2・旅(15 ここにいた)
里砂が目を開けると丸天井の下に横たえられていて、誰かがつくった星空を背景に、心配そうなカイと草矢の顔が見えた。
「リサ! 大丈夫? どこがいけない? 気分が悪い?」
カイは、少しは安心したのか、表情をゆるめて次々に言った。
「階段が長かったし……あの、壁に沿ってぐるぐるまわるのはよくなかったんだ」
里砂は首をふった。不意に涙があふれて耳のほうにつたい落ちた。
「ここにいたの」
ささやくような声しか出なかった。
「見たことがあるようで……なのに思い出せなかった。……でも、もうわかった。わたし、ここにいたの。この塔の近くに住んでいたの」
草矢が息をのんだ。
「たそがれ浜で見つかる前に?」
里砂はうなずいた。
でも、どうしてたそがれ浜に行ったのか、わからない。あのころのわたしは、まだ幼かった……
「窓から外を見たときわかったの。あの塚。塚山。わたし、ひとりであそこへ行っちゃいけないって言われていた。あそこは……」
塚は危ない。曲がりくねった暗い通路につながる洞穴や、うっかりすると地の底に落ちてしまうような穴がある。なぜなら、あそこは……。
「秘密の人々が隠れ住んでいたところだから」
里砂は、男の子のようにこぶしでぐいっと目をぬぐって体を起こした。
「大丈夫?」
カイが腕をさしだした。里砂は首をふった。
「もう平気」
里砂は、つばを飲み込んで、もう一度窓のそばに行った。一瞬固くつむってしまった目を、心を奮い立たせて大きく開いた。
塚は、濃い緑に包まれて、そこにあった。
しっかりしなきゃ。
「どこに住んでいたか、わかるか」
草矢が、里砂のうしろから塚を見つめながら言った。
「わからない。でも、この近くのはず。小さい子があそこへ行けるほどの近く。……わたしはあそこへ……」
塚山へ行っちゃいけません。
「ねえやが、だめだと言った……」
草矢は、あらためて里砂を見た。
ねえやに子どもの世話をさせていたのなら、里砂の生家は裕福な、大きい家だったのではないか。
三人は、塔の階段を下りた。誰とも行き会うことはなかった。草矢、里砂、カイの順で下りた。
番人は、来たときと同じ場所にすわっていた。彼はうなずいて、小さい箱のほうに視線を投げた。
「上まで行って、金を払う価値があったと思うなら、そこに好きな額を入れてくれ。つまらなかったなら、一銭も払わんでよろしい」
この番人は、いつもここにこうしているのだろうか。
自分でも思いがけず、里砂は番人の前に進み出た。
「お尋ねしたいんです。この近くで、昔……季節は十三……十四くらいになると思います。…そのころ、小さい女の子がいなくなったことはありますか」
番人は、里砂を見た。まじまじと見た。次第に、その目が大きく見開かれた。
そして、ゆっくり立ち上がった。
「あんたなのか」