2 偏屈婚約者は塩対応
「ジョスラン女史」
アンマリンは呼ぶ声に振り向いた。
「これはサイオン筆頭補佐官。お疲れ様でございます」
「使節団を迎えるにあたって外務省も忙しいだろうね」
「はい。でも私より先輩方の方が多忙で申し訳ない限りです」
「いやいや、君の噂はこちらまで届いているよ。いい人材が入ったとね」
「まだまだ先輩方には足元にも及びません」
穏やかに笑いながら話しかけて来たのは宰相補佐室筆頭補佐官のサイオンだ。つまりローレンスの上司でもある。三十代後半というがもっと若く見える。黒髪を後ろに結んでスラリと背の高い綺麗な顔をしているが、この笑顔の下にとんでもない顔を隠している、とローレンスは言っていた。が、この役職にでもなればそうでないとやっていけないのかもしれない。
けれどけして悪い人ではないし、国王や宰相、部下からの信頼も厚い。いずれは宰相となるのだろう。
「セレイ国からの使節団の入国にあたってローレンスに動いてもらっているから、なかなか時間をやってあげれなくてすまないね。結婚準備に支障が出てしまっているようだから申し訳ない」
「そんな、とんでもないです。使節団のことはこちらも忙しいのでお互い様です」
「そうかい? ローレンスからは睨まれてばかりだよ」
「……そ、それは本当に申し訳ありません」
くすくす笑っているのを見ると気にしてないようだが、アンマリンからすれば心でローレンスを罵倒しつつ、低頭で謝罪することしかできない。
「その件が終わればしばらくは大きな国事はないから、ゆっくりと時間を取らせよう」
「ありがとうございます」
にこやかに去っていく姿が角へ消えるとアンマリンはホッと息をつく。
セレイ国の使節団といってもその中核を担っているのは第二王子。つまりは王族を迎えることになるため、アンマリンが所属している外務省でもその準備は念入りになる。
セレイ国はローレンスの留学先の一つでもあるため、また第二王子とも学友であるというからなにかと任されていると聞いている。守秘義務があるので詳細まではアンマリンも知らされていないが、そのせいで城への泊まり込みが月の半分にもなっている。
アンマリンも外務省に入省してからの初めての大きな行事となるので残業はもちろん休日を返上したりとバタバタしている。
先日の休日がまさにお互いの休みが合った貴重な日だった。
それから一ヶ月後、使節団はやってきた。その間二人は忙殺されており、今夜の歓迎パーティが久方の一緒に過ごせる時間となった。だが、ローレンスはセレイ国の第二王子の世話役となっているため、パートナーであるアンマリンも同時に王子のそばに控える形となる。
第二王子は金色の緩やかな髪を靡かせた美しい人だった。一緒に使節団に参加している従妹である公爵令嬢をエスコートしており、その彼女も金の髪が映える美しい女性だった。
紹介も終わり、頃合いを見計らってローレンスはアンマリンを伴って二人に近づいた。
「おお、ローレンス。やっとゆっくりお前と話せるな」
「ご冗談を。この夜会の間は殿下に挨拶を希望する者が大勢いますので捌く時間だけ考えてほしいものです」
「まったく相変わらずだな。それで……」
チラッとアンマリンの方を見る。
「ご紹介します。私の婚約者であるアンマリン・ジョスラン嬢です」
アンマリンは黙ってカーテシーを執った。
「ヴェッセル・セレイだ。お初にお目にかかる。よろしく」
「アンマリン・ジョスランと申します。お会いできて光栄に存じます」
「彼女はアネージアン。私の従妹だ」
そう言って、エスコートしている従妹を紹介してきた。
「アネージアン・ロベスキーと申します。ローレンスが我が国に来たときにはいろいろお世話になりましたの」
「そうなんですね。私はアンマリン・ジョスランです。よろしくお願いいたします」
