表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

【一般】現代恋愛短編集 パート2

大切な人のピンチに駆け付けられる代わりに大切な人から意識されなくなる呪い

作者: マノイ

「危ない!」


 コンビニの駐車場に停めようとしていたプリ〇スがスピードを緩めず物凄い勢いで店に突っ込んで来た。その先の店内には雑誌を探している一人の女子高生。もしも車が壁を突き破って来たならば、彼女は間違いなく大怪我を負ってしまう。


「きゃあ!」


 横から誰かが彼女を突き飛ばし、彼女はギリギリで被害を受けずに助かった。しかしその代わりに突き飛ばした人物が怪我を負ってしまう。幸いだったのはプ〇ウスにそのまま轢かれるのではなく、破壊された様々な破片の衝突による怪我だけだったことだろうか。


「いったいなぁ……」


 痛みに顔を顰めて地面に横たわるのは、助けた女子高生と同じ学校の制服を着ている男子高校生だった。


「大丈夫ですか!?」

「救急車を呼ばなきゃ!」

「他に怪我人はいませんか!?」


 いきなりのことにコンビニ店内は騒然となるが、店員と客が連携して被害に対応し、一番の被害者である男子生徒は呼ばれた救急車によって病院に搬送された。


 そして助けられた女子高生はというと。


「あれ、私どうして助かったんだろう?」


 何故か助けられたことを覚えていないのであった。


ーーーーーーーー


「うお、守川(もりかわ)すげぇ傷じゃん。大丈夫か?」


 怪我をした男子高校生、守川。

 骨折のような大怪我はしなかったが、肌を露出している場所にガーゼが貼られまくっているためクラスメイトの男子が驚いて話しかけて来た。


「平気平気。いつものことだから」

「それがいつもっていつの時代の喧嘩番長だよ」

「あはは、今回のは(・・・・)喧嘩じゃないよ」


 まるで喧嘩で怪我だらけになったことがあるかのような言い方だ。


「そういや前に半グレ連中に絡まれてボコられたとかって言ってたな。確かに守川って良く怪我してるわ。運が悪すぎだろ」

「そうでもないよ。むしろ運が良い方じゃないかな」

「ドМってことか!?」

「そうそう。もっと殴られたい、って違うよ。この怪我のおかげで助けられた人がいるってだけのこと」

「人助けかぁ。だとしてもそれだけの怪我をして運が良いって思えるのはやっぱりドМでは?」

「あれ、そうなのかな?」


 突きつけられたドМ疑惑について考えながら、守川は視線をある人物の方に向けた。


優木(ゆうき)さん、昨日コンビニで事故に遭ったんだって? 大変だったね」

「そうなの。雑誌探してたらいきなり車が突っ込んで来て、すっごいびっくりしちゃった」

「怪我が無くて本当に良かったね」


 クラスメイトの優木。

 守川が助けた人物である。


 彼女は守川と同様に、昨日の事故についてクラスメイトと話をしていた。


「うん。びっくりして尻餅ついたら偶然避けちゃったみたいで」

「出たよ。優木(ゆうき)さんの豪運」

「豪運なのかな。そもそも事故に遭った時点で運が悪いと思うんだけど」

「確かにトラブルに巻き込まれまくってるよね。この前も半グレの連中に襲われそうになったんでしょ」

「あれは本当に怖かったよ~。必死に抵抗したらなんとか逃げられて良かったけど、逃げられなかったらと思うと今でも震えが来ちゃう」

「じゃあやっぱり優木(ゆうき)さんが言うように運が悪いのかな。でも逃げられたのは運が良い気もするし、どっちなんだろ?」

「あはは、どっちだろうね~」


 守川と優木。

 どちらの会話からも出て来た半グレという言葉。


 もちろんそれは偶然の出現というわけではない。


「(あの時は殺されそうになって人生で一番やばかった気がする)」


 襲われていた優木を守川が助けたのだ。


 だが優木は守川の名前を出そうともしない。


 今回の事故についても突き飛ばして助けてくれたのに、救急車で守川が運ばれたところを見ているはずなのに、守川への感謝の言葉を口にするどころか存在を無かったことにしているかの様子だ。


