危険な媚薬
王家のお茶会で、同じお茶をみんなで飲み、後継者候補の人だけ亡くなった。
それが、レモニカの呪いとされているのね。
おかしいわ。
レモニカは、薬草の知識に長けた女性だった。
ハーブティーにも詳しそう。
つまり、毒入りのお茶を見抜くことも、彼女ならできたのかも。
匂いや、色、味。
日記にもあったけど、パティスン王子にヒメボレトを入れたお茶を飲ませられた時も、レモニカはそれがヒメボレトであることを見抜いていた。
ということは、その時後継者達だけ殺すよう毒を仕込む計画があったとしても、彼女ならそれに対処ができる、もしくは気づくことができる女性・・・。
陰謀の主犯にとって、一番邪魔な存在だわ。
まさか・・・、パティスンが足しげく彼女の元に通ってハーブティーを飲んでいたのは、レモニカを好きだからではなく・・・。
計画に気づいてその時のために、毒の耐性をつけていた・・・もしくは毒入りのお茶を見抜くやり方を習っていたんじゃ・・・。
だから、彼だけその場は生き残った。
レモニカが日記にそう書かなかったのは・・・、もし人に見られたら危なかったからじゃないのかしら。
そこまで気をつけていても、レモニカがカラクリに騙されない人物であると、陰謀の黒幕に勘づかれて、標的になったのでは?
ついでに、恨みを込めた呪いが、後継者たちを殺したという筋書きに利用するために、今回のような形にされたんだとしたら・・・!
「ねぇ、レモニー・ケル?」
ケルフェネス王子が、考え込む私に話しかける。
「はい?」
と、私が言うと、
「やっぱりその金髪似合うよ。
君はやっぱり魅力的。
私の宮に連れて帰りたいくらいだ。
ペヤパヤ大臣、どうだろう。
彼女を私が引き取ると言うのは?」
と、言った。
「ケルフェネス王子!
相手は魔女でございます!
呪いが発動せぬうちに、船が王宮につき次第、火刑にするのです!」
と、ペヤパヤ大臣が言い放った。
「一日くらい伸ばせるだろ?
レモニカの時だって、死んでから呪いが発動したんだろう?
だから今回は、異端審問官任せにせず、王の前で正式な手順を用いて裁くんだよな?
王が最終決定しないと、勝手には出来ないし。
大丈夫、彼女を大人しく従わせる方法はある。」
「なんですと?
女好きもほどほどになさいませ!」
「火刑にする前に、兄上を籠絡した女性をゆっくり確かめたいだけさ。
ほら、これ。
ヒメボレト。
この媚薬の凄さは、ペヤパヤ大臣もミア第二王妃もご存知でしょ?」
ケルフェネスの軽口に、ミア第二王妃も顔を顰める。
「それを飲めば解毒するまで、もはやまともな判断は出来なくなるぞ。
かのパティスンと同じ道を、自分から辿るのか?
ケルフェネス。」
「あれ?
そうなるか。
じゃ、やめとくか。」
ミア第二王妃の言葉にケルフェネス王子が、牢屋から離れようとする。
「待て。」
ミア第二王妃が呼び止めた。
「もうすぐ王宮につく。
私が飲ませてやろう。
そして下手な小細工せぬよう、ケルフェネス、お前の持つ解毒薬をここに置いていけ。」
「えー。これ一つしかないのに。」
ケルフェネス王子は、そう言いながら小瓶を二つミア第二王妃に渡す。
彼女は、二つある小瓶のうち、一つの小瓶をその場で床に落として割ると、足で踏みつけた。
「ライオネルの悔しがる顔も見たかったな・・・。」
と、ミア第二王妃が、笑いながら言った。
「お前、あの女を連れてこい。」
ミア第二王妃は、ケルフェネス王子がら連れてきた従者に命じて、牢の中の私を引きずり出すと、そばへつれてこさせた。
「ミ、ミア第二王妃様?
