表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/70

1・北の村(8 カイの話)

 カイは、どんどん回復した。

 カイを取り巻いているのは、まったく未知の世界だった。ここがどこなのか、カイには手がかりさえなかった。

 彼がいるのは、ごく普通の四人家族の住む家らしかった。公的な施設でないことは確かなのに、部屋も、食事も、衣類まで提供してくれるのだった。よほど社会保障制度がゆきとどいているのだろうか、とも思ったけれど、建物の造りは素朴なもので、暗くなってから灯すあかりは、油に芯材を立てて周囲に半透明の膜を張ったカバーをつけたもので、その芯材に火を、本当に燃えている危険な火をつけて周囲を照らすのだった。

 時々、背の高い痩せた老婆がやってきて、儀式めいた仕草でカイの体を診た。


 ライフモニターはない。コンピューターもない。宇宙船もないらしい。移送装置は?


 移送装置もないらしい。けれど、それならどうして僕はここにいる?


 カイは、自分の目で何もかも確かめるまでは、絶望したりすまいと決めていた。


「あなたの言っているその……装置? それ、風生かざおだったら何か知らないかしら」

 はじめて家族の食卓にカイが加わった日、里砂が言った。

「カザオ?」


 カイが聞き返すと、潮美が答えた。

わたびとの商人だよ。このあたりに来る渡り人の中では一番遠くを旅して来るから、わたしたちの知らないことを見聞きしてるなら、そりゃ風生だろうねえ」

「その人に、いつ会えますか?」

「そうね。あと十日ってとこかね。冬ごもりの祭りの前に来て、ここで冬越ししていくんだよ」

 カイは、思わず首をふった。

「十日って、僕はそんなにいられない……」


「則の司様も何かご存知かもしれない。体がよくなったのなら、一度会いに来るように、とのことだったよ」

「よそ者がひと冬村にいるんだ。どんな人間か知っておきたいにちがいないさ」

 潮美の言葉に続けて、仁矢が無遠慮に言った。


 十日どころか、ひと冬だって?


「どこに帰りたいの? あなたがどこから来たのか、わたしたちにはわからない」

 言葉を失っていたカイに、里砂が尋ねた。カイは、卓の上で組んだ両手をぎゅっと握りあわせた。


「……僕には、ここがどこなのかわからない」

 カイは、顔を上げて一同を見まわした。

「僕は、この世界の人間じゃない。よその星から来たんだ」


「星」という言葉には、里砂だけでなく両親や草矢にとっても、夜空で光っているもの以上の意味はなかった。あの、きらきら光る点から来た? それは何かの謎かけなのか?

 そして「この世界」って? ここは北の村。街道を行けば、また別の村がある。村のことを「世界」なんて言わないだろう。それとも……?


 カイは、自分の手に視線を戻した。

「僕は、もといた世界に帰りたいんだ。僕は、惑星フラムの第三衛星で生まれた……」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