にこやかに挨拶を受けながらもアネージアンはどこかアンマリンを探るような目つきをしていた。それに気付かないふりをして笑い返す。
「私たちは殿下の側におりますので、何かあればお声掛けください」
ローレンスはそう言うと、アンマリンを伴ってその後方に下がる。しばらくするとそれを待っていたかのようにヴェッセルとアネージアンの前に多くの人が集まってきた。時折ローレンスが間に立ち、補足が必要なところは助言していく。
ようやく人だかりも減ってきたタイミングでローレンスが休憩を告げて二人を連れて控え室へと案内した。
「お疲れ様でした。ひとまずお休みください」
「ああ」
ヴェッセルはどかりとソファへと座るとアネージアンもその隣へ腰を下ろした。給仕がワゴンを押して入ってくると、アンマリンがそれを引き継いで近くまで持ってきた。
「お飲み物は如何されますか?」
「ワインを。アネージアン、君もそれでいいかい?」
「ええ。いただくわ」
ヴェッセルの侍従が毒見をした後、彼は一口飲んで「美味い」と笑うとローレンスたちにも座るように促した。
「さて。少しの間はゆっくりとできるな」
「あまり時間は取れませんよ。まだまだ殿下たちに挨拶したい連中が山ほどいるんですからね」
「やれやれ」
ローレンスの忖度ない言葉にヴェッセルはうんざり顔だ。
「ローレンスは相変わらずね。これでは婚約者様に逃げられますわよ。ねえ?」
アネージアンがアンマリンを見て笑う。
「どうでしょうか。ローレンス様は昔からこうですから」
「今更私の性格など彼女は気にしませんよ」
アンマリンの返しにローレンスも続ける。ヴェッセルは面白気に二人を眺めると長い足を組んでグラスを揺らした。
「ところで、二人の結婚はまだなのかい?」
「今回の使節団がお帰りになったら時間も取れるでしょう」
いくら知ってる仲とはいえ、他国の王族に皮肉たっぷりに言うローレンスにアンマリンは肝が冷えっぱなしだ。どうやって足を踏んづけてやろうかと笑みを浮かべながら考える。
「つまり結婚する気はあると?」
意外そうにヴェッセルが聞いてきた。これにはアンマリンもピシリと固まった。もちろん表面上はにこやかではあるが。その横でローレンスが少し低い声をあげた。
「どういう意味ですか?」
「ああ、いや、気を悪くしないでくれ。てっきり帰国後はすぐにでも結婚すると思ってたんでね。それなのにそういう報告もないし、何よりお前はその性格だから愛想尽かされたんじゃないかと心配してたんだよ」
「大きなお世話という言葉を知らないとは思いませんでした。どうやら殿下への認識を変更する必要があるようです」
「……だから悪かった。認識は変えないでくれると助かる。ジョスラン嬢もすまないね」
ヴェッセルは軽く頭を下げた。
「いいえ」
笑って答えたが、先ほどの言葉はいただけない。あの態度はまるで自分たちが形だけの婚約者とでも思っていたのだろうか。
「ですが、長年の婚約者もいていつ結婚してもいいはずなのに何も動かないのであればそう取られても仕方ないのでは?」
グラスをテーブルに置いた後に扇を広げて口元へやったアネージアンはそう言って意味深に二人を見る。
一連の流れを見るに、これはつまり目の前の二人は自分たちの結婚に否定的であるということだろうか。
「アネージアン」
「お従兄様もはっきり仰ったら? ねえ、ローレンス。私たちは貴方を心配してるのよ。それ以上に貴方のことを買ってるのにあっさり帰国するなんて。私たちをがっかりさせないで。……ねえ、婚約者さん。貴女もそう思わないかしら?」
「仰る意味がわかりません」
「我がセレイ国はローレンスを高待遇で迎えたいと思っておりますの。彼には私たちと一緒に帰ってもらえると嬉しいのだけれど、貴女もそう思いませんこと?」
「仰る意味がわかりません」
アネージアンの発言にアンマリンは同じ言葉を返す。
