3・たそがれ浜(6 砕け散る)
「どうやって開けやがった!」
里砂と草矢が振り向くと、あの男が立っていた。
外へ出るのにいい頃合いをうかがっていたとき、音を聞いたのだ。岩壁が動く音だった。
男は、きらめく移送装置に気づいて、小さな子どものように目を見開いた。
装置がにぶいうなりをあげはじめるのと同時だった。
「な、なんだ、これ!」
男がわめくように言ったが、里砂も草矢もそれにかまってはいなかった。
おかしい。これはさっきとは違う。こんなふうにうなることはなかった。そして、今は全体が震えはじめている……。
草矢は、はりつめた声で言った。
「里砂、下がれ」
そのとたん、壁からぱっと青白い炎が噴き出し、揺れていた装置がぴしっと音をたて、亀裂が入った。
「カイ!」
里砂が叫んだ。
「カイ! 兄さん、カイは……」
「里砂、ここから出るんだ」
振り向いたとき、再び壁が閉まった。
「もう逃すもんか!」
壁の外から、あの男の恐怖にひきつったような声が叫んだ。
草矢は里砂の腕をつかむ。閉まった壁を押し開けようとしながら、里砂と、起こりつつある破壊との間で盾になろうとした。
そのとき、今まで移送装置だったものが、砕け散って光貝のかけらになるのを見た。
「兄さん!」
草矢の肩越しに里砂も見た。
黒い壁が、火であぶった粉菓子のようにふくれあがってきたと思うと、爆発した。熱気と炎が凶暴な風になって、ふたりに襲いかかった。
⭐︎
ラピスとレンは、固唾をのんで見守る村人たちの前に舞い降りてきた。
北の崖の上に下ろした宇宙船から、背中にしょった反重力装置を使って文字どおり空中を降りてきたのだ。
「ダラム!」
レンが大声で叫び、手をふった。背後の村人が、小声で「ダラム」「ダラム」とささやくのが聞こえた。
「なんだ、なんだ。恥ずかしいやつだな。別れたのはゆうべだぜ」
ダラムはつぶやいたが、それでも手をふり返した。
「無事のようだな」
ラピスが、ダラムを上から下まで見て、言った。
「おかげさんで」
三人は顔を見合わせ、やっと安堵の笑みをかわした。
「カイが本当にここにいたなんて……」
レンが、どう言ったらいいのかわからない、というように言葉をつまらせた。
黒髪の司が近づいて来た。
ダラムは、はっとしたようにラピスを見た。
この人が冷静に対応してくれたから、僕らはここにこうしていられるんだ。
「ラピス、この人がラピスと話をした……」
ダラムが司のほうに手を伸ばして言いかけたとき、にぶい爆発音が聞こえた。
皆が、音のほうを見た。
光る砂塵がふくらみ、やがてきらめきながら散りはじめるところだった。
その近くにいた村人の叫び声が聞こえた。
「人だ!」
砂塵を指差している。なにかがある、と言っているようだ。
三人は、もう一度顔を見合わせた。
「行こう!」
そっちに向かって走り出したとき、鋭い女の叫び声が響いた。三人がはっきり聞き取ったのは、彼女の叫びの中の一語だけだった。
「ああ、草矢! 草矢! ……カイ! ……里砂?!」
細工師の妻、潮美だった。