これはどういう?」
ペヤパヤ大臣がオロオロし始める。
ミア第二王妃は、素早くペヤパヤ大臣に耳打ちした。
「王宮の者たちにも、ケルフェネスがこの女を部屋に連れ込む姿を見せておくのだ。
それこそ、レモニカに手を出そうとしたパティスンと同じになる。
王への謁見も明日で良い。
レモニーの父親である左大臣が、出て来ぬように手を回さねばならぬ。」
その言葉にペヤパヤ大臣も、納得して頷いているようだ。
・・・聞こえてるんですけど。
「悪趣味ですね、ミア第二王妃。」
ケルフェネス王子が、悪い顔で笑う。
「お前が言うな。
どうせお前は、呪いなど信じてないのだろう?
だからこんな女に、手を出そうなどと考えるのだ。
その時になって、私が正しかったと泣くことになるだろう。」
「泣くことに・・・ね。
覚えておきますよ。」
「その代わりこの女の正気を、絶対に取り戻させるな。
条件はそれだけだ。
呪われぬよう気をつけておけ。」
船が港についたことを知らせる、汽笛が鳴った。
その場でミア第二王妃に、無理矢理薬を飲まされる。
「う!!
ごほ!ごほ!」
濃いシロップのような味に、思わずむせてしまう。
涙目になっていると、そのままケルフェネス王子に引き渡される。
「明日の朝まで、部屋から出すなよ、ケルフェネス。
部屋の外は私の部下が見張る。
いいな。」
ミア第二王妃は、そう言って下船するようケルフェネス王子を促してくる。
私はむせるのが収まると、今度は体が風邪をひいたかのように震え出し、立っていられなくなってきた。
何これ・・・!
ケルフェネス王子がその様子に気付いて、さっとだきかかえると、早足で下船し、王宮の中に入っていく。
後ろから監視するかのように、大勢の兵士がついてくるのが見える。
「目を閉じて。
最初に目にした異性に強く惹かれる効能がある。
いいと言うまで、目を開けるな。」
ケルフェネス王子が歩きながら、小声で忠告してくれる。
私は固く目を閉じて頷いた。
体が熱くなってくる。
皮膚感覚まで敏感になって、服の擦れやケルフェネス王子の体温まで心地よくなってくるわ。
ケルフェネス王子の声も耳の中で反響して、うまく聞き取れなくなってきた。
「おじゃじゃ?
レモニーではないでおじゃるか?」
・・・一番会いたくない人の声だわ。
こんな状態でもわかるくらい、嫌悪感が沸いてくる。
私は、縛られた手をケルフェネス王子の首に回してしがみつくと、前を見ないで済むようにした。
「ケ、ケルフェネス王子、まろのレモニーをどこへ連れて行くでおじゃる?
あ、部屋に連れて行くでおじゃるか?
ま、まろの花嫁になる女でおじゃるよ!!
レモニー!!
まろはここでおじゃるよー!」
あー、もう!!
嫌だって言ってるのにこの人は!!
私は腹が立ってきて、少し冷静になる。
・・・それだけ嫌いなのよ、あの人は。
「煽るね、レモニー様。
熱い息がかかって、こっちまでその気になりそうだ。
兄上に渡したくなくなるよ。」
と、ケルフェネス王子は言って、軽くこめかみに口付けてくる。
それだけで全身が痺れそうになるほど、快感を感じた。
怖い薬・・・。
ケルフェネス王子に強く抱きつきながら、必死にライオネルを思い浮かべる。
周囲の人の声がざわめき、ケルフェネス王子に注目しているようだということがわかった。
「扉を開けろ!
誰も入ってくるな!」
ガチャリ!
ケルフェネス王子の声がして、扉が開く音がする。
バタン!
ケルフェネス王子は、私を座らせると扉を閉めたようだ。
「レモニー様、聞こえるか?
解毒薬を渡してしまった。
他の兄弟にもらってくるから、少しの間待ってて・・・。」
と、ケルフェネス王子がいうので、私はさっと手を挙げた。
「大丈夫、持ってます。
ライオネルにもらったんです。
ちゃんと飲むから今は話しかけないで。
も、もうそろそろ限界。
お、おかしくなってきてる。」
私は縛られた縄を外してもらうと、必死に隠していた小瓶を取り出した。
「手・・手の感覚が・・・!」
体の力が抜けてきて、小瓶を落としてしまった。
どうしよう!!
あれしかないのに!!
手探りで床に降りて小瓶を探していると、誰かにぶつかった。
「あ!」
目を開いてしまった。
そこにいたのは・・・。
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