「(あの時も今回も優ちゃんは僕の存在に気付いていない。呪いは未だに健在なんだね)」


 呪い。


 それは守川がまだ小学生だった頃のこと。


「(優ちゃんを守るために祠の神様にお願いしたら、まさかこんなことになっちゃうなんて)」


 これまで何度もやっていたように、守川は当時のことを思い出す。


「(学校の帰り道でクラスの女子と大喧嘩して号泣していた優ちゃんに会った。優ちゃんのことが大好きな僕は、どうしてその場にいて優ちゃんを助けられなかったのかなって後悔した。あの時は別のクラスだったからその場になんて居られる訳も無かったのに、馬鹿だよね)」


 別のクラスだったとはいえ、お互いに知らない仲では無かった。

 つまり二人は幼馴染である。


「(これからどうすれば優ちゃんを守れるだろうか。そんなことを考えながら歩いていたら、壊れた小さな祠を見つけた。なんとなく可哀想に思えてそれを直していたら、神様の声が聞こえて来た。今だったら怖くて絶対に逃げるのに、子供だったからか驚いたけど話をしちゃったんだよね)」


 そしてそれが守川の人生を大きく左右する出来事になった。


「(祠を直そうとしてくれて感謝する。お礼に願いを一つ叶えてやる)」


 その神様の言葉を受けて、守川は悩みを打ち明けた。


 どうすれば幼馴染のピンチに駆け付けて守れるだろうかと。


「(望みを叶えることは可能だけれど、代償が必要だった。僕は優ちゃんに全く意識されなくなってしまった)」


 それゆえ守川は彼女の危機に駆け付けられるようになり、先日はプリウ〇アタックから体を張って彼女を守ったけれど、守川の存在を彼女は意識できなかった。


「(この代償は好感度を上げるために助けたいんじゃなくて、純粋に助けたいのかどうかを試されてるのかと思ってた。優ちゃんとお話が出来なくなるのは寂しかったけれど、守れるようになったのは本当に良かったと思ってる。でもこれがずっと続いて、しかも傷だらけになるようなピンチが何度もあると呪いじゃないかって気がして来たんだよね)」


 厳格な神様が試練を与えているのではなく、邪悪な神様が優木を必死に守ろうとしている守川の姿を見て嗤っているのではないか。そんな疑いを抱いてしまうくらいには守川のこれまでの人生は苦難の連続だった。


「(まさか神様がわざと優ちゃんにピンチを与えてるなんてことはないよね。だとしたら僕は優ちゃんに謝らなきゃならないけど、話も出来ないから謝ることも出来ないんだよね……)」


 ゆえに神様のせいではなくて優木が単なるトラブル体質であることを願う守川であった。


「(僕に出来るのは優ちゃんを守ることだけ。ずるいよね。あんなに優しい女の子に育ったらもっと好きになってもっと守りたくなっちゃうもん)」


 優木を守ろうと彼女のことだけを見続けた結果、彼女の人の良さを知った。誰にでも優しく思いやりがあり、困っている人に手を差し伸べる。見た目も十分に美少女と呼べる雰囲気であり、男子からの人気も高く何度か告白されている。

