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0・無限の闇

1995年 第一回児童文学ファンタジー大賞 二次選考通過作品を改稿したものです。

 彼は、意識を宙に浮かべていた。

 この虚空から見下ろすと、自分たちの住んでいた小惑星は寒々とした岩の塊としか見えなかった。けれど、彼の一族はあそこに、気泡のようなドームと地下の迷路からなる狭い世界に暮らしていたのだった。


(一のおさ、もう時間がない)

 小惑星帯のはずれに浮かんでいる船から、二の長が思考を送ってよこした。


(わかっている。私は見届けたいのだ。大丈夫、間に合うように戻る。予定どおりジャンプして亜空間に入る準備をしておいてくれ)

 彼の体は、船の中に横たわっている。


(準備はできた。あなたさえ戻ってくれればいいのよ。船のスクリーンでも我らの星を見ることはできる)


 我らの星。


 二の長の言葉に、彼は思いがけず胸を突かれた。

 そう、我らの星だったのだ。そこの一の長であった自分は、見届けないわけにはいかない。


(間に合うように戻る)

 彼は、もう一度くりかえした。

 小惑星帯が間にあっては、船からは鮮明な画像は望めまい。


 見下ろす星の表面に、亀裂が走りはじめた。

(「砕く者」たちが仕事を始めた。一の長……)

(そう、彼らはよくやっている。亀裂が広がっている)

 船では、強い念動力を持つ者の一団が、思念を凝らして星を破壊しようとしている。


 星のどこかで何かが砕け、真っ白な光が散った。星は、下手なデッサンのように、その輪郭がぶれて見えた。と思う間もなく、音もなくふくらみ、そしてはじけた。

 そこに至るのに、彼が想定していたほどの時間はかからなかった。


 彼は、眼前に広がる破壊の美しさに呆然として、視線をそらすことができなかった。

 星が壊れていく。黒いもの、白いもの、光るものを散らして。我らの星が壊れていく。


(一の長!)

 絶叫するような二の長の思考が意識を貫いて、彼は我に返った。

(あなたを残して行けない……)

 そして、とぎれた。


 彼は、自分が果てしない宇宙の闇の中で、たったひとりになっているのを知った。


 船はいない。永遠に意識を失ったままの彼の体を乗せて、手の届かない場所に行ってしまった。

 彼は、その途方もない孤独感に一瞬たじろいだ。


 けれど、船は行くべきだったのだ。小惑星とはいえ、星ひとつ破壊したときの衝撃波に巻き込まれるわけにはいかなかった。


 彼は見届けなくてはならなかったのだ。自分たちの故郷、そして牢獄でもあった我らの星の最期を。


 意識だけの彼は、頭を抱えるわけにもいかなかった。

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