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エピローグ

さあ、切符をしっかり持っておいで。

おまえはもう夢の鉄道の中でなしに、ほんとうの世界の火やはげしい波の中を

大股にまっすぐに歩いて行かなければいけない。(※)


― 宮沢賢治『銀河鉄道の夜』 ―

 “普通の人生”のレールから脱線して、目覚まし時計のアラームとほぼ無縁の生活になった俺は、久しぶりに端末の通知音で叩き起こされた。通知音は相手ごとにカスタマイズしてあるから、チャットにコージのメッセージが届いたのだとすぐ分かる。「生きてるか」だって?言われてみれば俺からもメッセージを送った覚えがなかった。当落発表の日を境に連絡が来ないのはコージにとっても同じだったのだ。自分でも気がつかないぐらい、俺はメンタルをやられてた。メッセージに添付されているURLのリンク先は、第一志望だった学校の秋期入学案内ページ。そうだ。生きてる限り“次”がある。


 ところで、フォアシュテルングとソムヌスの一件に巻き込まれて以来、変な夢を見たらひとまず妹に打ち明けておき、バカにされるのは覚悟の上で、いざというとき俺の正気を保証してもらうつもりでいるが、今回の夢には意外な元ネタがあることが分かった。

 俺の話を聞くなりネムが自室から掘り出してきたアニメ映画……『銀河鉄道の夜』!!星々が瞬く冥府の旅路に猫二匹、改めて思い返すとそっくりすぎる(まあ元ネタと違って俺がフォアシュテルングで二匹とも助けたけどな)。珍しく想い出話に花が咲いた俺達兄妹は、むかし一緒に観たときどっちが泣いたか言い争ったあげく即興のリバイバル上映をやることになり、結局“さそりの火”のエピソードの頃には二人ともボロ泣きだった。結末まで知ってるのに!!

 あの夢はきっと、アニメ版をきっかけに原作童話を読んだきり忘れたと思い込んでいた、俺の記憶の中のブルカニロ博士が見せてくれたのだろう。俺も自分の切符をしっかり持ってなくちゃ。


 ……というオチで納得しかけたのだが。


 相変わらず野良猫が俺を睨むので、まさか、と思っていたら、夢の世界に取り憑く猫人間の幽霊が増えてしまった。なんでも、ルナの祖父母が冥界のお偉いさんに直訴したおかげで、ルナもセネトも飽きるまで人間界に居続けていいことになったそうだ。《ウンネフェル》達には今のところ、夢に現れる《うねうね》の退治を手伝ってもらっている。俺とルナの世界は繋がりっぱなし。“カタルシス・イーター”との戦いをほったらかしにして逃げてきただけなのだから当前だ。あいつが俺達の次元に飽きもせずちょっかいを出し続ける限り、これからもいろいろひどい目に遭わされてカタルシスを提供するはめになるのかもしれない。

 俺のせいで新たな餌場を知った《うねうね》は、疲れた心の隙間から誰の夢にでも忍び込んでくる可能性があるらしい。もしも猫に睨まれたり、夢で黒いおたまじゃくしや猫人間を見かけたなら、要注意だ。


おわり

(※)引用文献:

筑摩書房『エジプト神話集成』(訳)杉勇/屋形禎亮

中央公論新社『意志と表象としての世界 Ⅲ』(著)アルトゥール・ショーペンハウアー(訳)西尾幹二

岩波文庫『童話集 銀河鉄道の夜 他十四篇』(作)宮沢賢治(編)谷川徹三


参考文献:

河出書房新社『図説 エジプトの神々事典(新装版)』(著)ステファヌ・ロッシーニ/リュト・シュマン=アンテルム(訳)矢島文夫/吉田春美

弥呂久『図説 古代エジプト誌 神々と旅する冥界 来世へ』《前編》(著)松本弥

日本ヘラルド映画『銀河鉄道の夜』(原案)ますむらひろし(監督)杉井ギサブロー

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