ。


「キャーー!可愛い!」


春香はミケに抱きつきながら喜んでいる。


「都の毛玉って・・・」と首を傾げている僕に、ミケは誇らしげに佇んでいる。


「どうだ?凄いだろ」


「うん!ミケちゃんぽくて凄く良いと思う」


「ふふふ、そうだろ!人間どもよ!恐れ慄けよ!」


ミケがニヤリと笑う。


「ははぁ~。ミケさま~。毛玉様~」


春香は両手を上げ下げしながら、ミケに頭を下げている。


「あっはっはっはっは」


そんな春香の仕草に、ミケもご満悦そうだ。


そんな2人のやり取りを聞きながら、僕は黙々と後片付けを続けた。




その日の夜。僕達は宿で夕食を頂くと、夜の温泉街を散策した。


「夜の温泉街も素敵ね!」


温泉に入り浴衣姿に着替えた春香は、いつもと違ってちょっと女性らしい。


ミケの案内で歴史的建造物を見学しながら、春香は地元の人々に積極的に話しかけていく。


見た目は女性らしくなっても中身は変わる訳もなく、春香の人懐っこさに僕は感心した。


「お嬢ちゃんは元気だねぇ」と、地元の人も言葉を返す。


「別府の温泉も本当に素晴らしいです!」


地元の人たちも春香の熱意に笑顔で応えてくれていた。


「温泉は人を繋げる力がある」


僕の肩に乗った猫の姿のミケが言う。


「本当にそう!今日も新しい発見ばかりだった!」


春香の前向きさに僕も影響され、自然と顔もにこやかになっていた。


今では地元のお土産屋さんとかにも、普通に話しかける事が出来るように変わっていた。


ミケと春香という強力な明るいキャラに染められたであろう今の自分の事は嫌いじゃなかった。


「・・・温泉って本当に不思議だよね。体だけじゃなく心も軽くしてくれる。うじうじ悩んでた事が悩みじゃなくなる気がしてくる」


いつも元気な春香にも、悩むことがあるんだと思いながら聞いていた。


「それも温泉の力だな。人も獣も妖怪も、それに神でさえ、温かい湯に浸かれば良い気分になるもんなんだ」


「政治家とかそういう偉い人達も、温泉に浸かりながら議論すれば平和になるのにね」


「ははは、そうかもな」


肩に乗って笑うミケと同じく、なんとなく春香の言う事も分かるような気がした。




宿に戻って部屋に入ると布団が3人分敷かれていた。


学生の頃の修学旅行みたいで、なんだかちょっとワクワクした気分になる。


人嫌いだった僕が、こんな気持ちになっている事に自分でも驚いた。


「今日は本当に楽しかった!2人共ありがとね」


「春香がいると旅がより楽しくなるよ。こちらこそ、ありがとう」


僕と春香の会話に、布団で丸くなりながら眠そうな目をしたミケが話し始める。


「なぁ春香、こいつも温泉の力で随分変わったんだぞ?」


「そうなの?」


「数週間前までは、出汁を取り切った煮干しのような顔をしておったのだぞ?」


「ははは、そうだったんだ」と笑いながらも、自分はそんな顔だったのかと思う。


「うむ!本当に酷い顔だった」


「今はとても、そんなふうには見えないね」


「こいつは自分の感情を表に出すのが苦手だからな。というか、自分の感情すら抑え込んでしまって、自分でも良くわかっておらん」


そのまで言うと、大きなあくびをしたミケが一息つくと、小声で話を続ける。


「春香も、もっと頑張らないとダメだぞ?」


「・・・うん」


「何の話?」と2人に聞くと、同じような顔を僕に向けた。


「・・・はぁ」


「・・・はぁ」


二人はもの凄い溜息をついて僕を睨んでいた。


ちょっと怖かったので、僕は話題を変える事にした。


「ねぇミケ?明日はどこに行くの?」


「私たちのお家だ」と、ミケが目を瞑ったまま答える。


「え?帰るの?もう終わり?まだまだ見たい温泉がいっぱいあるのに!」


残念そうにする春香にミケが答える。


「また今度、一緒に別の温泉に行けばいいさ」


「本当?約束だよ!」


僕たちは3人の友情を確認しながら、それぞれの布団に入った。


明日はどうやら実家へと帰るらしい。


この温泉旅行で僕は本当に多くのことを学んだ。


体の疲れも心の重荷も軽くなり、人との繋がりの大切さも知った。そして春香という新しい友人もできた。


「・・・おやすみなさい」


少し名残惜しそうに言う春香に、僕も小さな声で「おやすみ」を返事を返す。


春香はミケを抱きしめながら、布団の中で丸くなって眠っていた。


(第六話了)

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