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《無敵チート》で異世界無双!~猛毒茸だってドラゴンだって俺の体に傷一つ付けられない~  作者: 長尾隆生@放逐貴族・ひとりぼっち等7月発売!!
アブリルへの道

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第8話 陽気な吟遊詩人と港町の噂

 昨夜の襲撃騒ぎなどまるで嘘のように、朝の森は穏やかな陽光と鳥のさえずりに満ちていた。

 俺たちは簡単な朝食を済ませ、燃え残った焚き火を丁寧に消すと、早々に野営地を後にした。

 街道脇に転がしておいたならず者たちの姿は、いつの間にか消えていた。

 誰かが衛兵に突き出したのか、あるいは自力で逃げたのか。

 まあ、どっちでもいい。


「アンリ様、昨日の人たち、もういませんでしたね……」


 肩の上でサンテアが少し心配そうに呟く。

 昨夜の出来事は、彼女にとってかなり怖い経験だったようだ。

 腕の中のギンも、まだ少し警戒しているのか、時折周囲に鋭い視線を送っている。


「ああ、もう大丈夫だろ。あんな奴ら、二度と俺たちの前に顔は見せられないって」

「だと良いのですが……」

『油断大敵じゃぞ、アンリヴァルト。あのボルボンという商人のような執念深い輩は、一度や二度の失敗では諦めぬものじゃ』


 エルラードが釘を刺すように言う。

 まあ、女神の言うことにも一理あるかもしれない。

 用心するに越したことはないか。


 そんなことを考えながら街道を進んでいると、前方から軽快な音楽が聞こえてきた。

 リュートか何か、弦楽器の陽気な音色だ。

 それに合わせて、楽しげな歌声も聞こえる。


 音のする方へ目を向けると、道の向こうから一人の男が歩いてくるのが見えた。

 年は二十代後半くらいだろうか。

 鮮やかな緑色の上着に、ぴったりとした黄色のズボン、頭には羽飾りのついた帽子という、かなり派手な出で立ちだ。

 背中にはリュートを背負い、手には小さなタンバリンのような楽器を持って、ステップを踏みながら陽気に歌っている。

 いかにも旅芸人か吟遊詩人といった風体だ。


『なんじゃ、騒々しい奴じゃな』

「面白そうな奴じゃん」


 男は俺たち一行に気づくと、歌と演奏をぴたりと止め、パッと人懐っこい笑顔を向けた。

 そして、軽やかな足取りでこちらに近づいてくる。


「やあ、旅のお仲間さん! ご機嫌いかがかな? こんな素敵な朝に、可愛いお嬢さんと、おっと、これはまた珍しいお連れさんと一緒とは、羨ましい限りですな!」


 男は芝居がかった口調で、流れるようにそう言った。

 その笑顔は屈託がなく、胡散臭かったボルボンとは対照的だ。


「あんた、吟遊詩人か何かか?」

「いかにも! 私は愛と自由、そしてちょっぴりの真実を歌い紡ぐ吟遊詩人、レオと申します! 以後お見知りおきを! あなた方は?」

「俺はアンリヴァルト。こっちはサンテアと、ギンだ」

「アンリヴァルト殿に、サンテア嬢、そしてギン殿ですな! どうぞよろしく! ところで、アンリヴァルト殿たちも、この先の港町アブリルへ?」

「ああ、そのつもりだが」

「おお、それは奇遇ですな! 実は私もアブリルを目指しているところなのですよ。いやはや、これも何かのご縁! よろしければ、次の宿場町までご一緒しませんかな? 道中、退屈しのぎに歌でも聞かせますぞ!」