「私はね、ローレンスはセレイ国でこそ、その実力を発揮できると思っていますの。だって彼には最高の環境を用意してあげられますもの。役職も爵位も……、そして妻も」
美しい顔を自信気に綻ばせながらもその瞳にはアンマリンを見下すものがあった。その「妻」が誰を指しているのか隠そうともしていない。
横にいるヴェッセルはバツの悪そうな顔をしながらも黙って成り行きを見ている。
なるほど、とアンマリンは納得する。
初対面で無躾な物言いをしているのは性格的なものも含まれているかもしれないが、他国の王族や公爵令嬢に対して、いくら思うことがあっても不敬な態度ができないと思っているようだ。確かにその通りではあるがアンマリンは顔色を変えることなく、しっかりとアネージアンを見据えていた。意外な態度にヴェッセルもアネージアンもわずかに驚いている。
まさかそんなことで怯えたり泣くとでも思ったのであろうか。少なくともアンマリンはそんな柔な考え方は持っていない。
「ロベスキー様。それを言うならば彼に期待してるのはこの国だって同じ。貴重な人材をやすやすと流出させるようなことはしないでしょう。それに先ほど仰った最高の環境というものなら我が国でも用意できますわ。……彼が望めば、ですが」
チラリとローレンスに目をやれば、なんとも嫌そうに眉を寄せていた。
「どれもいらないですね」
面白くなさそうにワインを飲んで答えるローレンスに頷くとアンマリンはにこやかにアネージアンを見た。
「残念ですが、どうやら貴女が提示した最高の環境というものに彼は興味がないようです」
キッパリと言い切るアンマリンに二人は押し黙った。
「……ローレンス様。今回の使節団は農業改革のための技術協力と未来を見据えた教育過程において学力向上に向けた視察が主旨だったはず」
「そうですね」
「ついでにあなたの──、つまりは人材の引き抜き目的もあるようですが」
「これは微妙な扱いになりますね。聞かなかったことにして私たちの胸にだけ秘めておくべきか、または我が国の人材の引き抜きという国力低下を狙ったものであったと公に報告すべきか」
「……幸いサヴォーイン側の人間は私たちだけですし」
そう言いながら二人してヴェッセルの顔を見る。
「……申し訳ない。先ほどの言葉は忘れてほしい」
冷たい汗に逆らわずヴェッセルが肩を落として呟いた。
「次はありません」
「ああ、悪かった。ただな、単に友人としても私の側近としてもお前のような者が近くにいてくれたらいいと思っているのは本当だ」
「もちろん、友人としてであればいつでもどうぞ。ただそれ以外は帰国する際に断ったはずです」
「ああ、そうだ。そうなんだがな……」
はあぁとヴェッセルは大きなため息を吐く。そしてアネージアンを見やった。
「アネージアン。諦めろ」
「………………」
ハッと気を取り直したアネージアンはパチンと扇を閉じてアンマリンを睨んできた。
「貴女、不敬ですわよ! 仮にも王族に向かって──」
「王族という立場でそれを仰ったのであればそれはセレイ国としての発言と同じです。ならば、私はローレンス様の婚約者として以上に国の外交を担う者としてその言葉の重さを受け止めます」
「だからって」
「アネージアン、もうよせ」
「ですがっ」
「アネージアン」
ヴェッセルが首を振る。彼女は悔しそうに唇を噛んで、なお一層アンマリンへ鋭い目を向けた。だが、それをも背を伸ばして受け止めている。
「ローレンス! ねえ、ローレンス! 私と一緒に来てくれるでしょう? 私の個人的なお願いであれば国は関係ないわ。私の公爵家の婿として貴方が必要なの!」
「それもお断りしました」
「貴方の侯爵家には弟がいるじゃない。それがだめなら私たちの子どもを後継にすればいいわ!」
アンマリンは遠い目になった。これは先日の茶番を思い出させる。
