帰還
「君が存在するゲームの世界は、完全に命を持ったということ。
異世界が誕生したんだ。」
そ、そんなことあるの?
機械が意識を持つようなもの?
映画でよくあるような?
「どうしてそんなことが起きたの?」
「原因は君だ。
僕たちは、君が現実のレモニカの生まれ変わりであると結論づけた。
理由は、他のプレイヤーのレモニーにはない、あの悪夢のシーン。
あれだけは、君にしかないんだ、レモニー。」
そ、そういえばライカも言ってた。
他のプレイヤーのレモニーたちには、起こらないことだと。
「でも、私はいきなりこのゲームの中に宿ったわけじゃないわ。
普通に・・・、現代に生きる日本人のプレイヤーとしてこの恋愛ゲームもやっていたという前世の記憶があるの。」
「そうみたいだね。
でも、子供時代を日本で過ごしていた記憶はないんだろ?」
「え、えぇ・・・。」
「実はね、このゲームを作っていた時に、レモニーのキャラクターデザインを担当していたのが、欧州で生活していた日本人の女性スタッフだったんだよ。
名前は檸檬。」
「!!」
「檸檬は体が弱い人だけど、レモニーになりきって日々奮闘していた。
自分をレモニー・ケルと呼んでというくらい、はまっててね。
彼女も、君のようにレモニカの悪夢を見ていたそうだ。
レモニーにはまりすぎたのが原因だと笑っていたけど、そうではなかったんだと思う。
ある日とうとう体調を崩した。
だから実家のある日本に帰ったんだ。
せめて配信されたゲームをやって、自分がデザインしたレモニーの出来を確かめる、と言ってた。
でも、最近亡くなってね。
彼女は君の直近の前世だ。
レモニカから彼女になり、ゲームのレモニーへと魂が転生していったのだと思う。」
「そう、『檸檬』。
『橘檸檬』。
名前だけは覚えてる。
制作スタッフの一人・・・。
だ、だから私、この部屋やあなたに見覚えがあるのね・・・。」
「そうだね。
元々このゲームの設定でも、レモニーはレモニカの生まれ変わりという位置付けだったが、君は現実のレモニカの生まれ変わりであり、制作スタッフの一人、橘檸檬であり、ゲームの中のレモニーに転生した存在なんだよ。
嬉しいよ。
そんな人に出会えたことが。」
「じ、自覚がなくてごめんなさい。
ほとんど覚えてないの。」
「いや、いいんだ。
そんな君がこのゲームの世界で、幸せや充実を感じてくれたことが、何より嬉しい。
そして本物の異世界へと、生まれ変わらせてくれたことに感謝しかない。」
「クランシー・・・。」
「それにね、転生は君だけじゃない。
ライオネルもおそらく、現実のライオネラが宿った可能性がある。
彼の数値もまた、最初にプログラムされたものとは違う現象をみせているんだ。
レモニカの魂を追ってきたんだろう。
今度こそやり直すために。」
「え?
彼も?
じ、じゃ、私たち二人で来たの?」
「おそらくね。
二つの魂の影響も、異世界化に関係していると思うよ。
君らが存在するこの恋愛ゲームだけは、周りのキャラクターたちも、もはやプログラムされた人形ではなくなっている。
ライオネルと触れ合った君なら、よくわかってるんじゃないのか?
彼の体はCGなどではなかったはずだ。
もはや生身の人間のそれだと。
たとえ、時間の流れや怪我の治りの早さや、体力的なことなど、諸々のことに現実と同じ制約がないにしてもだ。
もう血の通った人間たちなんだよ。
ライオネルも、シャーリーンも、みんな。
もちろん君自身もそう。
そして、彼等は君を心から愛してるんだよ。」
「・・・!わた・・・し・・・。」
「戻りたいんだろ?
レモニー。
レモニカとして生きる必要はない。
橘檸檬も忘れていい。
帰るんだ。
君の現実に。」
「最後に一つ。
レモニカの悲劇を回避するような筋書きにしなかったのは、なぜ?」
「知っていてほしかったから。
かつて他人の思惑に流されて、偏見と決めつけによって死んでいった女性がいたことを。
愛する人がいても、守れないことがあることを。
現実には、何人も魔女狩りで死んでいるんだ。
あのシーンは、他のプレイヤーの間でも賛否両論だ。
ゲームなんだから幸せにするべきだってね。
でも、僕はそうは思わない。
後世の人間が繰り返さないためには、外せない話だから。」
「・・・そうね。
忘れないためには、それがいい。」
「時間だ、レモニー。
今はライカが必死に君を生かし続けている。
レマニカルが効いて君は息を吹き返す。
この世界に宿ってくれてありがとう。
・・・そしてさようなら。
元気でね。
今度こそ永遠に幸せであってくれ。」
「クランシー、ありがとう。」
風景がぼやけて、その場面が遠くなって行く。
再び暗闇に包まれて、遠くで誰かが呼ぶ声が聞こえてきた。
うっすらと光を感じて目を覚ますと、涙目のライオネルと、シャーリーンが見えた。
瞬きをすると、ライオネルが抱きしめてくる。
「よかった・・・。
また、失ったかと・・・。」
と、ライオネルは言った。
「うわーん!
レモニー様!
レモニー様がいなかったら、私生きていけません!!」
と、シャーリーンも大泣きしている。
「ごめん・・・ね。
心配かけて・・・ごめん・・・なさい。」
力が戻ってきて体を起こすと、燃え上がる処刑台が見えた。
「私どうやって・・・。」
手元を見ると、少し焼け焦げたライカの手紙があった。
『レモニー?
レモニー生きてる!?
あれから、私色々やって、あなたの体を動かしたの!
あなた・・・!
ゆっくり動いてくれて!
レマニカルも齧らせた。
少しずつ体も前に進んで・・・、ドレスは少し焼けたけど、一定距離進んだらライオネル達が来てくれて・・・。
もう、この最後のミニゲームが一番きつかった!!』
ライカの文字に思わず吹き出す。
ミニゲームなんだ・・・。
ライフがなくなる前に、クリアしたら助かるやつね・・・。
ありがとう、ライカ。
『どこに行ってたの?
私、あなたが戻ってこないから、死んだのかと・・・。
シャーリーンと、ライオネルたちの悲痛な声に必ず戻るから!て、ここで叫んでたの。
うう、レモニー。
愛する人たち泣かせちゃダメよ!』
ごめんね。私、ここにいる。
「ただいま・・・みんな。」
そう言ってライオネルを見る。
ライオネルは、ライオネラの生まれ変わりということは・・・。
「もしかして、ライオネラの記憶があるの?」
私の言葉に、ライオネルは一瞬驚いたけど、
「レモニー様と過ごすようになって、時々夢に見てた。
その度にもう失うまいと・・・。
でも、俺はライオネラじゃない。
俺は・・・俺はライオネルだ。」
と、言った。
私も頷いた。
「私もレモニカじゃない。
私はレモニー。
レモニー・ケル!」
そう言ってお互い抱きしめ合う。
シャーリーンが私たちを見て泣きながら、
「もう、あのミア第二王妃!いや、ダリア!
見つけたらただじゃおかないんだから!」
と、言った。




