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パティスンの手記

パティスンの手記は、代筆ジョンと書いてある。


おそらく、もう書く力がなかったのね。


私はライオネルとシャーリーンと、一緒に手記を読み進めた。


『血生臭い後継者争いに終止符を打とうと、兄、ライオネラは王室を去った。


私は皇太子となり、この騒動は収まったに見えたが、末っ子のティムの母親である、ダリア第三王妃は、(あきら)めきれないようだった。


即位の順番がどう考えても、回ってこないからだろう。


彼女は、謀略(ぼうりゃく)を張り巡らせ、私だけでなく、他の妹や弟たちを、事故や(やまい)(よそお)って(ほうむ)ろうと動いている。


王は彼女のそんな暗い面を見ようとせず、これすら乗り越えてこそ王だと言い張って、手を出さない。


私は身を守るため、兄の恋人であるレモニカを頼った。


彼女は隣国で悪女の噂があったが、どうやら薬草の知識に長けていたため、その国の医者連中に、商売敵のように思われて、()らぬ噂を流されていたようなのだ。


金を払えない貧乏人を治療していただけなのに、ひどい話だ。


レモニカは聡明な女性で、毒の見分け方を教えてくれた。

匂い、色、味、それから、銀を使った色の変化による毒の見つけ方など。


その知識は、私や兄妹たちを幾度(いくど)となく救ってくれた。


だが、ダリア第三王妃が彼女を見逃すはずもない。


そのうち、ダリア第三王妃の密偵にレモニカの存在がばれて、彼女は標的になってしまった。


私はレモニカと兄に忠告して、(ひそ)かに国外へ逃そうとしたが、魔女の噂をいち早く流されて、パム村から出れなくされてしまった。


おまけに私は、薄めたヒメボレトを知らぬ間に飲まされ、レモニカを襲ったようなのだ。

侍従のジョンが異変に気付いて、解毒剤をのませてくれた。

私は正気に戻れたが、兄に申し訳なくてたまらない。


そのうち妹のキッファまで、おかしくなってきた。

王があり得ない縁談を、妹に強要しているという。


それすらダリア第三王妃の勧めた相手だというのだから、王の方こそ彼女に手玉にとられているのだ。


キッファは、ダリア第三王妃によく相談するようになった。

心配だ。

私は皇太子としての激務にさらされ、妹を気遣う余裕すらない。


そしてついに、悲劇は起きた。

レモニカが魔女として、処刑されたというのだ。

兄が王宮に免罪証明書を取りに来たので、私が王に代わってすぐに渡したのに、戻ると彼女は既に亡くなっていたという。


兄は悲嘆(ひたん)にくれ、自分が村人に助命の走り書きをした紙が複写の紙で、処刑執行書にサインを写し取られたと言っていた。


私はおかしいと感じて、あの日キッファの姿が見えなかったことを思い出し、問い詰めたら彼女は認めた。


サインの偽造を手伝えば、縁談は撤回するよう、王に進言するとダリア第三王妃に言われたという。


妹には意中の相手がいたらしく、その人にこのことがばれぬ策はしてあるという言葉にのったそうなのだ。


私はレモニカを巻き込んだことを、ひどく後悔した。


せめて彼女のために祈りを捧げ、習った毒の見分け方と、日々毒に体を慣らす訓練を怠らないようにするしかない。


そんなある日、ついに私と妹と弟たちが、ダリア第三王妃の牙にかかる日が来た。


王家の茶会で、同じ紅茶を飲んだはずなのに、私と弟と妹たちだけ、毒の症状が現れたのだ。


レモニカに習っていた、どの毒の見分け方も通用しない、全く新しい毒。


妹と弟たちはその場で亡くなったが、私はレモニカの訓練が功を奏してその場は生き延びることができた。


だがもう、()たないだろう。

毒の正体がわからねば、解毒はできないのだ。


レモニカはもういない。

