姿を見せる黒幕
私は、プレイヤーであるライカと共に、ケルフェネス王子の元へと歩いていく。
皆、ライカは気にするけど、侍女の格好をした私に、注意を払う人はいなかった。
確かにゲーム画面において、メインキャラクター以外で、理由もなく注目されることはない。
「あなたの言った通りね。」
ライカが道々、小声で話しかけてくる。
「え?」
「こんな展開、今までなかったもの。
大体今頃は例の左大臣に呼び出されて、ワインを彼が飲み干すシーンに入ってるのよ。」
そう言われて、私も自分の記憶を探る。
確かに、そうだ。
「これは、新たなシナリオが開くフラグが立ったのかもよ。
そんなに難しくないのかも。」
と、ライカが嬉しそうに話すが、私は不安が拭えない。
「キーアイテム欄は、あといくつ空いてます?」
「あと、2つよ。」
「2つ・・・。
一つは毒入りのワインだとして、もう一つはなんでしょうね・・・。」
「そうね・・・、左大臣の敗北宣言、とか?」
「そうならいいんですけど。」
「大丈夫よ。
少なくとも、ヒロインの私が一緒にいる限りは。
恋愛ゲームは、ヒロインに都合よくできてるものよ。」
「はい。」
「ふふ、でも、あのレモニーとこんなふうに話せるなんて。
本当に面白いわ。」
「会話の成立するようなキャラクターじゃ、ありませんでしたものね。」
「!!」
ライカが、ケルフェネス王子の部屋の前で、急に立ち止まる。
「なんです?」
「重要なイベントが起こる表示がでたわ。
『ここでこれまでの記録を、保存しますか?』
と、文字が表示された。」
「え!?」
私は背筋が冷えてきた。
つまり、中に左大臣とライオネルがいるのかもしれない。
ヒロインはやり直しがきくだろうけど、私はどうなるんだろ。
私もまた戻って来れるなら、怖がらなくてもいいけど、私にやり直しはない気がする。
「・・・保存してください。」
「そうね。」
「あの・・・。」
「ん?」
「もし、失敗して保存したところからやり直した時には、レモニーはもう元のレモニーかもしれません。」
「え。」
「あの、たとえあの嫌なレモニーでも、必ず彼女の無実を晴らして下さい。
そして、トゥルーエンディングを必ず見てくださいね。」
「な、何よ。まるで遺言じゃない。」
「私はあなたのように、外から参加してるわけではなく、転生している存在なので、おそらく、やり直しはききません。」
「・・・。」
「あの・・・?」
「大丈夫よ。」
「え?」
「見たところ、あなたも何回もこのゲームしてるんでしょ?」
「え?
ええ、それはもう。」
「攻略対象キャラクターは、全員制覇?」
「はい、一応。」
「てことは、最低でも5周はしてるのね。」
「そうですね。」
「私は、このティモシー王子が一番好きでね。
彼のために4周頑張って、他のキャラクターを攻略して、課金して、この容姿のアバターを揃えたの。」
「ということは、この周で全員制覇なんですね。」
「そう。
だから、左大臣に奪われる結末なんて、死んでも嫌。
だからこそ、絶対トゥルーエンディングまで辿り着くわよ。」
「はい。」
「それにね。
あなたが演じるレモニーが、どうなっていくのか、私は見てみたい。
いい形で、あなたに主役をバトンタッチしてあげるわ。
その代わり?」
「はい。
ヒロインを立てるために、悪役します。」
「よろしい。
さ、保存は済んだわ。
私たちは、このゲームのベテランよ?
必ず勝つわよ。」
「はい!」
とにかくやってみよう。
ライカは、ケルフェネス王子の部屋をノックした。
「ケルフェネス王子、ライカです。」
中から、ケルフェネス王子の戸惑う声が聞こえて、扉が開かれる。
「失礼します。」
私とライカは、部屋の中に足を踏み入れた。
中にいたのは・・・。
ケルフェネス王子と使節団の人々。
それから・・・。
「おお、ライカ姫でおじゃるか!?」
「・・・。」
左大臣と、ライオネル。
「ご、ご機嫌よう。」
左大臣にライカが、挨拶をする。
「今日も一段と綺麗でおじゃるなー。
まろは、嬉しいでおじゃる。
婚約パレードも、滞りなく終えられてあとは、王子との結婚式を、待つばかりでおじゃるなー。」
くねくねと体を捻って、相変わらずキモい。
私はあまり顔を上げないようにして、様子を伺っていた。
「左大臣、どうしてここへ?」
と、ライカは尋ねる。
「ケルフェネス王子とその使節団に、なんと毒入りのワインが届いたそうでおじゃるなー。
放っておけば、外交問題に発展しちゃうでおじゃる。
王様の耳に入れる前に、調査してるんでおじゃるよ。」
「ライオネルもいますね。
なぜ?」
と、言うライカの視線を受けて、ライオネルが軽くお辞儀をするのが見える。
「ライオネルは、ケルフェネス王子に危機を知らせたそうでおじゃる。
元々まろの、有能な部下であったでおじゃるからな。
調査に参加してもらってるでおじゃるよ。」
「ライオネルは、今はティモシー王子の侍従のはずなのに、ティモシー王子にちゃんとお断りされてます?」
「硬いこと、いいっこなしでおじゃるよー?
外交問題になるかどうかの瀬戸際に、そんな小さなことは、意味をなさないでおじゃる。
毒入りワインを、レモニーが贈りつけたそうでおじゃるからな。
ちゃーんと捕まえて、罪を明らかにせねばならぬでごじゃる。」
言いながら左大臣は、一歩、また一歩ヒロインに近づいてくる。
「ライカ姫。
まろは、姫の障害となるものは、ぜーんぶ取り除くでおじゃる。
姫の敵となるもの、姫の輝きを阻むもの、姫の美しさを妨げるもの、姫の負の要素になるものは、平らげてあげるでおじゃるよ。」
見ているだけで、鳥肌立ってきそう。
ライカは全身総鳥肌みたい、気の毒に。
「それが、レモニー様を捕まえることですか?」
ライカが左大臣に質問する。
「もちろんで、おじゃる。
レモニーさえいなくなれば、ライカ姫を傷つける存在はいなくなるでおじゃる。
晴れてライカ姫は、この世界で一番輝く最高の女性になるでおじゃるよー?」
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