 幼い恋心がグレードアップして本物の恋心へと昇華した。だがその気持ちを伝えることは絶対に出来ない。


「おい、いきなり黙り込んでどうしたんだ?」

「……あ、ごめんごめん。今日の体育どうしようか考えててさ」


 クラスメイトの男子と話をしている最中だったことを思い出した守川は適当な理由をでっちあげて話に戻った。


「(ずっと優ちゃんの方を見てたのに、やっぱり気にされないんだよね)」


 幼馴染のことが気になるのか、好きなのか、と揶揄われてもおかしくないはずが、目の前の男子は全く気にするそぶりが無い。


 周囲の人間も守川と優木の接触に無関心かつ気付かないようになっているのだ。


 これも呪いの効果なのだろう。


「ホームルーム行く前にトイレ行ってくるね」

「おう。手助けは必要か?」

「たとえ骨折しても自分でやるよ!」

「だな。俺も男に手伝ってもらうとか嫌だわ」


 笑い合いながら教室を後にする守川。


 ゆえに彼はその後の優木の会話を知らない。


「でも優木さんって運が良かったとしてもいつも自力でピンチ切り抜けてすごいね」

「あはは。個人的には助けて欲しいって思ってるんだけどね」

「イケメンの王子様に?」

「そんなことされたら惚れちゃうよ」

「そういうの好きなタイプなんだ」

「うん、大好き」


 彼女は知らない。

 イケメンかどうかは分からないけれど王子様に助けられていることを。


「ただ、そのことを考えると少し胸がもやもやするんだよね」

「もやもや?」

「うん。私って本当に運が良いだけで助かってるのかなって」

「どういうこと?」

「どういうことなんだろうね」

「何それ~」


 どうやら彼女は数々のピンチを乗り越えたことについて、不自然さを感じているようだ。

 だがその原因には辿り着けていない。


「それに何か大事なことを忘れているような気がして」

「あ、それ前にも言ってたね。告られて断った時」

「うん、気になる人がいる気がするのに、何故かそれを思い出せないの」

「絶対に気のせいだと思うんだけどな」

「かもね~」


 呪いによる不自然な記憶の改ざん。

 それが何度も続いたことにより彼女の心の中に多くのもやもやが積み重なっていた。


「(小さい頃、好きな人がいた気がするんだけど、どうして覚えていないのかな?)」


ーーーーーーーー


 その日、優木は学校帰りに駅近くの繁華街に寄っていた。


 本当は友達と遊ぶ予定だったのだが、友達が急に部活が入っていけなくなったとのことで、一人でウィンドウショッピングをしながらブラブラと散策する。半グレに絡まれた時のことがあるので、人気(ひとけ)が無いところには移動しない。


 安全のためにそうしていた。

 しかし人が多いからといって安全とは限らない。


「きゃああああ!」

「逃げろ!」

「通り魔だ!」

「え!?」


 人でごったがえす夕方の駅前。

 なんとそこで若い男が奇声をあげて牛刀を振り回していた。


 しかもその男は手当たり次第に通行人を攻撃しているように見えるのに、何故か優木の方へと向かって来た。


「嫌!来ないで!」


 これまで数々のピンチに陥りピンチ慣れしていた優木だが、流石に死を直接イメージさせる牛刀には恐怖を抱いてしまい、逃げようにも足が竦んで動けない。


 顔面蒼白になりながら、死を待つことしか出来ない。


 もちろんこんな場面で呪いが発動しないはずがない。

 守川もまた偶然この近くに立ち寄っており、彼女のピンチを目撃する。


「止めろ!」


 慌てて男に飛び掛かり優木への攻撃をどうにか防ぐ。


「この!暴れるな!こいつ!」


 不意をつけたことで男を地面に倒すことが出来たのでそのまま抑え込もうとするが、牛刀を持った手を暴れさせて必死に抵抗してくる。しかし周囲の成人男性が守川をフォローすべく駆け付けると、通り魔は牛刀を手放されて完全に身動きを封じられた。


