⭐︎・3 エネルギーの波
モニターに現れた数字の列をしばらく見つめて、タリダ・セインはため息をついた。
「この報告がどうしてこんなに遅れたのか、説明していただけますか」
彼女と向き合っている青年は、少しむっとした表情を見せた。彼は、先週フラムの宙港に戻ってきたばかりだった。
「なぜかというと、僕は一週間前まで宇宙にいたからです。そして、二日前まで消えた学生のことは知らなかった。そのときの状況も知らなかった。昨日、あなたは何かの非常に重要な用件とやらで不在だった。今日僕がここにいるのは、それなりに素早い行動なんじゃないかと思いますが」
タリダは、微笑のようなものを浮かべた。
「謝ります。言い訳ですが、本当に忙しかったので。でも、あの学生のことは、私も気にかけているんです」
青年は、ちょっと意外な思いにとらわれて不器用に首をふった。
タリダ・セインという人は、あまり役人らしくないとは聞いていた。さらっと謝罪ができるあたり、うわさは本当なのかもしれない。
それとも、役人より政治家に向いてるのか?
「で、ここに現れたフィールドのひずみというのが、ポムの移送センターの事故と関係あるのでは、と思うんですね」
青年は、確かめるようにモニターを見た。
「確信はありません。でも、エネルギー波の広がり具合からみると、起点はこの星系になるはずなんです。それと、事故の起きた時間と、僕のいた位置と……」
「あなたのいた宙域は、ずいぶん離れています。移送装置が有効とされている距離を考えても遠すぎる」
「そこが一番わからないところです。でも、そもそも想定していない事故だった。ほかにも、何か尋常でないことが加わった可能性もあります」
タリダが眉をひそめながらうなずいたとき、保安部員がドアを開けた。
「例の学生たちが来ています。どうします?」
タリダ・セインは、青年をちらりと見た。
「会います。ここに通してください。彼らも興味を持つかもしれない」
そして、青年に向き直った。
「消えた学生の、学校友達なんです」
保安要員は出ていき、入れ替わりにレンとダラムが入ってきた。
「保安部長、会ってくださってありがとうございます。今日は……」
ふたりは、青年を見て一瞬口をつぐんだ。
「かまいません。この人も、カイ・クラーク・アズマのことで来てくださっているんです」
「ほんとですか!」
レンが飛び上がった。タリダは手を上げて彼を制した。
「彼が見つかったというのではないんです。まず、一緒に話を聞きましょう」
青年は、レンとダラムにうなずいてみせ、それからホロ・ビューローに星系図を投影した。
「君たちの友人が消えたころ、僕はここにいた」
青年は、ホログラムの星系図に矢印を表示した。
「そのとき、たまたまエネルギー・フィールドのひずみを観測したんだ。ひずみの原因は特定できてないけど、干渉してきたエネルギー波があったと考えられる」
青年は、ひずみの範囲を黄色で表した。
「計算すると、干渉されてひずんだフィールドは、近くの星々からの影響を受けて、さらにこんなふうにゆがんで」
黄色がねじれて、端が細くなる。
「この先端に向かって収束するように見える」
青年は、レンとダラムの方を向いた。
「これらが君たちの友人にふりかかった事故と関係があるとしたら」
もう一度、ホログラムを見つめた。
「収束するところに転移したかもしれない」