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⭐︎・4 ペルデュ

「僕はラピス。年は取ってるけど、まだ学生だ」

 レンやダラムといっしょに保安局を出てきた青年は言った。


「専攻はなんですか?」

 レンが聞いた。

「歴史」

 ラピスは簡潔に答え、レンとダラムのほうを見て笑顔になった。

「歴史にはあんまり興味はなさそうだね。それでも、人類の生まれた惑星、始原の星のことは聞いたことがあるんじゃないかな」

 レンとダラムは顔を見合わせ、あいまいにうなずいた。

「ええ。あるにはあります」


「始原の星のあった星系に、アルゴー群と呼ばれる小惑星帯があったんだ。そこで、昔、ひとつの小惑星が消えた。そこに住んでいた人たちも消えた。僕らは、便宜上彼らを『ペルデュ』と呼んでいる」

「ペルデュ?」

「元は『消えた』という意味だ。古語のひとつだよ」

 レンとダラムは、うなずいた。


 とりあえず、始原の星の星系に小惑星帯があり、そこの小惑星のひとつが住人ごと消えた、ということはわかった。


「ペルデュたちは、とても特殊な人々だった。彼らは全員超能力者だった」

 ラピスが続ける。

「へえ!」

 ダラムが声をあげた。

「その人たちのことを調べてるんですか」

 レンが尋ねると、ラピスはうなずいた。

「アルゴー群は、小惑星や隕石が帯のようにめぐっていて、宇宙船の航行にも苦労するところだった。レアメタルなどの資源はあったけど、小惑星を開拓し、そういうものを採掘したのはほとんど始原の星からの追放者だった」

「追放者?」

「中には、犯罪の常習者もいたんだろう。でも、必ずしもそういう人間ばかりじゃなかったんだと思う。支配階級にとって望ましくない者が追放された可能性もある」

 ラピスは、ちょっと眉根を寄せた。

「始原の星には、暗い時代があった。その後、長い戦争の時代があって、始原の星の暗黒期の資料の多くが失われた。けれど、その消えた小惑星の記録はわずかながらあったんだ」

「どうして?」

 ダラムが、「歴史」と聞いたばかりのときにはなかった好奇心の輝きを目に宿らせて尋ねた。


「その小惑星の軌道がずれて、やがて始原の星に衝突することがわかったからなんだ。政治じゃなくて、科学の見地から資料が残されていたんだろうな」

 ラピスは、ふたりのほうを見て微笑んだ。

「歴史って、おもしろいだろ」

「まあ、少なくとも、僕が思ってた歴史とは違うな」

 ダラムが言った。


「衝突する前に小惑星を破壊すればいい、という案は当然出たに違いない。でも、そこに住んでいる人たちがいたんだ」

「超能力者たちだね」

 レンが、つぶやくように言う。

「暗黒期には、多数からはみ出す個性が悪とみなされたらしい。超能力もだ。もっとも、支配者のためにその力を使う……あるいは、使うことを強制された人たちもいたんだと思う。支配者の手に負えないほどの高い能力のある者たちは追放された。そういう追放者なんだから、星とともに砕け散ってもいい、と思う者もいただろう」

「……ひどい話だ」

 ダラムが低い声で言った。ラピスはうなずいた。


「でも、こういうのは全部推測だ。残ってる資料が少ないからね。わかっているのは、ペルデュたちが、ある日いっせいに姿を消したということ。そして、小惑星はなんらかの力によって破壊されたということ。それだけなんだ」

「小惑星を破壊……」

 つぶやいたレンの脳裏には、カイの事故につながった、ポムでの爆発が浮かんでいた。

 ダラムも同様だったに違いない。ふたりは、また顔を見合わせた。


 ラピスはそんなふたりにはかまわず、自分が夢中になっていることを話す人の熱っぽいまなざしで、言葉を続けた。

「それだけの高い超能力を持つ人々が、小惑星の運命を察していなかったはずはない。自爆したとも思えない。できるだけのことをして、自分たちを守ったはずだ。最近、それを裏付ける資料が見つかったんだ。それまでたいして重要視されていなかった、小惑星での作業記録みたいなもんだが」


「小惑星が破壊される直前に、小惑星帯のはずれから亜空間に入った船があった。ふつうは、不安定な小惑星帯からは十分離れて、安全を確保してからワープするものなんだが。危険をおかしてそんな操船をした船のことが記録に残っていた」

 ラピスは、大きく息を吸って天をあおいだ。

「ペルデュの子孫は、どこかにいるはずなんだ。少なくとも、いたはずなんだ。……おそらく、どこか辺境……。彼らは人類から……僕らの祖先から逃げ出したんだから」


 レンは、ほっとため息をついた。

「あなたの人探しも大変そうだな」


 ラピスは言った。

「人類は宇宙に広がって、安定した時期を迎えている。環境破壊や、暗黒期や、戦争や、いろいろな危機を経て、今は暮らしやすい時代なんだ。そうなってはじめて、過去を振り返る余裕ができたんだ」

 ふたりを見た。

「僕は、彼らがワープした先を確認したくて出かけていた。そのとき、たまたまエネルギーのひずみを観測したんだ」


「その人たちが消えた時代って、移送装置はあった……?」

 ダラムが尋ねた。

「たぶん、あった。あれは暗黒期より前のものだから。ごく初期のものだけど、あったはずだ」

「それじゃ、あなたのいたあたりに、その人たちが持っていた移送装置があるかもしれない?」

 ラピスは、立ち止まって首をかしげた。

「わからない。だが、あのあたりの未踏査星域に、生命反応の期待できる星がある。僕は、未踏査星域を航行する許可を取りに戻って来たんだ」

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