天才魔術師、先生に挨拶をする
「さあ二人とも挨拶なさい 」
「レオナルド・セラフィーニともうします 」
「レティーツィア・セラフィーニともうしますわ 」
レオナルドは右手を握ったまま左胸に当て、軽く頭を下げ挨拶を。
レティーツィアは右手でスカートを右足を左足の後ろ側へと引き、膝を折り挨拶を。
そんな二人の挨拶をニコニコと笑顔で見守る老齢の男性。うんうんと頷きながら挨拶を聞き終え、今度は自分の番とばかりに口を開く。
「ご丁寧に有難う、私はフリッツ・フェラー。 ちょっとだけ魔術が得意なじいさんじゃよ 」
「まぁ、ご謙遜を 」
リディアはクスリと笑いフリッツの前のソファーにゆったりと腰かけた。レオナルドとレティーツィアもリディアを挟んで座り、失礼にならない程度に目の前のフリッツへ目を向ける。
後ろに撫で付けた白髪、普段からにこやかなのか目尻には笑い皺が少々。若草のような色合いの瞳はキラキラと輝いていた。本人はじいさんと表現していたが、足腰に衰えは見えず実年齢よりもよほど若く見える。
カップを持つフリッツの指にはオニキスのように黒く艶やかな石が嵌まった指輪がひとつ。指輪に気が付いたレティーツィアは何故だかその指輪が気になって仕方がなかった。視線を逸らせずにじっと見ているとその事に気が付いたフリッツが声をかける。
「お嬢さん、これが気になるのかのう? 」
ヒラリと指輪をしている手をひらめかせる。見詰めすぎていたことを恥、頬を染めながらもレティーツィアは頷く。
「ええ、なんだかとっても気になってしまいまして…… 」
「そうか、お嬢さんは目が良いのかもしれないのう 」
「目、ですか? 」
フリッツはうむ、と頷くと言葉を続けた。
「これは私の魔力を貯めている魔石じゃ。 じゃからこの石は常に魔力を帯びておる。 それを何となく感じ取っているのじゃろう。
魔力を感じ取る方法は知らずとも何となく目で見た時の違和感として。 じゃからこの指輪が気になって目が離せない。 きっとそう言うことじゃ 」
「レティは目が良いんだ、すごいね 」
キラキラと尊敬の眼差しを向けるレオナルドにレティーツィアは首をかしげていた。自分では全く自覚がないので凄いと言われても実感がわかなかった。
「いいなぁ……ぼくは何も感じないや」
自分には感じ取れなかった何かを感じ取るレティーツィアに尊敬の眼差しを向けつつも、羨ましく思ってしまうのかポツリと本音が漏れる。
「大丈夫、魔術について学んでいけば魔力を感じ取れるようになるじゃろうよ 」
「本当ですか? ぼくにも出来るようになりますか? 」
勿論と頷くフリッツに、レオナルドは嬉しそうに笑った。レオナルドの笑顔を確認して再び頷くとリディアへた目を向ける。
「さて、そろそろ授業を始めるとしようかのう 」
「ええ、二人をどうぞよろしくお願い致します」
リディアは使用人にフリッツを子供部屋へと案内するよう告げ、子供達に頑張りなさいと声を掛け綺麗にお辞儀をすると部屋を出ていった。
「それじゃあ二人とも私を部屋まで案内してくれるかの? 」
「「はい 」」
レオナルドとレティーツィアはサッと立ち上がるとフリッツを子供部屋へと誘導していく。これからどんな授業が始まるのかワクワクしつつ、廊下を進む。チラリとフリッツを振り返るとしっかりとした足取りで後を追ってくる。
使用人が子供部屋の扉を開け、三人が入室した後そのまま礼をして出ていく。すぐに別の使用人が三人分のお茶を準備してそのまま部屋の隅で待機したのを確認してフリッツは口を開いた。
「さぁ、授業を始めよう 」
次回更新
3月18日予定