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3・たそがれ浜(4 カイがいた場所)

「カイを探しに来たのか」

 司は、まずそう言った。


 カイ?


 ダラムの表情はほとんど変わらなかったが、内心は目の玉が飛び出るほど驚いていた。言葉そのものはわからないけれど、確かに、この黒髪の男は「カイ」と言ったと思う。


「カイ?」


 ダラムがゆっくり繰り返すと、男はうなずいた。

「カイのいたところから来たのだろう?」


 ダラムは、懸命に聞き取ろうとした。似たような言語は聞いたことがあるような気がする。辺境の星系で今も使われている古い言葉のことを教わったときだ。


 ちくしょう、もう少し真面目にやっとけばよかった。歴史も古典言語も、試験だけやり過ごしたらあとは忘れるだけの学問だった。

 

「ここ」は覚えてる……。「いる」「ある」はなんだっけ。文法は普段使ってる言葉と同じようなものだったから、疑問形にするには……。


「カイ……ここに……いる?」

 ダラムは言葉と同時に地面を指差し、両手を広げて首をふり、思いつくかぎりの身振りをした。


 男には、ダラムの言いたいことがわかったように見えた。彼はうなずいた。

「前はいた。今はいない。彼は旅に出た」

 ダラムが、また自分の不勉強を呪いはじめたとき、通信装置から、ラピスの声が静かに聞こえた。


「ダラム、カイは以前ここにいたけれど、今はいない、とその人は言っているようだ」


 黒髪の男を含め、砂浜にいた人たちがざわめいた。

 今の声は、どこから聞こえてきたのだろう。


 砂浜の人々の人数が増えていた。誰かが浜で起きた異変を知らせたのだ。細工師の夫婦もその中にいた。浜に一番近いところに住んでいたからでもあったし、たそがれ浜は彼らにとって特別な場所だった。

 この浜で見つかる光貝。この浜で拾った娘。そして、星から来たという少年。


 潮美は、黒い肌の青年を見つめた。はじめは、なんと異様な、と思った。けれど、ちょっと困った様子で、それでもなんとか司と話をしようと苦労している青年を見て、カイや草矢でも、きっと同じようなことをする、と思った。


「僕は、一応古典言語も勉強したから、多少はわかる。ここの言葉は習ったのと同じではないけど、共通点が多いから……」

 ラピスの声がそう言った。そして、ダラムが苦手だった古い言語で話しはじめた。

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