彼女ならば特定できたかもしれない。

いや、だからこそ狙われたのだ。


私はジョンに命じて、あの日の紅茶の茶葉を保管させ、この手記に隠すことにした。


私の手記であることを証明するため、皇太子印も押しておく。


しかし、なぜ我々だけが毒に倒れるのか。


王も王妃たちも、親戚も皆同じ紅茶を飲んだのに。


ダリア第三王妃は、レモニカの呪いだと言っているが、末っ子ティムだけ生き残るのもおかしな話だ。


あの日といえば、茶会は外で行われた。


ティーカップにも何も仕掛けはない。


考えられるのは、あの日のために新調された肌着くらいか。


外での茶会のため、虫が来ぬよう虫除けの効果の高い薬草が繊維に織り込んであったらしく、後で聞けば私たちだけに送られたものだったという。


それ以外はいつも通りだ。

私は自分が来た肌着の切れ端も茶葉と同様、この手記に挟んでおく。


もう、目が霞んできた。


王が今頃になってすまなかったと詫びに来たが、遅すぎる。


願わくばこの国が、健やかにならんことを、いつかこの日のことを解明するものが現れてくれることを願う。


ライオネラ兄上と、赤ん坊のレイが隣国のケル家を頼って、無事に逃げ延びてくれたことだけが、救いだ。』


・・・!


「ケル家てまさか・・・。」


私はレモニー・ケルだ。

私の先祖のところへ来た?

レイ・・・レイといえば、今の茶葉栽培を最初に手がけた人がレイ・ケル。

先祖の一人は、レモニカとライオネラの子供だった!?


「レモニー様のご先祖様の一人だったんですね。」


「おそらく、弟や妹たちが全滅してから、国外へ逃げたんだろうな。

下手すると、レイまで狙われたかもしれないからな。」


「その後どうなったの?

王家は。」


「幼いティム王子が即位して、長く後見人による摂政政治が続いたんだが、政治が荒れてね。

結局ティムは、10歳になる前に亡くなった。

ダリア第三王妃は、最後まで摂政政治を手放さず、内乱が起きて、彼女は行方不明。

薔薇(ばら)の香水がキツめの女性だったそうだ。」


薔薇(ばら)の・・・ミア第二王妃もそんな香りだったな・・・。」


「まさか!150年前ですよ?」


「そ、そうよね。」


ページを捲ると一番後ろに、袋に入った茶葉と、肌着の切れ端が入っていた。


「劣化させないために、空気に触れないようにして、ちゃんと包んである・・・。」


昔の茶葉だけど、そこまで(いた)んでないわね。

さすがゲームの世界。


「レモニー様、肌着は直接触らない方がいいですよ。」


「そうね。」


私たちは、机の上に茶葉と肌着の切れ端を乗せて、眺めていた。


「私はレモニカじゃない。

これだけではわからないな・・・。」


「とりあえず茶葉の香りを嗅いでみましょうか。」


シャーリーンが軽く嗅ぐ。


「んー、いい匂い。

有名なシャトラ国のロイヤルティーですね。

私は紅茶にはうるさいんですよ?」


と、彼女はいう。


「どれどれ・・・、お、懐かしい香り。」


ライオネルもいう。


私も嗅いでみた。


「・・・、ん?これ・・・、何か混じってる。」


「そうか?」


「レモニー様?」


「かすかにニセバラ(むし)の香りがする。

薔薇(ばら)の香りのするフレーバーの役割を果たすの。

飲むのは別に毒じゃない。

ただ・・・、カゲリナ草と相性が悪くてね。

カゲリナ草は毒虫を寄せ付けないから、繊維を取り出して、羽織とかによく編み込むの。

でも、肌着に織り込んでしまうと、皮膚の大部分から成分が吸収されて、もし、ニセバラ(むし)の入ったものを飲んだら、体内で猛毒化す・・・。」


・・・!!!


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