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おにたちの記憶

おにたちの記憶 ウラノスケ、クロノスケ編

作者: さるた


暗闇の中に浮かぶ水晶玉の中にクロノスケはいた。どのくらい、時間が経ったのかもわからない。時置師トキオカシの翁が使った術の中で、時間から切り離された世界。誰もを拒む空間であり、空間に認められたものしか入れない。全てが見通せる特別な空間だ。望むなら過去から未来まで視られる特別な空間だが、いまは、ウラノスケのことばかり頭に浮かぶ。いつもそばにあったウラノスケの笑顔や声が、とても懐かしく恋しい。今、自分の気持ちと向き合って、はじめて気が付く。

「。。。ウラノスケ」

その小さな声に反応するように、闇がユラリと動き、何かが優しくさわった。遠くからこちらに近づいてくる光が見える。小さな点は次第に大きくなって、その姿がウラノスケにそっくりだ。

まだ小さくしか見えないが、両手で手を振りながら、

「クロノスケ!」

と、ウラノスケが変わりない笑顔で近づいてくる。同時に後悔と懺悔の気持ちが胸に込み上げる。口元に手をやり、大粒の涙が目からこぼれるのを感じる。涙は止めどなく溢れ、笑顔で走り寄ったウラノスケはクロノスケの姿を見て口元を引き締めた。

「ごめんなさい。。。」

「お前の声が聞こえた、すまなかった。ミツに謝って、て」

涙でぐちゃぐちゃの顔を上げ、クロノスケはウラノスケを見た。優しい眼差しは父とそっくりだ。

「それにもう次の日には仲直りした」

ウラノスケは水晶玉に手を置くと簡単に術を解いてしまった。差し伸べられた手に伸ばすことを躊躇うと、

「さあ!」

と、声を掛けられた。クロノスケはウラノスケの手を取り、そのままぐいっと引っ張り上げた。

「クロノスケ、お前は繰り返した時間を過ごしていたんだ」

人は成長がないとき時間を繰り返す。そして、それはときに良い方向へも悪い方向へも加速することがある。


ふと、遠くへ目を移したウラノスケは、

「あぁ。。。そうか。俺たちはずっと地球クニタマには居られないんだな」

ポツリと呟いた。離れたところで、大きくなった自分達の姿が見える。磐船イワフネの下で、ミツや桃太郎セイスケに別れを告げている。

そして、隣の映像では、ミツが玉のような大きな双子の赤ん坊をあやしている。赤い髪の赤ん坊には赤い玉、茶色い髪の赤ん坊には青い玉がそれぞれ握られていた。

「俺はやっぱ、時置師トキオカシの力はいらないや」

と言い、

「クロノスケ、お前にしかできない役割がある」

と、大きな目でクロノスケを見つめた。

その先に目を移すとさらに別の場面が見える。

大きな桜の下。見たことのない服を着たウラノスケとクロノスケが、ミツと桃太郎に手を振る。ミツは、紺の服に三角の襟が着いた服を着ていた。

「。。。未来。。。時の狭間」

クロノスケの呟きにウラノスケは、ふっと笑って

「。。。未来か。悪くないな」

と、言った。例え、その時が絶望的でも地球クニタマから離れても、さらに生まれ変わったその先の未来で必ず会えることがわかったから。ウラノスケはクロノスケの肩に腕を掛け、クロノスケも自分の腕をウラノスケの肩に回した。

「さぁ、帰ろう!みんなが待ってる」

その言葉にクロノスケの頬に大粒の涙が伝う。

「びっくりだ!クロノスケの泣き虫加減」

ウラノスケはニヤニヤとからかう顔になる。

「あ〜、今まではここに隠れて泣いてたんだな」

と、さらに続けた。

「俺たちはやっぱり双子だなあ。クロノスケは強い子で涙を見せない!なんて評判は当てにならん」

と大笑いした。隣で大笑いしているウラノスケをクロノスケは恨みがましそうに睨む。それを見たウラノスケは笑いを止め、二人でしばし見つめ合う。そして、息を合わせたように二人で大笑いをした。まるで、その笑いが隅々まで行き渡るように、先程までの闇は消え、光り輝く空間に変わっていく。

ときに、人の心に闇ができるように、おにの心にも闇ができる、闇にのまれたおには悪い言霊を使い、闇にのまれた人もまた悪い言霊を使い争いを巻き起こした。嘘は必ずバレ、ほとんどの者は裁かれるのだ。


クロノスケは帰ったあとミツに謝り、ミツに投げ飛ばされたが、ウラノスケとセイスケが大笑いをして二人を握手させて仲直りをさせた。父のかわりに、母にもこってりと絞られ、まだ9歳のクロノスケは母と共に主様のところへ出掛け謝った。時置師トキオカシのところへは自分ひとりで出掛けた。

「翁。。。」

小さな茶屋くらいの小屋に翁は一人で住んでいて、誰にも見られることはなかった。


。。。フォフォフォ。青いのぉ、青竹よのぉ


シワシワの顔を愉快そうに崩し、袖で口元を覆っている。声は直接頭に響いてくる。


。。。お主は時の狭間に行き役目を果さねばならぬ。このようなところで、闇に引っ張られるのではない。さぁ、クロノスケ。お前とお前の兄は見事に闇を光に変えたのじゃ。第一戦はお前らの勝ちじゃ。クロノスケ。我が愛弟子よ。良いものを見せてやろう


クロノスケは気がつくと森の小道にいた。笛の音が遠くから聞こえてくる。木漏れ日が落ちる山道を笛の音を頼りに登っていく。山道を登り切ると太陽が眩しく照りつけた。笛の音は続く、さらに歩いて行くと石がたくさんある木陰の小さな広場へと出た。見たことのない服装の黒髪の少女が笛を吹いていた。ざわざわと風が巻き起こり、笛もそれに合わせて力強く響かせ。何かが、上昇したような気配がした。笛を口から離し、上昇した何かを見送るような素振りを見せた。こちらに気がついた少女は、少しキツめの目を大きく瞠り、顔を真っ赤にして走り去ってしまった。その後ろ姿を呆然と見送った。

「未来が少し、楽しみになったと思わないかい」

その声にふと見上げると、主様が隣に立っていた。クロノスケは、その言葉に

「はい!未来が楽しみになる最高の贈り物です」

と、返した。クロノスケは、未来でまた会えると口元で笑った。


。。。セイスケ。時の狭間では女なんだな


今はミツの兄。時の狭間ではミツの姉かな。笑いが止まらなかった。

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