「うう、傷が治ったばかりなのにまただよ……」


 牛刀が多くの場所に掠り、特に牛刀に近かった左腕が真っ赤になっていて痛みも酷い。


「あれ、ちょっとこれ不味いかも。一か所だけまずい血管を傷つけちゃったかも」


 血が止まらない。

 これまでとは違い本物の命の危機に慌てる守川。


 一方で助けられた優木はというと。


「(赤……)」


 相変わらず守川の存在は意識できない。

 しかし血の赤さだけは知覚していた。


「に、逃げないと……」


 男に襲われ、死の恐怖からまだ抜け出せない彼女は踵を返してフラフラとその場を離れようとする。

 彼女に声をかける人物がいないのは、守川から確実に距離を取らせようとする呪いの効果だろうか。


 だが、彼女は足を止めた。


「…………くぅっ」


 右手で胸を強く抑え、何かを必死に耐えようとしている。


「…………ダメ」


 それは守川が感じているように、彼女が本当に心優しい人物であるからこその反応だった。


「…………赤…………放っておけない」


 目の前に赤色が広がっているということは、誰かが血まみれになっているということ。

 その人物を無視して逃げることを、彼女の強い善意が許さなかった。


「…………頭が…………うう」


 しかし強力な呪いが彼女を縛る。

 忘れて逃げろと思わせる。


「(これまでもこの気持ちは何度かあった。でもすぐに忘れちゃう。忘れたくないのに忘れちゃう)」


 絶対に忘れてはならないと思っていても、必ず忘れさせられる。

 そしてもやもやが積み重なる。


「もう忘れたくない!」


 優木は振り返り、『赤』の元へと移動する。


「止血しないと!」


 そしてその赤へと辿り着くと、それが左腕を深く斬られていることだと理解できた。


 彼女は鞄の中からタオルを取り出し、その人物の腕の止血を始めた。


「よし、これでひとまずは大丈夫だと思います。救急車が来るまで安静に……え!?」


 彼女はこの時、初めてその人物の顔を見た。


 見えた。


「僕が分かるの?」


 守川は怪我していたことを忘れているかのように、唖然とした表情で優木を見ていた。


「守川……くん……」


 そして優木もまた同じくらいに唖然とした表情で守川を見る。


「どうして……どうして今まで忘れて……」


 その瞬間、優木の脳内に膨大な記憶が蘇った。

 これまで呪いによって封印されていた大切な記憶が。


「(守川君……私の好きな男の子……)」


 幼い頃、守川が彼女のことを好きだったように、彼女もまた守川のことを好いていた。


 まずはその気持ちが蘇る。


 そして次にこれまでのピンチの記憶が蘇る。


 誘拐されそうになったこと。

 ロリコン教師に生徒指導室で襲われそうになったこと。

 自販機に仕込まれた毒入りジュースを飲みそうになったこと。

 ひったくりに鞄を盗まれそうになったこと。

 駅で盗撮被害に遭いそうになったこと。

 ハイキング中に迷いそうになったこと。

 海で溺れそうになったこと。

 一回だけデートして欲しいと頼まれた男子に襲われそうになったこと。

 半グレに襲わそうになったこと。

 〇リウスアタックで轢かれそうになったこと。


 その他、数々のピンチを全て守川が助けてくれていた。

 それも命がけで傷だらけになりながら助けてくれた。


「~~~~!」


 ぼっと優木の顔が一瞬で真っ赤になった。

 守川の左腕よりも赤いかもしれない。


「守川君!」


 感情の爆発に耐えきれなくなった優木は、思いっきり守川に抱き着いた。

 もちろん傷ついている左腕に触れないようにだが。


「ごめんなさい!あんなに助けて貰っていたのに私!私!」


 その言葉に守川は呪いが解けたことを理解した。

 痛まない右腕で優しく彼女の背をポンポンしてあげる。


「気にしないで。僕達は呪いにかけられてたんだ。むしろ謝るのは僕の方だよ」

「のろ……い?」

「あ~その話は時間かかりそうだから、後にしよっか」


 祠の神様に呪いをかけられていただなんて、普通は信じられない。

 しかし信じられないような体験を実際にしたので信じてはくれるはずだ。


 問題は色々なことが起こりすぎている今、その話をしてもパニックにさせるだけだということ。

 ゆえに守川は呪いの話は一旦据え置きにした。


「なにはともあれ、優ちゃんが無事でよかったよ」

「で、でも守川君が酷い怪我を……私を守るために……今までもずっと!」

「僕が好きでやったことだから気にしないで、なんて流石に言えないか」


 常人であれば申し訳なくて気に病んでしまうだろう。

 ずっと命をかけて守り続けたというのはそういうことだ。


「どうしようどうしようどうしよう」

「何が?」

