2・旅(23 光貝)
三人が、自分たちの上に積み重なるおびただしい土と岩のことを考えて、もうたまらないと思いはじめたとき、不意に周囲が広くなった。
ココガ、仲間タチガ最後ニ集ッタ場所ダ。
(あなたは、ここに来たかったのか)
ココハ、コノ丘ノ中心ナノダ。仲間タチノエネルギーノ残滓ガ、ココヲカラ渦ヲ巻イテイル。
カイは、里砂と草矢を振り返った。
「ここで行き止まりなんだ。ここは……」
そのとき、轟くような音とともに、この広間と通路の境が岩の壁でふさがれた。
里砂が短く声をあげ、それから両手で口を押さえた。カイが壁に体当たりするのが、青白い光の中でかすかに見えた。
「じたばたしても無駄だぜ!」
壁の向こうから叫ぶ声がした。
「しんばり棒をかましたからな。そっちからじゃ、絶対開かねえよ!」
「あいつだ」
草矢がつぶやく。
「おまえらと、俺の弟を交換させるんだ。水尾村の司どもが見つけてくれるまで、そこでのんびりしてな。飢え死にする前に助けが間に合うといいがな」
哄笑が聞こえ、そして遠ざかった。
「くそっ」
草矢が唇をかむ。
用心するつもりだったのに。砂と光貝のことを考えているうちに、ついおろそかになってしまった。
「閉じ込められたのね」
里砂が言った。おびえた声を出すまいと、気を張っているようだった。
「待って」
カイが言った。里砂と草矢に言ったのか、それとも彼の頭の中の一の長に言ったのかもしれない。
手ヲ貸ス。
一の長が言った。
私ノ認識ガ足リナカッタ。スマヌ。
カイは、ちょっと驚いた。一の長は、謝っている。
アカリヲナントカシヨウ。
(なんとか? どうすれば……)
ココニ残ル仲間ノエネルギーヲ集メル。君ハ、私タチノチカラノ通リ道ニナッテクレ。
カイは、大きく息を吸い込んで目をつむり、右手を高く上げた。それだけの動作なのに、カイの筋肉はぴんと張って震えだした。空気に片手でつかまって、懸垂をしようとしているかのように。
突然、柔らかな光が広間に満ちた。
カイは、荒い息をしながら腕をおろした。額の汗をぬぐって微笑む。
「天井に、発光装置があるんだ。ここに住んでいた人たちはみんな超能力者だったらしくて……つまり、そういう装置は心で動かすことができたんだよ。一の長が、この場所にあるそういう力の残り……を集めたんだ。鍋に残った煮汁を集めて一皿にするみたいな……」
カイは言葉を切って、空中に向かって言った。
「変な例えだったかな。ごめん」
一の長は、何か答えたのだろうか。カイはまた、まじめな顔で言った。
「でも、物質に影響を与えるためには、実態を通じて働きかけなければならないんだそうで……僕は、その力の通り道になったんだ。それだけなのに、疲れるものなんだな」
「明るいってだけで、ずいぶん気が楽だわ」
里砂が、微笑み返した。本当に、少し楽になった。
「僕が本物の超能力者なら、もっと明るくできるのかもしれないけど。一の長が言うには、ほかに必要な場面があるかもしれないから、力を無駄にはできないって」
「これで十分だ」
草矢は広間を見まわして、息をのんだ。
「あれは……!」
広い空間の真ん中に、それがあった。きらめく巨大な卵型のもの。
少しも損なわれていない完全な光貝があった。弱いあかりの中でさえ、それはまばゆく輝いていた。
第二部はここで終わり、第三部「たそがれ浜」へ続く。