表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/70

2・旅(15 ここにいた)

 里砂が目を開けると丸天井の下に横たえられていて、誰かがつくった星空を背景に、心配そうなカイと草矢の顔が見えた。


「リサ! 大丈夫? どこがいけない? 気分が悪い?」

 カイは、少しは安心したのか、表情をゆるめて次々に言った。

「階段が長かったし……あの、壁に沿ってぐるぐるまわるのはよくなかったんだ」


 里砂は首をふった。不意に涙があふれて耳のほうにつたい落ちた。


「ここにいたの」


 ささやくような声しか出なかった。


「見たことがあるようで……なのに思い出せなかった。……でも、もうわかった。わたし、ここにいたの。この塔の近くに住んでいたの」


 草矢が息をのんだ。

「たそがれ浜で見つかる前に?」

 里砂はうなずいた。


 でも、どうしてたそがれ浜に行ったのか、わからない。あのころのわたしは、まだ幼かった……


「窓から外を見たときわかったの。あの塚。塚山。わたし、ひとりであそこへ行っちゃいけないって言われていた。あそこは……」


 塚は危ない。曲がりくねった暗い通路につながる洞穴や、うっかりすると地の底に落ちてしまうような穴がある。なぜなら、あそこは……。


「秘密の人々が隠れ住んでいたところだから」


 里砂は、男の子のようにこぶしでぐいっと目をぬぐって体を起こした。

「大丈夫?」

 カイが腕をさしだした。里砂は首をふった。

「もう平気」


 里砂は、つばを飲み込んで、もう一度窓のそばに行った。一瞬固くつむってしまった目を、心を奮い立たせて大きく開いた。

 塚は、濃い緑に包まれて、そこにあった。


 しっかりしなきゃ。


「どこに住んでいたか、わかるか」

 草矢が、里砂のうしろから塚を見つめながら言った。

「わからない。でも、この近くのはず。小さい子があそこへ行けるほどの近く。……わたしはあそこへ……」


 塚山へ行っちゃいけません。


「ねえやが、だめだと言った……」


 草矢は、あらためて里砂を見た。

 ねえやに子どもの世話をさせていたのなら、里砂の生家は裕福な、大きい家だったのではないか。


 三人は、塔の階段を下りた。誰とも行き会うことはなかった。草矢、里砂、カイの順で下りた。

 番人は、来たときと同じ場所にすわっていた。彼はうなずいて、小さい箱のほうに視線を投げた。

「上まで行って、金を払う価値があったと思うなら、そこに好きな額を入れてくれ。つまらなかったなら、一銭も払わんでよろしい」


 この番人は、いつもここにこうしているのだろうか。


 自分でも思いがけず、里砂は番人の前に進み出た。

「お尋ねしたいんです。この近くで、昔……季節は十三……十四くらいになると思います。…そのころ、小さい女の子がいなくなったことはありますか」


 番人は、里砂を見た。まじまじと見た。次第に、その目が大きく見開かれた。

 そして、ゆっくり立ち上がった。

「あんたなのか」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