「申し訳ないのに、どうやって報いたら良いのか分からないのに、これまで無視してたことをどうやって謝れば良いのか分からないのに」


 守川に対する膨大な負い目が彼女の心を病ませようとしている。

 しかしそれと同時に別の巨大な想いに押しつぶされそうになってしまっていた。




「守川君が好きすぎてどうにかなっちゃいそうなの!」




 イケメン王子様に助けてもらうことを夢見る女子が、大好きな人から何度も助けて貰えていた。

 それは彼女の恋心を爆発させるのに十分な出来事だった。


「優ちゃんありがとう。僕も優ちゃんが好きだよ」

「ほん……と?」

「うん。でも今は色々あって大変だからそのことも後でまた話そうよ」

「で、でも、私重いよ。多分相当重い女になっちゃうよ」

「それを言ったら僕だって、こんなに命がけで守ろうとするだなんて相当重いでしょ。だからお似合いだね」

「あ……はい……」


 胸の中でしおらしくなる優木を見て、改めて守川は呪いが解けたことを実感した。

 しかしそのことを考える暇など無い。


「あの、すみません。そちらの方の怪我が酷いようですので、救急車が来るまであちらでお休みになってください」

「あ、そうですね」

「それとそちらの女性の方の被害状況の確認とお話を伺いたいのですが……」


 警察が彼らのイチャつきを止めたのだ。

 通り魔が抑えられて怪我をしている人が多数という状況でやるべきことではないだろう。


 本人達は呪いの反動によるものだから仕方ないとはいえ、周囲の人はそのことを知らないのだから野暮だと言うべきではないだろう。


 この日、呪いは解け、二人は数年ぶりに再会(・・)を果たしたのであった。


ーーーーーーーー


「ここにその祠があったの?」

「うん、今はもう跡形もなくなってるけどね」


 守川と優木の二人は祠があった場所へとやってきた。

 もちろん過去の話はしっかりと伝えてある。


「それってやっぱり神様だったのかな?」

「何度も考えたけど、結局分からなかったよ」


 試練を与えたつもりだったのか、あるいは人間が苦しんでいる様子を見て楽しみたかったのか。

 真実は永遠に分からないだろう。


「どうして呪いが解けたのかな」

「優ちゃんの優しい気持ちが呪いに勝ったんだよ」

「も、もう、そんな恥ずかしいこと言わないで」

「(ずっと腕をぎゅっと抱き締めて離さないのは恥ずかしくないのかな)」


 あの日以降、二人の距離は常にゼロ距離である。

 学校では何があったのか囃し立てられ、特に優木の方は家に帰って離れるのも嫌がるほどの溺愛っぷり。

 今日もここに来るまで歩き辛い密着状態で、宣言通り重い愛情を守川は一身に受けていた。


「考えても分からないし、ずっと呪いのことばかり考えて生きて来たから、もう僕はお腹いっぱい」

「それじゃあこれからは何を考えて生きるの?」

「もちろん優ちゃんのことだよ」

「も、もう、そんな恥ずかしいこと言わないで」

「言わせたくせに」

「バレたか」


 ペロっと下を出す子供っぽい仕草は彼女を遠くから眺めるだけでは見えなかった素の姿。

 決してこのために頑張ったわけではないが、頑張って良かったと思ってしまった守川であった。


「たた、僕としては不安があるんだよね」

「不安?」

「もし優ちゃんがトラブル巻き込まれ体質だったとしたら、これからは呪いの力で駆けつけられなくなるから」

「なぁんだ。そんなこと」

「優ちゃんは不安じゃないの?」

「全然。だってずっと一緒にいるから」


 四六時中一緒にいれば、ピンチに駆けつける必要などない。

 駆け付けなくとも傍にいるのだから。


「あ、でももう守川君に守られるつもりはないからね」

「というと?」

「お姫様役はドキドキするけど、守川君が傷つくのはもう絶対に見たくない。だからこれからは私が守る」

「おおー、頼もしい。姫騎士だ」


 もちろんだからといって守川が優木のことを守らなくなるなんて話では無い。

 二人は共に協力して守り合いながら生きて行くことになるのだろう。


 人はそれを何と呼ぶのか。


「そんな大層なものじゃないよ。私はただ守川君と一緒に幸せになりたいだけ」

「うん。そうだね。一生幸せでいようね」

「うん!」


 きっと『夫婦』と呼ぶに違いない。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
手軽に幸せ成分を摂取できるマノイさん短編は最高!
同じ祠の神様かなあw 人間じゃないものの考えはわかりませんね。 ならば結局良いように考えるか、良いように持っていくか、人の側の受け取り方を工夫しないといけないんでしょうかね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