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「本気か、レン」

 ダラムはレンの部屋のベッドに腰をおろしている。当の部屋の主は、丈夫なザックに荷物をつめこんでいた。再度の調査行に出かけるラピスに、レンは同行することになったのだ。


「本気だよ」

「休学届も出したのか? 宇宙に出るってこと、親に言ったのか?」

「僕は十六宇宙標準年を過ぎてるからね。自分のことは自分で責任を持つべき年なんだ。でも、親には言ったさ。こうするって報告しただけだけどね」


 ダラムは、腕を組んでレンを見つめた。

「おまえ、人はいいし、だまされやすいから心配なんだ」

「ラピスを疑ってるの? そりゃ変わり者だとは思うけど、信頼されてる研究者だ。調べりゃわかる」

 ダラムは、腕をほどいて頬杖をついた。

「言っちゃなんだけど、おまえは機械に強くないし、乗り物には酔うし、小型船でワープした経験なんかないだろ」

 そういうダラムにも、その経験はない。

「あんまり気がきくほうじゃないし、ラピスの足手まといにならないって自信はあるのか? 心理学志望だと思ってたけどなあ。歴史に転向するのか?」


 レンは笑い出した。

「よくまあ、それだけ思いつくもんだ」

 ダラムは、深いため息をついた。レンの明るい笑い声を聞いて、彼の決心が固いことがわかった。


「……だけど、行ったって、カイが見つかるわけはない、と思う」

 ダラムの言葉に、レンの手が一瞬止まり、それからまた忙しく荷物をより分けだした。

「わかってる」

「そんなら……」

「それでも……」

 ふたりの言葉はほとんど同時だった。


「それでも、行きたいんだ」

 レンは、振り向いてダラムを見た。

「サヤ……カイのおふくろさんさ。あの人のこと考えるとね。ほんの少しの可能性だって、そこに『もしかしたら』があるなら、サヤだったらカイを探しに行くと思う。カイのポジティブなところは、おふくろさんゆずりなんだ。今、あの人、体が回復しきらなくて無理だけど、もし元気ならきっと……」

 カイの母、サヤ・アズマは、ポムの伝染病にかかって生き延びたわずかな人々の中のひとりだった。


「レン、おまえ……」

 ダラムが口を開けた。レンは、赤くなって、また荷物にかがみこんだ。

「サヤは、僕らの学校で心理学を学んで、それから精神科医になったんだよ。たいした人だと思う。僕は、つまり、尊敬してるんだ……」


「わかった」

 ダラムは、彼にしては珍しく、皮肉のひとかけらもない笑顔を浮かべた。

「わかったよ。レンは行く、と」


 レンは、また振り向いた。

「で、ダラムは?」

「僕?」

 ダラムは、親指で自分の胸を指した。


「ラピスは『君たち』って言ったんだ。ダラム、いつも思ってたんだけど、おまえはちょっと屈折してる。赤ん坊のころ熱すぎるお湯につけられたか、それとも頭が良すぎるのかもしれないな」

 ダラムが首をふって口を開けると、レンは片手を上げて、黙れ、という仕草をした。

「本当は、小型宇宙船をいじる機会を逃したくないだろ。技術系志望のダラムとしては、きらきら光る計器盤の誘惑には勝てないんじゃないか? さあ、行って荷物を詰めて来いよ」


 ダラムは、あきらめたように目を閉じて、ため息をついた。

「さすが心理学者の卵、まいったね」

 目を開けて、軽くレンをにらんだ。

「『やっぱりレンが心配だから』って言って、宙港で土壇場に登場していっしょに行く予定だったのに、ぶち壊しにしやがって」


 ダラムは笑顔になって、腕につけたモバイル端末を見せた。

「あと一度タッチしたら、学部長のところに休学届がいくんだ」

「こいつ!」

 レンが、ダラムを殴る真似をした。ふたりはベッドに倒れて、声を合わせて笑った。

「さて、レンとダラムは行く、と」 

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