謎の男、ライオネル
左大臣の本音がダダ漏れしてる。
予想通り、ヒロインに恩を売りまくって、最後は有無を言わせず自分のものにする気だ。
そのシーンがないのは、ユーザー離れを懸念してだろうか。
「左大臣。
王子の婚約者に、あまり近づきすぎてはなりません。」
ライオネルが、左大臣を止めにきた。
・・・、このゲームの一番の謎の存在ライオネル。
この人がレモニーを、悪女にした実行犯。
私はライオネルを見た。
ヒロインの攻略対象ごとに、必ずその攻略対象キャラクターの侍従となり、服装と髪型が変わる異色のキャラ。
今回はティモシー王子が、ヒロインの攻略対象なので、青と白を基調としたファッションと、サラサラの黒い髪を後ろで一つに束ねている。
怜悧な男と言った雰囲気で、片目に海賊のような眼帯をしている。
未だに攻略対象キャラクターとして、解放されていないシリーズ屈指の美形キャラ、ケルフェネス王子の原型と言われたイケメンキャラだ。
恋愛ゲームて、こんな天敵みたいな人までイケメンなのよね。
「おお、ライオネル。
すまんでおじゃる。」
左大臣も、大人しくなった。
ライオネルの言うことは、すぐ聞くようね。
奥の方から、ケルフェネス王子が心配そうにこちらに歩いてきた。
ヒロインに近づくキモキャラに、不快感があるようだわ。
「ライカ姫、御用はなんでしょうか。」
ケルフェネス王子は、ライカに話しかけてきた。
「ティモシー王子が、この事件の真相を解くために、ケルフェネス王子が持つ毒入りのワインを持ってきていただきたいそうです。」
ライカが、答える。
ケルフェネス王子は首を傾げて、
「真相?
レモニー・ケルが、贈りつけたのでしょう?」
と、言うので、ライカはすかさず、
「いいえ。
それが違うのです。
どうやら、レモニー様を陥れようとした人物が、彼女を公式に葬るために、そのような真似をしたようなのです。」
と、言った。
ライオネルと、左大臣の動きがピタリと止まり、ライカをじっと、見つめている。
「ライカ様・・・。」
ライオネルが冷たい目で、ライカを見ると声をかけてきた。
「なぜ、そのようなことをおっしゃるのです?」
「レモニー様が、私たちにワインを贈呈してくださったのは、婚約祝いのためです。
なぜ、使節団の方にもレモニー様のワインが届けられたのか、おかしいと思ったからです。
何者かの意図を、感じずにはいられません。」
「友好の証として、では?」
「使節団は国を代表しているはずです。
ケルフェネス王子は、隣国シャトラの王子。
そのような方々に、いくら右大臣の娘とはいえ、王にも無断で友好の証を贈呈?
賄賂か何かだと、誤解されかねませんよ。」
「レモニー様は賢い方ではなく、作法や儀礼にも無知なところがあるお方。
ついでに贈られたのかも。」
「では、毒入りワインで、彼女は何をしようとしたんです?」
「ライカ様や、ティモシー王子を困らせたかったのかもしれません。」
「これまでの彼女の嫌がらせとされたものは、直球のものが多かったですわ。
ドレスを汚されそうになったり、薬を盛られたり、誘拐も、街ごと焼き殺されようとした時も、必ず標的である私がそこにいたのです。
その例にならうなら、私たちに贈られたワインの方にこそ毒が入っていないとおかしいのです。」
「全て阻まれているので、やり方を変えたのかもしれませんよ。」
「ここにきて、いきなり?
レモニー様は賢くないのでしょう?」
ライカの意見に、ライオネルの表情が少し陰る。
ケルフェネス王子は、黙ってやりとりを見ていた。
「ライオネル、ならばなぜ、このワインが毒入りだとあなたは知っていたのですか?
使節団の誰も、飲んでいなかったのでしょ?」
ライカは質問を畳み掛ける。
「レモニー様からの贈り物だと伺いまして、よもやと思ったのです。
これまで何度も、あの方に関わる悪事を、阻止するお手伝いをしてきましたから。
間に合ってよかった。」
ライオネルは、淡々と話す。
何も知らないものが聞けば、騙されてしまいそう。
ケルフェネス王子も、ライオネルの話に特に疑問はなさそうな顔をしている。
「レモニー様が、毒入りのワインを使節団に贈ったりなどしてはいないと、おっしゃってます。
あくまでも持ってきたのは、ティモシー王子の部屋にある一つだけだと。
双方の話が食い違うのです。」
プレイヤーのライカは食い下がる。
「本人がそう、おっしゃったのですか?
逃亡中と伺っておりましたが。
レモニー様は、ティモシー王子のところにいらっしゃるのですか?」
ライオネルの目がギラリと光った。
その時、重要な分岐点の時になり始めるBGMが、流れてきた。
これはよく初見殺しと言われる、選択を誤れば、即ゲームオーバーになる時に流れる曲だわ。
ライカが拳を握りしめるのが見えた。
彼女もわかっているのね。
「・・・そうです。
彼女は、やってもいないことで捕まるのはお嫌だそうです。
私もそれには賛成です。」
少しライカの声が震えている。
今のシナリオは私も彼女も経験がない。
ネットにも先駆者がいない。
つまり、誰も正解がわからない。
BGMが鳴り止む。
これからどう展開するかで、今の選択が正しかったかどうかがわかるはず。
「あの性悪な悪女を、ライカ様は庇うのですか?
あれだけの目に遭わされて。」
ライオネルが目を細める。
「確かに、私は色々な嫌がらせを受けました。
そして、その度にティモシー王子に助けていただきましたわ。」
「ええ。」
「でも、聞いたことがないんですわ。
レモニー様が、自分が指示したことだと。」
「そんなことを、あからさまに認める悪女など、おりません。
それより、ティモシー王子のところにレモニー様がいるのであれば、再び逃亡する前に確保せねばなりません。」
ライオネルの厳しい口調に、私は体が震えそうになるのを、必死で耐えた。
今ここで正体に気づかれたら、問答無用で処刑ルートに進むはずだ。
「彼女は逃げません。
先程はケルフェネス王子に、刃を突きつけられて怖くて逃げ出しただけ。
彼女は、自分の無実を訴えるために彼女の意思で戻ってきました。」
「信じるというのですか?」
ライオネルが片眉を上げてライカを見る。
「えぇ。」
そこにケルフェネス王子が、声をかけてきた。
「私はこの国に来て日が浅い。
レモニー・ケルの悪評は確かによく耳にする。
ライカ姫への非道な仕打ちも、非難されるべきことだ。
だが、なぜここまでの悪女が野放しにされてきたのだ?」
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