結局は彼女がローレンスを欲してるだけで、この第二王子は従妹でもある彼女の願いを叶えてやろうと一役買ったということだろう。あわよくば側近云々も視野に入れていたのは本当だろうが、これでは真面目に使節団に参加してきた者に対して失礼だ。まあ、そこは置いておくとして。
それにしても、だ。
「ローレンス様」
アンマリンはローレンスへと顔を向けた。その目の冷たさに無表情な彼の片眉がわずかに上がる。
「ロベスキー様の仰ってることの前提として、貴方はこの方と何かしらの関係があったのかしら?」
「ない」
「ないのにロベスキー様はこんなことを仰る?」
「思い込みが激しいのだろう」
「思い込むようなことを言ったことは?」
「ない」
淡々と始まった二人の会話に部屋の空気が徐々に下がっていく。
「おかしいですね。そうじゃないと説明つきません。だって貴方に断られたことが意外みたいですし」
「自分は愛されて当たり前などと思っている花畑層はどこにでも一定数いるものだ」
その花畑層と揶揄されたのが自分だと思うくらいにはアネージアンも頭は回る。カッとなって立ち上がろうとする肩をヴェッセルが押さえた。
セレイ国でのアネージアンは社交界では知らぬものはいない。公爵家という筆頭貴族の令嬢として教養もあったはずだ。性格だって多少傲慢さはあるが身分を笠に率先して誰かを貶めたりはなかったはず。ただ蝶よ花よと育てられ、傅かれることが当たり前で挫折もなくある程度のことは思い通りになってきた。
ローレンスのこともその才能を聞きつけて当時学友として親しくしていたヴェッセルに紹介して欲しいと言ってきた。そこまでは良かった。ただ、ローレンスは誰に対しても態度を変えない。初めこそ憤慨していたが自分に対して動じることなく接する彼にしだいに好意を寄せるようになった。ヴェッセルはそれを間近に見てきた。
気持ちを自覚するとアネージアンはどうにかローレンスを振り向かせようとしていたが、母国に婚約者がいるとして一貫して頷くことはなかった。公爵家としても娘の想いを汲み取って動いていたようだが、ローレンスの実家であるテルガ侯爵家からは丁寧な断りがあったという。他国とはいえ、その婚約者は子爵家という格下の家格であるのも相俟ってアネージアンはどうしても納得することができなかった。
ローレンスが帰国して一年が経つが、今回の使節団の話に飛びついたのは会いたい気持ちと、もう一度彼を口説き落としたい気持ちが重なったからだろう。
ヴェッセルは意外に一途なアネージアンのために一肌脱ぐつもりだった。自分が動くということはセレイ国の王族が後ろにいることを匂わせるものだ。子爵家でしかない婚約者は自ずと身を引かざるを得ない。こういうことに権力をちらつかせることは不本意で、相手の令嬢には申し訳ないとは思うがこれも従妹のためだ。後は一番厄介なローレンス本人が首を縦に振ることに力を入れればいい。
──そう思っていた。だが、蓋を開ければどうだ。
ブラウンの髪をきっちりと結い、薄化粧を施した顔は整っている。お互いの色を掛け合わせた装いは派手すぎず、しかしエレガントを匂わせるように着こなしていた。
それでも普通の令嬢だと思っていたその婚約者は、物怖じするどころか凛と背筋を伸ばしこちらを見据えている。まるで国同士の交渉事をしている感じだ。
いくらアネージアンが社交界に君臨しているとはいえ、政治的なものに関するやり取りには疎い。いや、その前にまったく政治的なことなど話していたわけではないのだが、そう思わせる空気が漂っている。そんな中、言葉尻を捉えられてしまったのは痛い。
そもそもあのローレンスの婚約者なのだ。あのローレンスが婚約したほどの相手なのだ。なぜそのことに気付かなかった。たかだか子爵家の令嬢だという思い込みが招いた状況に今になってヴェッセルは頭を抱えたくなった。
「あー、ジョスラン嬢。君は外交を担っていると言ってたが……」
