三日月のもとで、帽子被りの少女に出逢う。そして5年後……。
あれは、俺が志望大学に受かったものの、想像してたのと違って疲れていた頃。三日月が浮かぶ夕暮れ時、普段誰も通らない細い道を気分転換に通っていると、思いっきり誰かがぶつかってきた。相手はあどけない少女。落ちそうになった帽子を取ろうとすると、少女は慌てて帽子を押さえつけた。
「すみません」
彼女は一言謝罪し立ち去ろうとしたが、俺の方を振り返る。
「あの……この町ってどんな所か教えてくれませんか?」
唐突は質問に戸惑ったが、暇だったし付き合うことにした。様々な所を案内して、その説明にイチイチ大袈裟な反応をしていて少しウザく思ったものの、屈託のない笑顔のありがとうでその気持ちは浄化された。
それから毎月三日月の夕方に彼女と出逢うこととなった。話は他愛のない、でも少しズレた会話だった。晴れて気持ち良いとか、小鳥の鳴き声が綺麗とか、何だか幼稚染みた会話だったが、彼女と過ごす時間は楽しいものだった。何故か絶対に帽子は被っており不思議に思っていたのだが、その理由は教えてくれなかった。
約2年過ぎた頃、帽子に関して衝撃の事実を知った。
それは強風の日。頑なに脱がなかった帽子が飛んでいってしまったのである。すると何と彼女の頭の上には輝かしい輪っかが浮いていたのだ。
「ごめんなさい。本当は人ではなく天使なのです」
天使? そんなの話の中だけだろう?
風変わりだと思っていたが、正体が天使なんて信じられない。ポカンとしていると、彼女は大きな羽を出して、さよならと言う言葉だけを残してフッと消えて行った。
あれから5年。彼女と逢うことは1度も無かった。社会人になっても一体何者だったかと三日月を見る度思い出す。彼女の笑顔と天使の輪っかを忘れることは出来ず、いつも感傷に浸ってしまう。
今日も三日月。彼女のことを思い出していたら後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。
「お久しぶりです」
振り向くと少女が笑顔で佇んでいた。何度も思い出したあの彼女である。しかし、1つ前見た時と異なる所があった。帽子を被っておらず、天使の輪っかもないのだ。
「実は人間界で遊んでいたことがバレて剥奪追放され、もう天使じゃなくて戸籍のある人です。日光さえあれば生きられるのは変わっていませんが、寿命は人と同じです。無駄な出資も不審がられることもないので、一緒にいさせてくれませんか? あなたの傍にいたいです」
俺は何が何だか分からなかったが、ただ嬉しくて首を縦に振った。
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