 レオはウィンクしながらそう提案してきた。

 おしゃべりで陽気な男だが、悪い奴ではなさそうだ。

 それに、道連れがいれば、サンテアやギンの気分転換にもなるかもしれない。


「まあ、構わないけど。ただし、俺の足は速いぞ?」

「ほほう? それは楽しみですな! 私の健脚も、なかなかのものですぞ!」


 こうして、俺たちの奇妙な一行に、陽気な吟遊詩人レオが加わることになった。

 レオは言葉通り、リュートを奏でながら様々な歌を歌ってくれた。

 英雄譚、恋物語、滑稽な失敗談など、そのレパートリーは豊富で、サンテアとギンはすぐに彼の歌の虜になった。


『ふん、俗っぽい歌ばかりじゃな。もっとこう、神々の偉業を讃える荘厳な叙事詩とかは歌えんのか?』


 エルラードだけは相変わらずだが、それでも普段よりは口数が少ない。

 もしかしたら、彼女もレオの歌を少しは楽しんでいるのかもしれない。


 レオは歌の合間に、様々な町の情報や噂話も聞かせてくれた。

 彼は仕事柄、各地の情報に精通しているらしい。


「アブリルですか……あそこは活気があって良い港町ですが、最近は少し物騒な噂も多いですな」

「物騒な噂?」

「ええ。なんでも、霧の深い夜になると、沖合にボロボロの『幽霊船』が現れるとか……。それを見た船は必ず不幸に見舞われる、なんて船乗りたちは恐れているようですな」


 幽霊船、か。

 ボルボンを追っ払った夜も、霧が出ていたような気がする。


「それから、町の高台にある海の神殿。あそこも色々曰く付きでしてな。今の神官長は金に汚いと評判ですが、神殿の奥深くには、古代の海の神が残したという秘宝が眠っている……なんて伝説もあるんですよ」

『秘宝じゃと!?』


 エルラードがすかさず反応する。

 サンテアの口調が僅かに変わったことに、レオは一瞬気づいたような素振りを見せたが、すぐに笑顔に戻って続けた。


「ええ。まあ、ただの伝説でしょうけどね。誰も見た者はいませんから。ああ、それと、アブリルといえば魚市場ギルドですな。あそこのギルド長は強欲で有名で、漁師たちを泣かせているとか……。まあ、どこの町にも悪い噂の一つや二つはありますからな、はっはっは!」


 レオは明るく笑うが、その内容は、アブリルが決して平和なだけの町ではないことを示唆していた。


 レオは俺の肩の上のサンテアや、腕の中のギンにも気さくに話しかける。

 特にギンには興味津々のようで、「いやはや、本当に珍しい。銀色の毛並みもさることながら、この賢そうな瞳! もしかして、どこかの貴族様が逃がした特別な魔獣では?」などと言っていた。


 俺は適当にはぐらかしたが、レオは俺の尋常でない雰囲気や、ギンの特殊性にも薄々気づいているのかもしれない。

 だが、彼はそれ以上深く詮索することはなく、あくまで陽気に、旅の仲間として接してくれた。


 その日の夕方、俺たちは街道沿いの比較的人通りの多い宿場町に到着した。

 アブリルまでは、あと二日ほどの距離だ。


「さて、私はここで一晩歌って、少しばかりおひねりを稼がねばなりませんので。アンリヴァルト殿たちとはここでお別れですな」

「そうか。まあ、道中楽しかったな。達者でな」

「ええ、アンリヴァルト殿たちも! サンテア嬢、ギン殿、またどこかで! きっと、アブリルで再会するような気がしますぞ!」


 レオはそう言うと、再びウィンクし、リュートを抱えて町の広場の方へと消えていった。


「行っちゃいましたね……なんだか、あっという間でした」


 サンテアが少し寂しそうに言う。


「ああいう奴は、またひょっこり現れるかもしれないな」


 俺はレオが消えた方を見ながら呟く。

 陽気で掴みどころのない男だったが、悪い奴ではなかった。

 アブリルで再会するかどうかはわからないが、もしそうなったら、また面白い話が聞けるかもしれない。


『ふん、騒々しいのがいなくなって清々したわ。それよりアンリヴァルト、あの神殿の秘宝の話、気になるのう……』


 エルラードは早速、神力回復のことしか頭にないようだ。


「はいはい、わーってるよ。アブリルに着いたら、まずは美味い魚食って、それから神殿とやらに行ってみるか」


 俺は大きく伸びをすると、宿を探して歩き出した。 港町アブリル。 そこでは一体どんな出来事が待っているのだろうか。 幽霊船に、秘宝伝説、強欲なギルド……。 どうやら、退屈しない旅になりそうだ。

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