「はい。私は外務省にて事務官補佐をしております」
「…………そうか」
年若く、しかも女性である彼女がそのような要職にいるということはかなり優秀といえる。
「あら、お仕事をなさってるの? 婚約者がいるのに?」
「……アネージアン、よすんだ」
「だってお従兄様。家を仕切ってこその妻ですわ。それを蔑ろにして仕事に出るなどローレンスを馬鹿にしてますわ。私であれば夫となったローレンスを支え家をしっかりと守っていけます」
アネージアンは自信のこもった声ではっきりと言い切る。セレイ国の女性の多くは家を切り盛りする女主人になるのが名誉職とも言える。もちろん、身分が下にいくにつれて女性の就業率も高くなるが、貴族の令嬢にとって働くということは家も社交も切り捨ててしまう行為であり、それほどまでに金銭的に困窮していると思われかねないのだ。
「アネージアン、この国と我が国とでは文化や考え方が違う」
「確かにそうでしょうが、この国だって貴族の妻の多くは同じではなくて?」
扇をそっとアンマリンへ向けて同意を求める。
「──ですって」
それをまたアンマリンがローレンスへと返す。
ローレンスは小さくため息を漏らすとゆっくりと立ち上がった。そんな彼をアネージアンは嬉しそうに立ち上がってその腕に顔を擦り寄せてきた。
「……何をしているのですか?」
「ローレンス。何度でも言うわ。貴方が好きなの。私の夫になって欲しいの」
「答えになってませんね。どうして馴れ馴れしく近づいてきたのかを聞いているのですが」
「そんなつれないことを言わないで。あんなに一緒に時間を過ごしたのを忘れたの?」
「二人で過ごした時間は皆無ですよ。手を離してください」
「いやよ。貴方に会うためにわざわざこの国まで来たのに」
「暇なんですね。私は頭の隅にさえ貴女の存在はありません」
「もう、相変わらずね」
アネージアンは楽しそうにクスクス笑う。ローレンスは塩対応こそしているが、おそらくこのような感じでセレイ国でもいたのだろうか。否定はしつつも拒否はしていない。
アンマリンの心はスッと冷めていく。立ち上がってそんな二人に向き合った。
「ローレンス様。そのように彼女の好きにさせている時点で話にならないですね。私は喜んで身を引きますわ」
そう言うとアンマリンはヴェッセルに軽く会釈をしてその場に背を向けた。
その直後──
「──きゃっ」
小さい悲鳴に振り向くと、座っているヴェッセルの上にアネージアンがのしかかっていた。どうやら彼の上にそのまま押し返したようだ。
ローレンスは無表情で絡まれていた腕をパンパンと汚れを落としているかのごとく弾いている。
「………………」
一通り何かの儀式のように払い終えると、座っている二人にわずかな苛立ちの籠った目を向けた。
「もう時間です。行きましょう」
何事もなかったようにスタスタとアンマリンの元へ行くとその手をとって腕に乗せた。そのまま部屋を出て入り口で待機しているとくぐもった声が聞こえてくる。
「ローレンスったらひどいわ……」
「……もうやめるんだ」
「嫌よっ!」
アンマリンは未だ冷たい眼差しでローレンスを見やった。
「別に私に気を遣わなくてもいいのに。あの国にいた時のように好きにさせてあげなさいよ。ついでに彼女との結婚も前向きに考えてあげたら?」
「君は誤解しています。私は彼女に触れたことはないし触れさせもしなかった。もちろん彼女以外の女性すべてにもです」
「さっきのを見た後じゃ説得力ないわ」
「あれでも使節団の一員ですからね。最低限一応紳士的な対応をしてやったというのに。馴れ馴れしいのは元からですが、君にこの鳥肌が見せられないのが残念です」
「どうだか」
「嫉妬ですか?」
「は?」
表情はそのままにニヤッと目元が笑っている。それに気付くのは家族かアンマリンくらいだろうが。アンマリンは今度こそ靴底でローレンスを遠慮なく踏み付けた。